♮124:失策ですけど(あるいは、物見遊山/惨/サイレントゲイザー)


<先手:43,210pt>


 何べんも言っていることかもだけど、今回の「評点」は「十万点満点」。だけど先の大会と違う所は、それ以上の評点を「買える」という点にある。評価者ひとりが最高「10pt」まで付けられるわけだけど、さらに「1pt」いくらかで取引されとるらしい……推しメンへの重課金みたいなもんか……いや違うか……いやそこはどうでもいいか……


 理論上は青天井。であるからして、このコライという名の少女の4万なんぼの評点は、実際それほど大したことはないわけであり。


 だけど、そんな油断が、窮地を招いてしまったのだった……


<後手番:着手>


 視界の前面に映し出されたその「文字」に促されるかのように、迎撃のDEPを僕が放とうとした、正にのその時であった。


「……『ぼ、僕は、小学校の頃、友達が少なくて、というかいなくて、いつも休み時間は教室の窓から出たベランダの隅に隠れるようにして縮こまり、グラウンドで楽しそうにサッカーに興じる双子の妹をうらやましく見てたんだな』……」


 翼だった。


 いや……何でお前が放つの。と言うか、そんな哀しい過去あったのね……初めて知ったけど、いや何でこんな場で知らしめられなあかん? まごうことなきDEPではあるけどさあ……ちょっとテンプレに過ぎるっていうか、うーん、何て言ったらいいんだろう。中途半端? リアル食い気味? いや分からないけど、何かもやもやが収まらんわー。


<後手:42,838pt>


 ね? こんくらいの評点でしょ? 難しいんだって。ちょっとかわいそうなリアルネタは突き抜けないんだって。


 ……とか思ってる場合じゃあ無かった。


<先手勝利:後手残エネルギー『9023ナジー』が加算>


 負けてる負けてる!! そして敗者は一発負けたら、残りエネルギー全取られるって、さっき説明があったばっかだッ!! 変な単位、とか脳の片隅によぎる無駄情報を振り払い、僕は瞬間、推力を失った「搭乗機」の状況を悟る。


 ずるずると空中を滑り出した僕と翼を乗せたパイプのオブジェチックな代物は、次の瞬間、支えを失くしたかのように自然落下を始めるわけであり。


「「おおおおおおおあああああああああッ!?」」


 はからずも僕と翼の叫び声がハモるけど。ハモっとる場合でもない。


 こんなとこで負けてどうするッ!? 何のためにこの忌まわしき鉄火場に舞い戻ってきたっていうんだぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!(カネのため)


 瞬間、僕の体に10億がとこのエネルギーがみなぎる。そして後方の翼に手早く指示を出していた。


「……ケンカ神輿だッ!!」


「がってんだいっ!!」


 僕のその言葉よりも食い気味に、翼が阿吽以上の呼吸で「舵取り」をしてくれていた。また妙なキャラだけど。そこはもいいか。


目指すは勝ち誇った顔のコライ、てめえだよ。


「!!」


 ほんの2mほど、僕らの方が「上方」だった。それが活路を見出したわけで。


「おおおおおッ!!」


 自らの搭乗機を斜め上から、コライの機に突っ込ませていく。コライの顔が驚愕に染まる前に、僕は高らかに宣言を行っていた。


「対局ッ!!」


 第二戦、拒否は……出来ないんだってさ。いくぞッ!!


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