第3話 中島翔哉をどうするべきか……などなど 前編
「先日、悲劇が起きた。
アンス・ファティの内側半月板損傷だ。
バルサで……いやもしかしたら世界で最も未来を嘱望されていた選手が夢を削られた。
半月板の損傷は、後遺症が残る場合が多い。まだ成長過程の18歳なりたての体に、プリメーラのゲームは負担が大きかったのだろう。自身の身体能力が高ければ高いほど、自身の肉体に掛かる負荷は増大する。スピードスターの大半が自身の能力の高さに壊され、消えていく。
バルトメウの遺産、莫大な負債。に加え、コロナ禍で入場料収入が見込めない。バルサは今冬補強ができるのか。加えてピケが離脱……。バルサはしばらく低迷する。
デンベレとファティの怪我で、サイドのアタッカーが不足。そこで走力のあるブライトバイテをウィングにコンバートした。かつてのティエリ・アンリを思わせる。まあ、アンリはもっと上手かったけど。
トップ下やセカンドストライカーが最適ポジションの選手は、グリエズマン、コウチーニョ、ペドリ、リキ・プッチ……。多すぎる。偽9番のメッシだってやってる仕事はそこだ。
左サイドにコウチーニョが配されることもあるが・・・もうやめて欲しい。ほぼ機能してない。
ペドリが伸びてきたので、高給のコウチーニョは売ってしまった方がいい。選手層のバランスが悪すぎる。グリエズマンは献身性で価値がある。
メッシはドリブル突破を失敗することが多くなった。どうやら人間だった。衰えが目立つ。将来のメッシ抜きの布陣を考える必要が出てきた。
R・ソシエダにはD・シルバが加入。するや否やフィットし、超絶技巧を見せつけている。まったく、バルサだろうがR・マドリーだろうが獲っていたら活躍していただろう。頭が下がる。
ルイス・スアレスはアトレチコ・マドリーで伸び伸びやっている。バルサはスアレスにとって複雑すぎるサッカー。バルサを出ることでようやく本領発揮できるようになった。全盛期は過ぎているが、本来もっと活躍できたとんでもない選手だ。
乾貴士がInstagramで『この19歳はすげーわ!!』と激賞したブライアン・ヒルも将来楽しみなドリブラーだ。かつてのヨハン・クライフを思わせる風貌と体つきから確かな技術でボールを繰り速さも備える。
セリエAはミランが凄い。ミランというか衰えを知らないイブラヒモビッチが凄い。一方で統率力に欠ける若手教師ピルロはユベントスをまとめきれず、フロントは虎視眈々とジダンの失脚を願う。もちろん、監督として迎え入れるためだ。
イングランドはもうカオスだ。大混戦。
アーセナルはアルテタの知性に懸けたが現状、失敗に終わっている。やはりビッグクラブを率いるのは経験と実績が必要だ。
勝利と美。どちらを優先すべきか。自分のポリシーに盲従するとロクなことにならない。現実を見るべきだ。
弱者のポゼッションサッカーは茨の道だ。認めたくないだろうが、群雄割拠のプレミアでアーセナルは最早強者ではない。
コロナの影響でどこも羽振りが悪く、昨夏はビッグディールが少なかった。エンバペとハーランドは各クラブの垂涎の的。
ハーランドは賢い。まず自分が確実に試合に出られ、成長できるだろう環境に身を置き、時機をうかがっている。久保建英は見習うべきだ。傭兵は雑に扱われるのだから。
コロナ禍の下のJリーグ。
観客が減り、応援の声を出すことさえ、禁じられた。
だが、デメリットだけではない。
TVで観戦していても選手、コーチ、主審の声が聞こえる。これはこれで見所が増えた。
そして、選手の戦術眼の上積みを感じる。試合も見応えがある。少なくとも、成長している。
おそらく、日本全国の指導者の研鑽の成果だ。
Jリーグは珍しく独走状態のまま終わった。川崎はサポーターに愛されライバル不在のまま幸福な日々を謳歌する。ACLの負担がないのも効いた。
