♭062:暗転かーい(あるいは、猿舞人踊/レンチトリッカー)
開園と同時に園内に突入した私たちは、まずレッサーパンダくんのだらりとした姿態にぬおおと連写しまくり、ライオン、キリンと定番どこをずんずん見て回ってちょっと落ち着いたところで爬虫類館に足を運んではカメの優雅に泳ぐ姿に感動するのであった。
いや、やっぱ動物園っていいわ。子供はもちろんだけど、大人も何か引き込まれるようにして楽しめる。聡太とおさるさんに手を振ったり、逆にペンギンが歩いてる姿を凝視してみたり……ほどよく空いていた園内で、私は当初の目的を忘れて少しはしゃいでしまっていたのだけど。
いやあかん。主任とのおデイトであることをついうっかり忘れてたわ。渾身気合いのお弁当が入った紙袋も持たせっきりで、Oh……でもそんな私たちを、後ろからとてもとても優し気なる目で見ててくれた主任は、いやぁここにして正解だったよ、との嬉しい御言葉をかけていただけるわけであって。
園内には青空の下にいくつかテーブルとベンチが設置されていて、何たる好都合。ちょうど陽射しがいい具合に遮られる絶好の場所を確保できて、じゃあお昼にしましょうという流れになった。
ぼくりんごがのみたいな……と、普段はジュース類は極力飲ませていない聡太が、通りすがった売店で見かけたのだろうか、私の方じゃなくて、何となく主任の方を見ながらそんなことを呟く。それを見た主任が、いいかい? と、ちゃんと私に了承を取ってくれるけれど、そんなところもポイント高いわ。
うん今日は特別OKよぉ、と、作り慣れてない満面の笑みを浮かべつつ答えると、よし、じゃああっちのお店だ、と主任が聡太を促し立ち上がる。一方の聡太も、りんごっておいしいんだよね……とまたも呟きながらも、主任の差し出した左手を自分の右手で掴むと、嬉しそうに早歩きで売店の方へと向かっていく。
そんなふたりの後ろ姿を見守りつつ、はぁぁぁぁぁ、と、幸せな時でも……ため息って出るんだ……みたいな、何とも地に足着いていないような思考がほわわんと浮かぶのだけれど。
でも。
あれあれあれ? おかしいな。何もないわけが無いよね。ここに至るまでの出来事は全て、これから起きるダメ関連への壮大な前振りなんでしょ知ってんだよ私知ってんだ!!
もはや懐疑的な思考が、再び「この地」に戻ってきた何日か前から、常態にはなっている。お昼の用意をしかけていた私に、懐かしさすら覚えさせる気配が、ダメの気配がベンチ側の常緑樹の陰から臭うように漂ってきた気がした。
そこっ!!
すかさず私は手にしていたプラスチックのフォークを横一閃、背後の木々の間目掛けて投げ放っていた。いや何やってんの。まーさーかー、そんな所に人なんか隠れていないでしょおって……
「……よくぞ見破った。流石は『女流
あっるぇ~幻聴が聴こえるぅぅぅ……それもやば気なるワードが差し込まれーの、テンプレ入りーのな物言い……
私は奇しくもサル山にほど近いこの場所で、只今の事を、見ざる聞かざるの体で押し通そうか否かと、この期に及んで迷っている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます