♭064:波濤かーい(あるいは、流星のプラシーボス/プラセンタリウス)
「もともとは、『
肩を落とし、ちょこなんとベンチに腰掛けつつ、黒髪ロングの美女、池田リアはそう切り出すのだけれど。
「倚戦」つーのは、ダメの大会を表す言葉。そんな単語を使うあたり、そっち方面にずんぶり浸かっているような感じだけど、例えば、私が見て来た「黄色」とかハツマとか、外見はかなりの高偏差値ながら、中身のネジが数本緩み外れている美形たちとは明らかに異なり、何というか、業界に染まって無さ、カタギっぽさを全面に感じる。
「でもダメでした。ダメの場で、私はダメだったんです」
私もお茶をいただきながら、池田の一点を見つめながら吐き出される言葉を聞いてる。何か、DEPみたいになってきてるぅー、と、私は主任と聡太が今にも戻ってきやしないかと、遥か彼方の売店方面に視線を送るものの、結構列が出来ているようで、もう少し時間はありそう。この女には、女の庇護欲をも駆り立てるような得も言われぬ「空気」がある……問答無用のハツマの「急進な求心力」とはまた違った、ネガティブで人心を内側から溶かすような。ちょっと言ってる意味は分からないけど、そんな風。
「キャラが立ってない、とか、正統派すぎて遊びが無いんだよ、とか、運営の『元老』からはいつもそんな風に……叱咤されていました」
うん、自分の居場所を間違ってる感は間違いなくあるけど。あんたこそはカタギの道がお似合いだとそう思うよ? 足洗おう?
「『リアなのにTフロントっ』っていう最高の持ちネタを考え出したんですけれど、一部の好事家にしか刺さらなくて……もうそれで自信を失ってしまって……」
ん? 何か今、カオスがよぎったぞ? 何だそのネタ?
疑念が顔に出ていたのか、あ、今やりますね、と少し嬉しそうに外面だけは相当かわいい顔をほころばせると、座ったままトレンチコートの前を開ける。
「……!!」
その下には、今日びレースクイーンも着るか着ないか分からないくらいの鋭角を醸した銀ラメ色のワンピースタイプの水着しか身に着けていなかったわけで。え、こんなところに条例違反者が……? と驚愕する間もなく、その美女はベンチに座ったままの姿勢でガニ股態勢になると、鋭角をなぞるかのように両手を前後に動かしてくるのだけれど。
ばっちりキマってるその姿態を見て、あ、こいつとは関わり合いになってはならぬ……との思考が湧いてきたところで、予想外のことが。
「……リアくん? なぜこんなところに」
買い物を終えて戻ってきた主任に慌てて作り笑顔を向ける私だったが、ん? 何でこの女の名前を主任が知ってんの?
「はぅ……鳴介さん……」
そして素早くコートの前を掻き合わせていた池田が芝居もかくやと思わせるほどの急制動な動きで立ち上がると、そんな切なげな声を、切なげな顔でのたまうのだけれど。
あっるぇ~? 何かヤバい方の混沌が迫り来つつあるー、と白目になりそうな一歩手前の土俵際で、私は何とか耐えている。いれども。
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