♮075:雄大ですけど(あるいは、再びの/布屋太腕繁盛記)


 時刻4:32。朝日が間もなく姿を現そうとする頃、我々一行は間もなく目的地へと辿り着こうとしているわけで。


 仙台市を通り抜け、東北道は山道へと。新緑の季節に穏やかな天候、オープンカーにとってはこの上ないベストな状態コンディションで、真っ赤なジープは快調に飛ばしていく。


 この道程は記憶にある。二十歳の頃に初めてダメと出会った時の、その時だ。「大会」で着る「メイド服」をジョリーさんに作ってもらうため、しかしそのための布地が足りなかったため、この地に住まう服飾専門家(いや、ペンション経営が本業だったっけ)、逢流おうりゅうタツヒコさんを頼って訪れたのであった……


 あれからもう4、5年くらい経ってんだ。改めて時間の過ぎ去る速さに慄いたりしてしまうけれど。


 あの頃の僕と、今の僕。少しは変わっているのだろうか。成長しているのだろうか。あまり実感はない。


 ともあれ、またしても「大会」直前にここを訪れるという、過去をなぞっているかのような行動に、何というか、何とも言えない不穏さを感じている。今回は何とかとかいう輩どもに付け狙われていそう、という思いもあるからかも知れないけど。


「おお!! こいつぁすげえや」


 前方助手席の翼が、またそんな江戸前ばりの声を上げるものの、ここに来るのは二回目の僕でも、その威容な佇まいには感嘆を覚えるわけで。


 鬱蒼と視界を遮る木々が開けた瞬間、その木造の巨大な建物は姿を現す。


 直方体の二棟を直角にくっつけた珍しい作り。三角の屋根を携えたロッジ風の建物は、いつかと同じく、朝焼けの快晴空をバックに、悠然と屹立しているのであった。


 この雄大な光景はいつ見ても(今回で二回目だけど)、圧倒される。ペンションとして経営されているそうなんだけど、一年を通して客足が途絶えることはないと以前聞いた。それも納得の佇まいだ。


 側道からかなりのスペースの駐車場に入り、ジープから降りる。結構な数のクルマが見てとれて、バイクやらハンドルがくりんと曲がった自転車も、数々停まっている。やっぱり繁盛していそうだ。


 だだっ広い空間に立ち、東の方からの赤い陽射しの中、改めてその清浄な空気を吸い込んでみる。何か、諸々で疲弊していた体と精神が少し立ち直ったように感じられたのだけれど。やっぱり来て良かったのかも知れない。こんな穏やかな気分になったのは久しぶりだ。


 ジョリーよぉん、いま着いたと・こ、とスマホでおそらくここの主、逢流さんと話しているだろうジョリさんの言葉が終わるか終わらないかのところで、建物の入り口に暖色のライトが点灯する。


「……」


 後部座席に鎮座したままの原付ジョルノを3人がかりで丁寧に外部へと運び出し、ジョリーさんの指示により、いそいそと車体ジープ屋根ルーフを取り付けると、僕ら3人はその巨大ペンションの入り口へと向かうのであった。


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