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 母親を殺した事がある。



 ――勿論、、だが。


 生まれて初めて母親に首を絞められた日の夜。涙に濡れた目をこすり、首に刻まれた縄の跡をなぞりながら眠りにつくと、いつも通りだった筈の夢の中に母親が出てきた。


 そして、現実での出来事と同じように首を絞めてきたので、咄嗟に斧を掴んでその頭を叩き割った。母親の手が首から離れ、地面に倒れ、動かなくなっても半狂乱になって斧を振り下ろし、首から上が無くなったところで我に返り、夢から醒めた。


 夢から醒めてなお、その手に残る頭蓋を叩き割る感触と、夢の中とはいえ、自分の母親をこの手で殺したという事実に、幼心に吐き気を催した。



 しかし、次の日もその次の日も母親は夢に現れ首を絞めてきた。なので毎回毎回、様々な方法で彼女を殺した。

 慣れてしまったのか、途中からは吐き気を催す事もなくなり、作業的にそれらを行うようになった。そして夢には母親だけではなくその日会った他人も現れるようになり、それらの他人たちも作業的に殺すようになった。


 殺意を抱いている訳でも、特別に彼・彼女らを嫌って憎んでいる訳でもない。夢の中に現れた自分以外の人間を殺すことは、自分にとってその日の夢を心地よく過ごす為のルーチンワークになっていた。夢の中に他人がいては、安心できない。現れたのが誰であれとりあえず殺した。

 故に、自分にとって夢とは誰かの死体から始まるものなのだが――それらは全て当たり前に行う一日の作業のうちの一つに過ぎなかった。


「だから、さ?」


 、何の異常もない普通のことだ。是非とも受け入れて、安心して、そして大人しく殺されてほしい。


 何も問題はない。だってそれらは全て〝いつも通り〟なのだから。



 ――ね?




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