第11話 エルフと巨人

 ある日


 夜中に叩き起こされた俺は何と表現すればいいのだろう。


 確かに最初はイラッときたよ。


 こんな夜遅くに一体誰が来たんだと不快な感情になったよ。


 しかし、ショコラが来て自分だけでは対処できないと述べたので、あの音に起こされてしまった全員を連れて外に出てみると、何と10m以上ある鉄条網のついた塀をガンガンと揺らしていたのだから。


「これはすごい力技ね」


 ショコラが感嘆のため息を漏らす。


 そういえばショコラは最初ここへ来た際に、どうやって侵入したのかと問うと、単に門の近くにある道具屋が開いていたのでそこから入ったらしい。


「最初はまさか開いているとは知らなかったので壁を登ろうとしていたけど、無理だったから諦め、駄目元で道具屋に入ると、そこから屋敷へ繋がっていたのよね」


 ちなみに現在ではしっかりと施錠されていることを明記しておく。


 そんなことを話している間に向こうが何やら呪文を呟くと、何と今度は塀の上から振り上げた拳が確認できてしまった。


「あ~、あれは巨人ね」


 隣のベルフェゴールが解説する。


「巨人族というのは通常でも身長が2、3mと人間に比べて大きいのだけど、その真価は巨人族のみが使える巨大化の呪文よ。山を越えるほどの大きさになれる巨人を私は何人か知っているわ」


 のんきにそう解説してくれるのは結構だが、そろそろ壁が嫌な音を立て始めている。


「おい! ハクア、アロウ! 大急ぎで塀の向こうに飛んで行って止めさせてくれ!」


 俺は空を飛べる鳥人の2人にそう命令した。




 場所は会議室。


 ここは屋敷の中でも最も広いので、結構人数が増えた一同が会すのに都合が良かった。


「お疲れ様です」


 俺は巨人が連れてきたもう一人の客の容体を確認した後に会議室へ戻るとショコラがそう労ってくれる。


「少し遅いぞ」


「お兄ちゃん、コウイチさんを責めない方が良いよ」


 俺としてはハクアとアロウの子ども組はベッドに入ってもらいたかったのだが、そこは強固な反対にあった。


 アロウは予測していたが、ハクアも口答えをするとは思わなかったな。


 ハクアが口を尖らせながら文句を言う様はすごく可愛らしかったと追記しておこう。


 一緒に抗議していたアロウを除く全員がハクアのむくれ顔にほっこりしていた。


「……実際にバケツを器代わりにしているの見ると圧倒されるな」


 巨人が持つそれはカップでなく、小さなバケツと形容した方が良いくらいの大きさだった。


「この屋敷の御主人殿か、夜分遅く忝い」


 かたじけないとはずいぶん古風な言い方だ、江戸時代の武士を連想される。


 改めて巨人を見るとやはり大きい。俺は170cm、ショコラは160cm程度なのだが、突如現れた巨人はどう見積もっても3mは優に超えていた。


 上半身しか映っていないが、胴周りはアロウとハクアがぎりぎり囲えるぐらい太い。黒い髪は短く刈りこまれており、精悍な青年というのが俺の第一印象である。


「申し遅れた、拙者の名はギアウッド=ウエスタン。訳合ってルクセンタールと旅をしていた」


「ギアウッドか」


 俺は巨人の名を舌で転がす。


「で、ギアウッドは共に連れてきたルクセンタールという名のエルフと何か関係でもあるのか?」


 その問いにギアウッドは目を伏せた。


 俺が先程まで看病していたのはエルフ。ウェーブ状の金色の髪に尖った耳、そしてその白い肌はまさしくエルフそのものだった。


 ちなみにベルフェゴール曰く、エルフは自然を操る魔法が得意らしい。


「まあ、おおよそ見当は付いているから良い。そして、ギアウッドがここを訪ねた理由は大方ルクセンタールが突然の吐き気や目まいを訴え、どうして良いか分からなくなったからだろ?」


「なっ!」


 図星だったのかギアウッドが目を見開く。


「安心しろ、あれは一過性のものだ。安静にして栄養を取れば問題ない。ただ……」


 俺はコホンと1つ咳払いをして。


「ルクセンタールはしばらくここに滞在させるべきだな。まだ部屋も余っているから2人とも泊まっても良いぞ」


 俺の言葉にギアウッドを含めた全員が首を傾げる。


「なあコウイチ、どうしていきなり2人を泊めるという話になるんだ? 風邪なら薬をいくつか分ければ良いだろ」


 アロウが皆の疑問を代弁したので、俺は説明するために少し間をおいた。


「ギアウッド、今から俺の言うことを黙って聞いてほしい。そして他の皆もだ、決して騒がないでくれよ」


 俺のただならぬ空気を感じ取ったのだろう。


 ゴクリと唾を呑む音がどこからか聞こえた。


「ルクセンタールは……デキている」


「「「「……はああああああ!?」」」」


 一瞬ポカンとした沈黙後、絶叫が会議室に響き渡った。

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