サポーターの力だったら浦和のが上だ。だが、フロントが眠っている。親会社の不調が選手獲得に冒険をさせない。
コロナ禍でどこも経営は苦しい。仙台は3億5000万円債務超過との報道。観客収入の激減はどうしようもない。金がないので来期はシマオ・マテとスウォビィクは退団濃厚。ロクに人件費が捻出できないのに現有戦力でもっといいサッカーができるはずだと6年間J1に残留し天皇杯決勝を体験させた渡邉晋監督を退任させ、速攻を捨てる。弱者のポゼッションサッカーは……以下略。後半、ようやく長沢の高さを活かすサッカーに舵を切り、最下位を脱出。
それでも安穏としていられたのは、今期のJリーグは降格がないせいだ。
コロナ禍で長い中断期間、過密日程を余儀なくされ選手の体力が持たない。それを多くの選手を起用してもらってカバーしようという意図。降格がないのだから若手を起用し育てる動機になる。東京五輪を睨んでの若手育成。更に交代枠を5人に増やした。
鹿島までポゼッションをやり出したのは驚いた。……いい傾向ではない。日本中でパスサッカーをやり出したら対応力がつかない。
状況に応じ、様々なサッカーができるのが鹿島の強みだと思っていたが。
日本人はポゼッションを非常に好む。
ただ、ポゼッションにはハイプレスからのショートカウンターが天敵になる。となればメタゲームの要領でハイプレスを採用するチームは増える。となるとFC東京の縦に速い攻撃や大分の疑似カウンターのようにアンチメタになるチームも出てくる。柏、広島、横浜FMのように身体能力の高い外国人選手にFWを任せて手数を掛けずカウンター。Jにおいては非常に有効だ。
川崎や横浜FMの強みがこれで、
楽天、三木谷会長もその最たる人で、バルサの胸スポンサー契約を延長する入れ込みようだ。当然、神戸もポゼッション。ポドルスキの抜けた穴を補強できず、頑なにパスサッカーにこだわり、カウンターを狙うには格好の獲物になってしまい、ぐずぐず。一方でACLでは躍進、準決勝まで進んだ。
日本で特に人気がないのが高身長FWへのロングボールの放り込み。そして需要が減るから高身長CBも育ちにくい。
でも、そんなサッカーをするチームが増えて欲しい。多様性があった方が面白い。何よりJでは効率が良く、活きるはず。
セレッソ大阪は4位でフィニッシュ。いい成績だと思うのだがロティーナ監督の契約更新は行われなかった。ロティーナは来期もJで仕事したいと語り、セレッソ側の意思だろう。
ロティーナは守備を重んじる。それがセレッソフロントからは好ましく思われなかったのだろう。セレッソ主義。大阪の派手好きな県民性も表れているだろう。守備では効かないが華のあるファンタジスタ、柿谷をベンチに座らせていたのも不服だったのではないか。だが守備力のないMFを使いたくない気持ちは解る。現実主義者なら。柿谷は名古屋へ移籍を決め、ロティーナは最下位に沈んだエスパルスへ。弱者に美を追い求める余裕はない。し、非効率だ。
美と勝利。どちらを追い求めるのか。美を追い求めると勝利は得がたい。コロナ禍の今は特にそうだ。バルサを見ればわかる。観戦チケットが発行されないのに美にこだわると不利を
ペップバルサ時代の栄華を追い続ける。
オランダ界隈では堂安の評判は
それは一部の日本人の声も同様だった。それは日本代表で久保を使って欲しい願望から生じた意見でもあっただろう。
堂安はオランダ流のウイングとして大事なものが欠けている。誰にだってすぐわかる。スピード。スピードがないとドリブラーとしての活躍は困難。だからオランダの識者は堂安の獲得に疑問を呈した。
結局、今年の夏に堂安はオランダを出た。オランダは横幅のある攻撃を志向し、ウィングはとにかく突破力を求められる。
