♮073:永眠ですけど(あるいは、薄めアングリングフォーカス=1/4パウンザー)


 永い眠りについていたような気分だ。……時間に換算すると3週間に匹敵するくらい……? 意外と結構なもんだ……


 滅裂で揺蕩うような思考を挟んで、徐々に僕は覚醒しつつある。


 いつの間にかオチていたようだ。抱き締めたままの愛車ジョルノのハンドルに頬をめり込ませながら。見上げると暗闇。生温かい風がびょんびょん吹き付けてきているけど。


 体感速度と照明とかの周りの風景からおそらく高速に乗っているだろうことは分かるけど、屋根無しというのが初体験なので、爽快感よりは恐怖感の方が強い。思わず首をすくめてしまう。


「……寝てていいわよぉん、まだあと2時間くらいはかかるからぁん」


 運転席からはそんな僕の様子をミラー越しに確認したのだろうか、ジョリさんの声が風と共に流れて来る。日中仕事をこなしてのこの深夜の強行軍なわけだけど、その縦長い顔に疲れは全く見せてない。最近の仕事の立て込みも相当なもんがあるけれど、その繁忙さすらエネルギーに転化するかのように精力的な活動をしているのであって。この人は本当にその意味では凄い。


 というか、まだ山積みの残務とかを放り出してきちゃったわけだけど、大丈夫かな……


 全然大丈夫な要素は皆目無かったが、ひとまず気にしていますよの体でそうジョリさんに問うてみると、道具なら積んで来たからモウプロブレムよぉんとの頼もしい言葉が返ってきた。なるほど、仕事道具さえあれば何処でも、例え揺れるクルマの中でも作業に支障をきたさないという恐るべき腕前の方ですもんね……


 おそらく今向かっている所には、「材料」……布地、とかは事務所より揃っていますもんね……しばらく匿ってもらうにはちょうどいい場所なのかも知れない。


 外環を抜けて東北道。真っ赤なオープンジープという十人が十人がとこ二度見しそうなド派手な車種車体色であるものの、今のところ気付くくらいには追手らしき気配は無い。あくまで素人の僕の目からは、だけど。さきほどの襲撃を受けてからは、一切の躊躇をせず一目散に東京を抜けたのが功を奏したのだろうか、そう思いたいところだ。と、


 ふごっ、との無呼吸からの発作のような激しい息遣いを発した助手席の翼が、も、もう粉しか出ねぇって……との度し難い寝言以下の寝言をのたまったのち、ようやく覚醒したようだった。ヒィィ夢か、と顔を手でごしごしとやっているけど。一瞬の沈黙の後、運転席に顔を向けつつ口を開く。


 どこに向かってんだ? という、どストレートな質問だったが、アタイの隠れ家的なところよぉんというジョリーさんの答えに、そいつぁ豪気なことだぜぇ、ま、温泉にでも浸かってたまにはのんびりすんべえかねぇ、と、もうお前その江戸前テンプレキャラで行くんだな? と念押ししたいばかりの口調でのたまうのだが。


「そ、それにしても、何というか、寒気を感じるぜぇ……ミサキ、お前は感じないか? こう何か……遺伝子が震える感じというか」


 どんな感じだよ。気持ちの悪い比喩はやめろぉッ。


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