♭072:陥没かーい(あるいは、最たる王へ/クレマトリック/塞翁馬)


「おるけすたるとらむぅぅぅッ、であるあるぇっすうううううううううううぅぅっ!!」


 諸々あったが、池田との「対局」は、<先手:6,921pt:後手:9,299pt>で終局した。


「この『器具』を使用してでの『2,000差』はヤバいっ!! 換算値『10,000ボルティック超級』が来てしまうぞっ、はやく棄権するんだリアくんっ!!」


 どうしてもメロドラチックな物言いになってしまう主任の必死の忠告も聞かず、


「私……信じてます……信じてますからねっ。主任が、私のほんとの気持ちに気付いてくれるってこと……」


 相変わらずのネジ一本外れてんじゃないの的、80年代くらいの女のメンタルにて切なげなる声色でぶつぶつと何事かをつぶやいている内に、池田リアは相当きつめの折檻電流に直腸内部を直に貫かれ、冒頭のちょっと形容しにくい叫び声を上げて、果てた。


 美麗な小顔を、苦悶と驚愕とそして何故か愉悦が「3:3:4」くらいに混じり合った何とも言えない表情に歪めながら、池田は座ったままの姿勢で一瞬、跳躍したかのように私には見えた。


「……」


 決着した。まあ、何のための決着なのかはさておき、便宜上、決着したと、とりあえずそうまとめに入りたい欲求に従い、私はそう自分の中で締めくくろうとする。


 ざうっ、というような音が出そうなほどテーブルに力無く突っ伏していった池田を見やりながら、しかし私は勝利の高揚感とは程遠いところに佇んでいるわけで。


 もう、終わりだ。ダメとのことの諸々は。これからはもう、「日常」に戻る。面倒で、キツいこともあるけど、愛おしい、日常へ。


 本当に綺麗にまとめようとした私だったのだけれど、場に少し流れた静寂の中に、一丁の柝のような、主任の声が響き渡る。


「……すご、すごいよ水窪みずくぼさん……これなら、並み居る世界ランカー達も敵じゃあない……」


 興奮に打ち震えるそんな顔が間近に迫り、私の不浄じゃない方の左手が、意外にごつい主任の両手に包まれる。あっるぇ~、なにこの超絶展開~。


「僕が見込んだ通り……いや、それ以上の逸材だったとは……『女流謳将おうしょう戦』は諸事情によりその全容は今となっては知ることは出来ないが、今の手筋を見て、全てを把握したッ!! やはり、君は、頂点を狙える才気の……持ち主だった……」


 ちょっと目の焦点が微妙に眼前の私と合っていないのが気になるっちゃあ気になるけど。いや、そんなことには目を瞑れぃ。何つっても、「全て」を得るチャンスがまた降ってわいてきたんでぃ。


「改めて、お願いする。僕と……『摩訶★大溜将だいりゅうしょう戦』に……出場してくれっ」


 ……それに応える言葉はもう決まっているんだ。


 はいですっ、と不浄の方の右手を抜き出してかわゆく敬礼しながら、私は今、万全の態勢にての準備が整ったことを、脊髄らへんで感じ取るのであった……とにもかくにも、もはややるしかねえ、そしてやるなら今↑しか↑ねへえぇっ→!!


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