♮122:掲題ですけど(あるいは、琺瑯/蟷螂/ぼく徒労)


 哀しいほどに大脳内に響き渡った魂の慟哭をかました後は、急激に頭の中が冷え切ってきた。右手に握った操縦桿の「アクセルボタン」をゆるゆると押し込み、僕らを乗せた「搭乗機」を進めていく。


 だが。


「……!!」


 要らん慟哭を挟んだおかげで、既に出遅れていたことに気付いたのはその数秒後のことだったわけで。


 何千人もの「対局者」たちが、悪夢もかくやと思わせるほどの様々な睦み姿態のまま、嘘くさいほどに晴れ渡る、遥か下方に雲をも望む超高空を、アクセル全開と思しき加速感でカッ飛び始める。とある一点……「ゴール」を目指して。


 尋常じゃない。尋常じゃないことは重々承知していたつもりだったけど、それを別ベクトルから凌駕してくる尋常ならざりしさだよ……


「ミサキっ、取りあえず戦略も何も無えっ!! 置いてかれたら……『半径15m』以内に対局者がいなくなった状況になっちまったら!! もうそこから『エネルギー』を補充する術が無くなるんじゃねえか? だったら取りあえずはこの流れについていくほかは無えぜっ!!」


 珍しく冷静かつ的確な推察を寄越してきた翼。少なくとも今の僕よりも「場」が見えているんだろう。チームワーク。改めて考えると気恥ずかしいけれど、そんなことを言っている場合でもない。


「わかってる!! 舵取り頼むぞっ!!」


 右手の「アクセル」を最大限まで押し込むと、僕は尻を突き上げた四つん這い姿勢のまま前を見据え、急発進に近い制動を見せた「搭乗機」に身を委ねる。途端に体全体に吹き付けて来る突風。これVRだよね? 五感全てに訴えかけて来るつもりかよ、いや何で?


「……くおおおおッ!!」


 間近に迫る対局者たちの間を、ノーブレーキで交わし追い抜いていく。翼の操縦技術……船じゃないけど、まあそういったセンス的なものに賭け、僕はアクセルを緩めることなく、頭から突っ込むスタイルで並み居る人々の群れの隙間をすり抜けながら先へ、先へ進ませていく。結構なGだ。左右に加え、上下にまで振られるその感覚までもがVRだっていうの? どんだけだよ。


 <現在順位:788/1440>


 視界の右上端に常に表示されている数字は、僕らが全体の中ほどの位置まで順位を上げたことを示してくる。いや待てよ。開始時が「1547名」だったよね……先ほど慟哭したもんね? それがもう100名がとこ減ってる……ということは。


「ヒィィィィヤッハァァァァァァッ!! 見つけたよ捉えたよレジェンドぉぉぉぉぁッ!!」


 突拍子も無いがなり声……可愛らしい少女っぽい声質ではあるものの。でもそれが異常感を煽りまくって来てるよね……かなりの確率で新手の(あるいは古株の)DEP使いだろう。そして僕狙いで来ている……? いったい、いったい誰だというんだ!!(たぶん、ろくでもないやつ)


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