堂安はそもそもオランダに向いていなかったかもしれない。
大歓迎の移籍先ビーレフェルトではレギュラー。その効果はじわじわと理解される。
堂安には日本人特有のパスワークの下地がある。人を使うのがうまい。フィジカルコンタクトが強く、守備力がある。インサイドハーフが適正だろう」
「久保君もマヨルカの最初の方は試合に出られなかったね」
モーニングスターが呟く。
「以前の講義で、久保は香川に似ているという話をしたな。マヨルカの人件費は昨シーズンのラ・リーガで最下位だった。当然守備の時間が長くなる。つまり……」
「久保も香川と同じ、掛け算の選手。守備で効かない久保を使うと、むしろ穴になる」
「その通り。単純な話。弱いチームは守備の時間が長くなるから守備力が求められる。
久保は闘える選手ではない。
だからそうなったことは識者なら予想出来たことだ。
久保がどんなにテクニシャンであろうと、パスに対してボールを触るときは無防備になる。トラップせずにワンタッチではたこうとしても、その瞬間に体をぶつけられたら、コントロールは乱れる。ルカクなら平然と耐えるかもしれないが、久保は余りに非力だ。
だから、久保は動いてフリーの状態をつくって、ボールをもらうしかない。なのに久保の運動量は決して多くない。
チームメートだってよく見ている。フリーになった久保にはボールがよく出される。立ち止まってボールをもらおうとしないことだ。久保は意識改革が必要だ。このままではレアルに戻ることもない。
ただし、相手がリトリートしたときは少し事情が違ってくる。久保には高水準の
しかし、久保を警戒し、対戦チームは2人マークを付けるようになる。そして久保の出場機会は減った。マヨルカの試合で、久保にパスが来ない、という意見を散見した。
これは仕方ない。久保はボールを受ける能力が低い。技術の問題ではない。フィジカルの問題だ。
久保はフィジカルコンタクトが弱い。一方で異才と呼ぶべき技術を持っている。
相手チームから見れば。ならさっさと潰してしまうに限る。久保には、しっかりマークがつき、持ち上がったときには2人が阻むようになった。
久保がいるチームが強豪なら、相手は他の選手をマークする必要がある。が、マヨルカは1部残留を願うチームだ。久保が活躍するのは困難だった。
シーズン後半はスタメンを外れるようになった。
2019年の秋から退屈なW杯2次予選が始まった。と思ったら久保建英が『全然期待してもらって大丈夫です』とコメント。
久保は自分を追い込もうとして、こんなことを言ったのかもしれない。俺もよくやったんでよくわかる。ビッグマウスはただの大言壮語じゃない。大抵の場合、意図がある。
久保の発言を見ていると、いちいち凄い。賢い。
だから、このコメントには驚いた。
久保はスタメンが確約された選手じゃない。少なくとも当時は将来性を買われて代表に呼ばれている選手だった。もしかすると今も。攻撃面は素晴らしいが守備面でははっきりと劣る。
ファンになると盲目になる。恋と似ている。好きになると欠点が目に入らなくなる。美点ばかりに目を向けるようになる。アンチは逆だ。欠点ばかり見るようになる。論争はまったく話が噛み合わない。
すべてを勘案し、総合的に判断しなくてはならない。日本人が起用されないことに疑問を持つ場合、多くは守備面の脆弱さに起因している。パスコースを切っているだろうとかファンは擁護するが、それよりガツンとタックルにいける選手の方が断然価値が高い。タックルができないマーカーは怖くない。
森保監督は、ホームのモンゴル戦、久保を使わなかった。このイージーなゲームには伊東が起用され活躍。しかし久保が出ていても同様に活躍し、メディアはこぞってレアル所属の久保を持ち上げただろう。
森保はその絶好の機会を取り上げた。特別扱いなし。
