♭059:万全かーい(あるいは、世界の/合言葉は/ベントゥー)
これほどまでに待ち望んだ「週末」など無い……
鏡の前で両手を中途半端に広げたポーズで掌を上に向け何かを掴まんと全指を折り曲げ、ゲッゲッゲと顔筋を入れた凄まじい表情で不気味に笑うという、どういうノリかは分からんけど終末感を演出したところで我に返る。
そぉう、今日は週末。土曜午前5:00。本日は晴天なり。いざ行かん……
数日前に向こうからお誘いを受けた。そぁう、これは最早デート以外の何物でも無いのだ……
妙なテンションから、ヒィヤッヒャッヒャ、とまたも世紀末風の笑い声を漏らしてしまうけれど。いや、そんな時間は無い。
行き先は「野毛山動物園」。JR桜木町から歩いて行けるそうだけど、「せっかく納車したばかりのクルマを転がしたいから」とのことで、主任自らの運転によるドライブで向かうということになった。私らは家の前でピックアップしてもらえるので、嗚呼、何というかこんなに楽させてもらっていいのかしらん的、ラララとターンをかましながら歌い出したいような高揚感に包まれている。いや、包まれている場合でも無い。
渾身の、『
待ち合わせ時刻は8:00ちょうど。遅れるわけには……いかん。私は気合いを入れるため普段は着ないおしゃれ部屋着にわざわざ着替えてから、この日のために洗濯して糊も利かせておいた漆黒のエプロンをしゅらりと身に着ける。かたちから入るというのは、結構大事なことであり、髪も後ろで、くいとまとめ上げると気合いが乗ってきた。全行程を頭の中で組み立てながら、私はまずは揚げ物から取り掛かっていく……
………そして。
やあおはよう。悪いね結構早い時間で。開園前に着いちゃうかもだけど、道混むとあれだしさ……といつも通りの軽い、力の入ってない感じで、主任が運転席から降りて来つつ言うけど。
いつもはかっちり固めて後ろに流されている長めの黒髪は、今日はウェーブがかってナチュラルな動きを見せている。淡いベージュの開襟シャツに、麻っぽい質感のこれまた淡い茶系のジャケット。下は黒いスキニージーンズ……細身の主任は少し猫背であって、佇まいはルパン感もあるのだけれど、私は彼のプライベートな装いが見られてよかったとしか思えてないし、しっくりきてるーと見とれてしまっていて少し返事が遅れてしまう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます