Ⅻ
夕飯は王と二人だけだった。長細いテーブルに、色とりどりの食材が並べられ、銀食器に載せられていた。僕の国では手づかみが多かったが、こちらでは丸い棒で食べた。とある国では寝転がりながら食べることが貴族風、とされているようだが、椅子に座って対面で食べる方が、まだ上品だ。
「どうだったかな、ここへ来てから」
王が僕を真っ直ぐに見つめる。僕は考えてから話し出す。
「目まぐるしい1週間でした。知らない人間が2人も死んだ。水死体なんて初めて見ました」
「そうか、そうだろうね」
「本当に。信じられないような出来事ばかりです」
「君を呼んでしまったのは、悪かったね」
「いえ、もともとこちらからお願いしたことですから」
「後悔をしているか?」
その時、僕はふと顔を上げて、じっくりと彼の顔を見つめた。笑うような、疲れたような、普段から表情すら自由にはできない人間の、本物の表情だった。
「後悔をしないために生きています」
僕はうっすらと微笑む。
「そうか」
すると、静かにまた食事を進める姿があった。
パンをちぎって口に運ぶ。渇いた砂のような自国のものとは異なり、ずいぶんふっくらとした良いものだった。
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