次の試合は
久保みたいな選手、スペイン人は大好き。19年の年末には重用されるが年が明けるとまたベンチに戻り、シーズン終盤にはスタメンに戻った。
めざましい成長を遂げている。
久保のトレーニングは周到に計画が練られ、遂行されている。驚いたのは、この歳でトップスピードが伸びたこと。今までは身長を伸ばすため、筋肉が付きすぎないよう筋トレを抑制していたことが窺える。
昔、俺は久保をイニエスタに近いと評したが、タイプ的にはメッシに近い選手になりつつある。
バイエルンは貸出料12億円で久保を借りようとした。久保の名を刻んだシャツを日本人に売れば元が取れる。そのためには試合に出さなければならないが、使うつもりだったのだろう。それと将来、バイエルンに移籍させる道筋をつけようとでも目論んでいたのではないか。久保がレアルで通用するかどうか判らないし、アジア市場は狙いたいところだ。
でも、やはり久保の心はスペインにあった。ビリャレアルへローン。
ビリャレアルはマヨルカと違って戦力は十分。守備の時間が減る。久保は活躍が見込まれていた。
ただし、久保はローン移籍の身だ。
ビリャレアル所属の選手よりはっきり優れていないと、スタメンにはなれない。だから俺はレアル移籍はやめた方がいいと言ったんだ。
レアルは久保を使えと圧力を掛ける。だがエメリは久保に対し『ピッチ外でスターだが、ピッチの中でそうでなければならない』と、どこ吹く風だ。
ベンチに座る日々が待っていた。
でも。久保は日本サッカーの希望。挫折の日々を力に変えるだろう。
久保を活かすなら、ELシヴァススポル戦のようにセカンドトップで使うのも手だ。久保の創造性は高い。サイドではパスコースが減る。それは香川も、コウチーニョも同じだ。フィジカルが弱く、守備で穴になる。
なら、だから、アタッカーしかない。そしてDFへのフォアチェックというタスクを課す。そこなら相手DFはリスクを負えない。セーフティなプレーしか選べない。クリアさせたら勝ち。
これはクロップが香川やコウチーニョを機能させたやり方だ。
望ましいのは守備時4-4-1-1で攻撃時4-2-3-1。パサーではなくシャドーとして、つまりFWとして振る舞う。西野監督はロシアW杯でこのやり方を採用し香川を見事に機能させている。
このトップ下は、豊富な運動量が要求される。相手最終ラインまでのプレスとゴールを狙うフリーラン。前に前にスプリント。そして何より不屈のメンタル。パスが出てこなくても走り続ける。
岡崎慎司は、この役割をよく理解している。だからレスターで機能した。だから西野監督は怪我をしていても岡崎をロシアに連れて行った。
南野もよく走る。一方、今の香川も久保も、ついでに言えば宇佐美貴史も中島も、つまり日本人の2列目のテクニシャンと呼ばれるほとんどの選手が。受け手になる、オフザボールの量が足りない。もっと無駄走りすべきだ。得点に貪欲にゴールに向かって。
止まっている選手は怖くない。オフザボールでDFを引っ張ることができればバイタルが空く。味方への手助けにもなる。空いたスペースとそこにパスの来る可能性がわずかでもあるのなら飛び込むべきだ。
これができていないということは日本の指導者の敗北でもある。
4-4-1-1は守備的に見えるかもしれないが、ハイプレス、つまりサイドハーフが駆け上がり、最終ラインは大胆に高く保ち相手チームを押しつぶすようればクロップお得意の形になる。成功すれば相手守備陣は崩壊。ぐっちゃぐちゃの混沌。だから点が取れる。
強いチームならそれが可能。強いチームでないと……昨シーズンのサラゴサの香川になる。
圧倒的に強いチーム。
例えばレアルマドリー。
久保が戻れたら……。
