♮074:共鳴ですけど(あるいは、全知/全有/レズナンス)
早くも
「……生まれ故郷が近づいてるとか、そういうテンプレーなことじゃないだろうとは思うけど」
流してくれとばかりに肺の中の空気と共に力無く言い放った僕だが、助手席から乗り出すようにして僕の鼻先に「それだ」の人差し指を突きつけて来る、目を見開いた自分ととてもよく似た顔に、胃もたれを禁じ得ないんだ→が↓。しかし、
「仙台か……何もかも懐かしい」
前方に向き直り、誰に言うとも無しに呟いた言葉はやはり正体不明の口調ではあったものの、何か、こいつの心の奥から漏れ出たような言葉に聴こえた。それが何か僕の心の奥底の堆積物も浚ったかのように思えて、自然と言葉がついて出てきた。
「母さんに……会わないか?」
吹き込む風に紛れさすように、僕は愛車が倒れないように保持しながらも、身を乗り出して翼の耳元に囁く。おそらくはジョリさんの耳にも届いたかもしれないけど、ふんふんふーんとわざとらしいほどにぶれない鼻唄を続けるばかりであり。
「……それは、少し考えてた」
ややあって、前を向いたまま、翼はそう空気を吐くように呟いた。ずっと一緒にいた子どもの頃の時のような、お互いがお互いの考えていることを丸ごと分かっている時のような、確認事項を淡々と述べるような口調だった。
でも「考えた」ってことは「考えて会わないと決めた」ってことなんだろう。それとも迷っているのか?
「俺が親父を選んだことを、おふくろはまだ根に持ってるかも知れねえ」
言わでものことを、感情を敢えて込めずに吐き出してくる。そんなことないだろ、とは口には出せなかった。かつて父親だった男のことは、僕も同じくらい知っているから。
あいつは、母さんを捨てた。
母娘ふたりの生活は、質素ではあったけど、そこそこ充実していたし、楽しかったと僕は思っている。今だって母さんは月いちで仕送りを続けてくれているんだ。いつか、恩は返したい。例え得体の知れないダメによって得たお金だとしても、カネはカネだろう。僕はお金で買える幸せとやらで、苦労を重ねて来たおかあさんを贅沢でくるんであげたいんだ。
でも、そこも今は考えなくてもいいか。今は……そうだよ今は。
「「難しいことを考えるのはやめだ」」
僕と翼の声が重なる。隣のジョリさんがそれを聞いてふふんと鼻息を吹き出すけれど、こんなことは日常茶飯事だったんですよ。前方の、おそらく同じであろう一点を見つめながら、翼と僕は言葉を紡ぎ出していった。
「やってやる」「カネを」「つかむ」「とりあえず」「そこから」「そこから考える」「すべてを」「すべては」「単純なことの」
「「……はずだから」」
そして、畳みかけるように被せるように、僕と翼は言葉を縒り合わせていく。
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