#118:令和で候(あるいは、初っ端/机上空論/スタイラー)


 「……」


 我々の前に突然開けた光景は、何ともこちらの度肝を抜かんとするものであったわけであり。


「ようこそ、『二次予選』会場へ。案内を仰せつかっております、猫田と申します」


 通されたのは、またしても巨大な空間であった。巨大な、円形のホール。その直径は優に40セテロハーマくらいあるであろうか。中心から外周に向かうにつれてスロープを上がるようなすり鉢状の作りである。そして大樹の年輪が如くに、同心円状に並べられた「装置」らしきものが幾重にも連なっている。「装置」はどうやら搭乗するものらしい。数多の参加者たちが、その、金属製の細いパイプを縒り合せ組み合わせたかのような、奇妙な物体に身体を預けたりしてその乗り心地のようなものを確かめているのが見て取れる。


「……本予選では、今ご覧いただいています『エンデュミック=ハーフナー=パイプ』にお乗りいただき、VR空間で対局をしていただくという、そういった趣向になっております」


 先ほどから我々をエスコートしてくれている案内役……『猫田氏』と申されたか、は、澱みない英語にて説明してくれるのだが、言っている意味は皆目解らないというのが実情であった。傍らの姫様もどう対応すべきかを考慮しているのか、凪いだ真顔のままである。


「予選通過の順に、『搭乗機』を選んでいただくことになっておりました。種類は『96種』と多岐に渡るのですけれども、この選択も、この後の『対局』に少なからず影響してきますので、選択はよくご考慮なさることを助言しておきますわ」


 「搭乗機」……それらには種類があるということか。しかし、結構な種類ではある。何が有利で何が不利なのかも分からない我々にとっては、あまりここでの選択は意味の無きことのように思えなくもないが。とりあえず、促されるままに「装置」を見て回る。


「……たくさんの種類があり過ぎて、眩暈を起こしそうだ」


 正直な気持ち、どれでもいいというところであったが、丁寧に説明をしてくれている猫田氏に配慮し、そのような言葉で語りかける。


 でしたら、こちらなんかがお勧めですよー、と、我々を誘い導いたのは、やはり奇妙に折れ曲がったパイプのオブジェのような代物であったわけで。「搭乗機」と言っていたが、これに「乗る」というのか、姫様と共に?


「じゃあまず、男性の方が仰向けで横たわる感じで体を固定してくださいねー、その後で女性の方がそこに跨るように着座すると、そうそうそんな感じです―」


 流れるかのような猫田氏のナビゲーションによって、姫様と私はその装置とやらに無事「搭乗」することは出来たのであるが。


「……」


 仰臥した私の上に、脚を開いた姫様が、腰と腰とが密着せんばかりに紙一重で浮かんでいるといった摩訶不思議な状態であるわけで。姫様の両手は背後に回され、何かハンドルのようなものをつかんでいる。私も手元に突き出した操縦桿らしきものに手をやっているが。


 これが……「搭乗機」。見上げた姫様の御顔は完全なる真顔であるが、きっと私も同じような表情を浮かべていることであろう。


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