ただし、遅攻になってしまうと話は別。コンタクトに弱い選手はトラップを狙われてボールの奪い所にされる。そうなったら圧力の低いサイドにポジションを取るべきだ。中央で隙を見つけてボールを受けようなんてムシが良すぎる。まあ……とんでもなくチーム力に差があれば可能だが。
というわけで現状、久保には主にサイドがポジションとして与えられている。時にセンターラインに分け
みんな、ビリャレアルに行ったらもっと活躍できるはずだと期待していた。しかし、結果が出ているのはELだけ。リーグ戦ではまるでダメ。
ビリャレアルに行ってから、フリーランの量が増えた。だが、ゴールから遠いところにいるので結果が出せない。シャドーストライカーの動きを意識すべきだ。
そして。難しい要求になるが、仲間との連携で崩すことを考えるべきだ。自分のプレーが終わってはい終わりではなく、2手先、3手先まで考え、味方を動かしパスの種類を使い分けすべきプレーを示す。つまりプレイメーカーの知性を持つ。
今シーズン、ビリャレアルにはパレホが加わっている。リーガ屈指のプレイメーカーで、彼から学べるものは多いはずだ。
ただ、若手には試合経験が必要なのも事実。修業先の変更をお勧めする。
南野がリヴァプールに行ったのは驚いた。ちょっと活躍できるイメージが湧かない。
ザルツブルクでは確かに活躍していた。幸運だったのは目下売り出し中のストライカー、ホーランを相棒にプレーできたこと。それはたぶん、南野を一回りいい選手に見せた。
日本代表で南野は欠かせない、頼れる存在だ。
しかしサッカーは相対的なもの。プレミアのガチムチ達と南野が対峙すると、線が細く、か弱く見える。しかもリヴァプールのメンバーのレベルは高く、出場機会が得がたい。
また、イングリッシュプレミアリーグのフットボールは世界一縦に速い。適応するのはパスサッカーの国、日本人にとって非常に困難だ。吉田や岡崎は本当に優秀だったのだ。
だが。確かにリヴァプールは縦に遅いサッカーを志向するようになった。だが、その面ではまだまだ練度が低く、特に組織で連動して崩す動きが少ない。パスの数は少なく、どうしても独力で相手を剥がさねばならない。南野の不得意分野だ。
向いていないのだからさっさと移籍してしまうべきだ。幸い、リヴァプールで通用しなかったからといってそこまで評価は下がらない。『リヴァプールじゃ、仕方ないよね』と、受け入れようとするクラブはあるはずだ。
昨年11月にはベネズエラ戦が行われた。国内組と、暇そうな海外組が招集される。FIFAランク25位を相手にこのメンツでは荷が重かった。佐々木翔は厳しい。もう呼ばなくていいだろう。
左サイド。南米選手権で攻撃の中心だった中島は、増長気味。球離れが悪く、非効率的」
「ちょっと待って。前回の講義でコーチは中島のドリブル褒めてたよね?」
と、カットラス。
「ああ。
南米選手権はそれで良かった。それは、限られた選手の中で、中島が突出した攻撃力を持つ選手だったからだ。
だからみんな中島がプレーしやすいように配慮した。それで攻撃が噛み合った。ポルティモネンセでもそうだった。中島中心の戦術が採られ、機能していたに過ぎない。
でも今は歴としたA代表だ。中島を王様扱いしていない。
中島は違和感を感じていたはずだ。
『南米選手権では楽しくプレーできていたのに。うまくいかない』
ポルトでもそうだ。
中島は楽しくプレーすることを考えてプレーする。
しかしポルトガルも3年目、中島対策が進み、壁にぶち当たった。
中島は、V東京ではなく鹿島に行っていたらもっと成長出来たと思う。
日本人の悪いところなのだが、状況に合わせたプレーが苦手だ。勝つことよりもいいプレーをすることを目的にする。ボール保持率を上げ、シュートを打つ。
……少なくとも勝っているときと負けているときではプレーを変えるべきだ。
