♭065:凝塊かーい(あるいは、あふれ出す/虹色の煮汁)
ダメ関連のよしなし事には全耐性をくま無く持つに至った私だけれど(それはそれでどうか)、この展開は……ヤバい予感がする。横隔膜らへんにブルブルとくる感覚。
なぜ、よりによって私の主任と、このぽっと出の大分残念な露出狂女が繋がっている……?
表情という表情が無に帰しそうな顔を何とか操って、何が起きたんですの的、少しの困惑顔へと苦労して持っていくけれど。そんな私をさておいて、当の二人は二人だけの世界に入りつつある。おい。
「……キミとのことはもう終わったと……言ったはずだ」
主任が、主任がテンプレの沼に嵌まり込もうとしている……ッ!! 劇画的男前な顔に心なしか変移しながら、目の前でこれまた中途半端に手を宙に浮かせた無理あるだろ的ポーズで瞳を潤ませる女に、熱い視線を注いでいるけど……ッ!!
「主任は、意気地なしですッ!! そうやっていつも逃げてばかりで!! 何で、何で私と向き合ってくれないんですかッ!!」
いや、どういうシチュエーションなの。よくそこからそのテンションに持っていけるな。さっきまでTフロントやってたやん。
私は、何か分からないけど本能的に恐ろしさを感じて脚にしがみついてきた聡太の頭を掻き抱き、そこ座ってジュース飲んでて、と、ひとつ離れたベンチに促すばかりであるわけで。
「僕は……僕はッ!! 断じて勇気の無い男ではない……ただ君の……君の幸せを願っているだけ、それだけの男なんだ……」
昭和メロドラマ空間という、新たなる異次元のとば口が、ばかりと開かれた瞬間であった。というか何だっつうのこれ、主任ェ……
「それを臆病者というんですッ!!」
池田ァッ!! お前もぐいぐい来るけど、アレなの? 揮発性で即効性のクスリでも、この空間には噴霧されているとでも言うのか?
もうあかん。想いビトのダメな意味でのダメな一面を見せられて、それはちょっと、完璧な人間なんていないよね、的な厳然たるポジティブ思考で乗り切ろうとしてる私だけれど、全ての禍根は除かれ切り捨てておかねばなるまい……
私は決意を渾身の笑顔に込めると、ずいと一歩前に出る。そして、
「うふふ、こうしていても埒が明きませんから、
ケリ? みたいな不思議そうな顔をした二人に向けて、私はとびきりの笑みをかましながら続ける。
「ですからぁ、『ダメ』の一勝負をいたしましょうってことですよぉ。池田さんと、私とで」
え、何で? みたいな顔をするその露出女だけど、私は無理やり現出させていた笑顔を吹き消すや否や、不気味の谷をひよどり越えの逆落としもかくやと思わせるほどの急落下にて人外レベルまで駆け下りた表情へとシフトし、厳かに告げる。
「……勝った方が主任を得る。それだけの簡単な話よ……もちろん敗者には跪いて『私は醜いダメ女です』と言いながら、勝者の足指股を全て舐めて綺麗にするという作業に従事してもらうことになるけど」
ほぎぃぃ、ヒトならざるモノがヒトの心を殺しにきているよ怖いよおっ、と池田の顔もいい感じに引きつっていくのだけれど。
もう限界だわ。主任には私の本性を垣間見せてしまうけれど、やけだ。こうなったらもう、やけの全開で行かしてもらうからなぁぁぁぁぁぁッ!!
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