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「いってきまぁす」


 誰もいないリビングに向けて、声を掛けた。

 勿論、返答はない。静かな廊下を平坦な目で眺めると、霧原キリハラ雪仁ユキヒトは真新しい制服に包まれた自分の姿を鏡で確認し、玄関を後にした。


 正門には人が集まっていた。母親に連れられて、妹が――白雪シラユキが、新品の制服に、ぴかぴかの学生鞄を背負って、車に乗るところだった。家の玄関口からメイドや執事達が見送っている。父親が、嬉しそうに二人を写真に収め、照れ臭そうに白雪が笑う。

 それを遠くから眺めて、水を差したら妹に悪いと進む方向を変えた。振り返る寸前、白雪と目が合う。彼女がパッと笑顔になったのを見て、緩く微笑みながら雪仁は彼女に手を振った。




 さくさくと芝生を踏む音を聞きながら、もう少し遅く出れば良かったなと、時計を確認した。早く着く必要はあったとはいえ、何も白雪の見送りに遭遇することはなかった。


 末の妹の白雪のことは総出で送る癖に、同じく入学式を迎える自分には朝のおはようもおめでとうもなく、昨晩は母親はともかく父親すら無反応を決め込まれたことを思い出させられて、何ともいえない気持ちになった。別に突然、にこやかに祝われても、それはそれでこちらも反応に困るのだが。

 結局あの人達は、自分のことは〝いないもの〟として放置を決め込むつもりなのだろうなと黒い気持ちが湧き上がるが、彼らに怒りを覚えるのにもいい加減飽きたので、雪仁は無表情のままで淡々と高校に向かった。



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