中島はただ得点につながるプレーをひたすらに選択する。
中島は、今の今まで、適切な教育を受けられなかった。これは日本サッカー界の失態だ。
優れたドリブラーであるがゆえに、自由にやらせた方がいいと考えられた指導者もいただろう。そしてどんなに叱られてもパスを出そうとはしなかった。この悪癖が出世が遅れた原因だ。
ベネズエラ戦、日本代表は押し込まれ、ボールを前に運べなくなった。
中島は世界有数のタレントだ。だがポルトガルの中島攻略法はこの試合で運用された。
まずは徹底して中島へのパスを遮断する。中島はこれを嫌がって低い位置に降りる。ベネズエラはわざとそこで中島にボールを受けさせる。
日本も低い位置の中島にパスしたくはない。でも中島へのパスコースはやけに開いている。中島にパス。そこで二人で前を阻む。時間がかかり、日本は前のめりになっている。中島はドリブル突破を試みる。
そんな状況でボールを奪われたらカウンターになる。
アジア勢が相手なら傷にはならないかもしれない。でもこのままではいつか致命傷。
中島へのタックルがうまくいかなかったら、シャツを掴んで倒してしまえばいい。中島は63kgしかない。簡単に倒せる。低い位置で捕まえればカードが出るリスクも低い。そうしてリトリートしてからリスタートさせれば脅威は減る。攻撃を遅らせることができる。中島をボールの取り所にするのは理に適っている。
中島は活躍出来なくなった。
中島の能力を疑いはしない。だが、変わる必要がある。
簡単な話だ。
二人以上が寄って来たらその裏、空いたスペースにパスを送ればいい。相手が掛けたリスクに対し罰を与える。適当なパスコースがなければ、横パスやバックパスで仕切り直し。
中島にはスピードだけで抜く力はない。相手を抜くためにはフェイントや緩急をつける必要がある。そこで動きが止まる。低い位置で相手を抜いてもその間に誰かにカバーされるとそのドリブルは水泡に帰す。低い位置でのドリブルはスピードで時間を掛けずに抜かないと意味がない。そもそもチャレンジする価値がほとんどない。中島は感覚でサッカーをする。その感覚が間違っていれば修正する必要がある。
時には黒子になることも必要だ。我慢して前で待機する必要がある。ドリブラーが低い位置でボールを受けてもメリットがない。味方のために動いてマーカーを引っ張り、守備陣を乱す。
サッカーを楽しむことは重要だ。ドリブルで相手を抜き去るとき、ボールがゴールマウスに吸い込まれるとき、人々が喝采を送る。これが中島の大好物。しかし、勝つためにやるべきことをやらないのは問題だ。
ポルトの監督、フラジオ・コンセイソンは中島に一から教育を施している。それが少しずつ中島を変化させている。うまくいけば中島は変身出来るかもしれない。
ただ、中島の体にはごん太い針金が入っている。これが曲がるか。
中島アンチは中島はパスしないで一人よがりなプレーをすると思っていたようだが、パスしないのではなくチャンスになりそうな位置に味方がいないだけだ。ポルティモネンセの一年半のリーグ戦で中島は15得点17アシストを記録している。パスの技術も確かなものがある。
森保ジャパンの初戦のコスタリカ戦、先制ゴールにつながるスルーパスなんか完璧だった。
そんな苦慮してまで中島を使う価値はあるのか?
ある。
欠点が露呈し、使いづらくなったのは確かだ。異端だが、異端ゆえにずば抜けた武器を持つ貴重なカードだ。そもそもアタッカーは安定したプレーができなくていい。時折爆発すればいい。下がらず、左ウィングの位置にいるようにすれば相手は怖いだろう。中島サイドのパスコースを封じてくるはずなので、そこを逆用して攻めたい」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます