♮101:万度ですけど(あるいは、毎度毎度の/イツァ/ギャランティオール)


「……恐怖のあまりに、声も出ないようだなぁ~レジェンドどもッ!?」


 やっぱりのテンプレ物言いをおっ始めた、何とかなんとかと名乗っていた「ピンク色」が、両手を腰に当ててふんぞり返るという、近年あまり見かけなくなった威嚇を仕掛けてくるが。後ろの面々もそれに倣い、同じポーズを重ねて来る。なんだこの空間は。


 いやー、この一銭にもならんカラみをどういなしていくかねえ、と、僕はしばし真顔になってしまう。そんなこちらの逡巡など、あちらさん側には皆目伝わっていかないことは分かってはいるけど。


「何なら、この場で決着ケリをつけてやろうかいぃぃぃッ!? 手間が省けるってもんじゃあないのかいぃぃぃッ!?」


 「!?」を多用してくるけど、どういうキャラなんだろう。そしてどう行こうとしてるんだろう……ピンク色のオンステージ化し始めた場からは、僕ら以外は物理的心情的に皆遠ざかっていくのが肌で感じられる。勘弁してよ。


「聞いてんのかいぃぃぃッ!? ええ? ムロトミサキぃぃぃッ!? ミズクボワカクサぁぁぁッ!? お前もお前もッ!? 腑抜けた顔して、やる気はあん」


 「面倒くさい」という文字を空間に現出させて来んばかりに絡み方が堂に入っている。まだ若そうなのに……いやそれよりも心底関わり合いたくないな……僕はそんな思考を弄ぶばかりであったのだが。


 こちらを指さし、がなり立てて来るピンク色の言葉は、そこで止められた。いや薙ぎ払われたと言った方がいいか。


「……」


 隣で静観していたかのようだった若草さんが、大した予備動作も見せずにそのしなやかに見える長い右脚を振り抜いていたのである。その軌道は直線と曲線の中間の、正にの最短距離を疾駆し、その爪先が、こちらに向けられたピンク色の右人差し指が確かに存在していた場所を残像を残して通過したのであった……


 あんごるもぉぉぉぉ……ッ!? のような呻き声を上げつつ、膝から崩れ落ちるピンク色。曲がってはいけない方向に向いている人差し指を見て、再度、はごろもふぅぅずッ!? との歯の根があってないような声を絞り出しているけど。


「……ミズクボ ワカクサ『さん』、な?」


 若草さんのぬらりと前方に差し出された顔は、またしても生気も精気も抜けたがらんどうの表情を呈していたわけで。ヒギィィィっ!!


 -刹那。


 いや、それほど刹那でも無かった。日曜朝のノリで六人がとこの戦隊ヒーローに囲まれるようにして立ち尽くしていた僕ほか三名であったけれど、何か、この混沌場を離脱できる事柄が起きねえもんかな、と、ふと入り口の方を見やった。その刹那であった。


「!!」


 ……知った顔が、またおる。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る