♮100:百害ですけど(あるいは、アニバサダー/ホスカルふぅぅ/ハンドレへぇぇ)


「……」


 場には何とも言えない、低温と高重力がないまぜになったかのような奇妙な力場が発生している。僕にとってはこの赤い絨毯が敷き詰められた、シャンデリアがぶる下がっているような豪奢な空間もまるきり異世界なのだけど、それをさらに攪拌するかのようにぶち入れ込んでくる、別の斜度からのベクトル。


 思い切り見栄を切られたわけだけど、残念ながらそれを瞬時に咀嚼しきる能力は今のボクには無い……んだ……っ!!


 でもなつかしい肌触り……これが、これだよこれがダメだよ……郷愁すら側頭葉に撃ち込まれてくるほどの、これはまさにのダメ。何となく、身体でも思い出してきたよ。


 しかし、眼前でキメポーズをかましたその「戦隊少女 (だろうか)」は、全身に力をみなぎらせたまま、そのピンク色の全身スーツを煌かせつつも硬直している。


 目の前で右腕を天上へと高らかに突き上げながら、マスクの目に当たる部分の黒いゴーグルのようなところは、かちりと僕の顔を見据えているかのように見えた。


 あかんロックオンされとる……僕が応対しない限り、物事の諸々を先へは進ませまいといったような強い意志を感じる……何となくは分かっていたけど、踏み入れたと感知したからには逃さねえぞスタイルだよね……


「……えーと、どこから」


 突っ込んだらいいか、直で聞こうとした僕ではあったが、真意では無い。ただひたすらにこの局面のまま凍てつくことがいたたまれないという、未だ常識人の範疇に留まりし、良識がそうさせただけのことであって。


 が。


「十億を掴むために決まっとろうがああああああああっ!! ふは!! ふははははははッ!! 並み居るレジェンダル共を屠り、栄光とッ!! 富をこの手に掴むのは、我と我の率いし、表舞台の、裏の裏、裏の舞台よりもさらに弾かれに弾かれて堕ちた、この『裏×ダイショウギ×レンジャー』に他ならぬのだあっはっはっはっはあッ!!」


 すげえな。すげえのが普通に出て来るよ。まだ対局すら始まってないのに……


 やっぱり真顔にてスルーをしようかと思った僕だったが、出を待っていたかのように、そのピンクいスーツ姿の戦隊少女の後ろに、左右からすすすと何人かの人影が擦り寄ってきたわけであり。


「『マゼンタ麒麟きりん』ッ、高迂遁タカウトン 運命音サダネッ!!」


 やっべー、名乗り始まっちゃったよ。こりゃ、今回はこれにて閉幕かな……左右を目だけ動かして確認するも、「若草さん」「賽野さん」、そして翼も、何かお約束待ちのように、凪いだ顔でその成り行きを見守る構えっぽいけど。そこはつっこまないんですね……


「『インディゴ銅将どうしょう』……杢止モクヤミ 瑞子ズイコ……」


 青い全身スーツの女性ヒトは静かにそう言う。インディゴはクール。それはまあ鉄板だね。そこは鉄板でいいんだね。


「『ダナエ白駒はっく』、矢宇宙羅ヤウチュラ ハカナ


 女性多いね。そしてオレンジって結構レア色よね、戦隊的には。など、僕ももはや達観の境地でこの一連の流れが終わるまでを流す構えになっている。


「『洞癬ウロタムシ 蓼男リグオ』、『ゲイグリーン仲人ちゅうにん』よぉん、あっはぁす」


 ジョリーさんにどことなく似た、なよる全身仕草にて、うすらでかい緑色がしなを作る。いっぱいおるなあ……


「『シメント悪狼あくろう』……食達ジキタシ 矢羽呼ヤバコなんだなこれがもう……」


 やばこ。掛け値なしにいちばんヤバそう。黒い全身スーツは、先のピンクとどっこいどっこいの小ささなのだけれど。そして、


「こいつらを束ねるのが、この私、『ロータス竪行しゅぎょう』、兎宿原ウシュクハラ 旗希ハタキさ~んせい、なんつってのぉ、悪!! 六!! 芒!!」


 最後にピンクがシメて、いま一度全員揃ってのキメポーズ。うーんうーん、もうお腹いっぱいだよぅ……


 それにしても、この世界を司る何者かは、なぜ設定とかを小出しにするという技術をいつまで経っても身に着けないのだろう……そんな世界を一歩俯瞰するような位置から、僕は場の混沌さを見つめるしか他は出来ない。


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