外をうろつけば、また撲殺されるのではないかと戦々恐々としながらも、なるべく素早く検証をしようとしていた。

 僕は、一人で地下牢へ行くことは避け、妻殺しの現場といわれる部屋へと向かった。

 そこは、王宮内の奥で、薄暗く湿気っていた。牢獄よりはずっと広大だが、カーテンで仕切られている。中央に天蓋付きのベッドが置かれ、サイドテーブルと椅子が一脚あるだけだった。そもそも、王宮自体が開放的であり、内と外の境界は曖昧だ。誰にでも入れるし、どこからでも出ていける。そのような開放性が、かえって妻殺しの解明を遅らせた。

 話によれば、妻はこの天蓋ベッドに血まみれで横たわっていたそうだ。仰向けで腹から血を流していたがそこにナイフはなかった。抵抗した跡が全くなく、そのようなことからも身内の犯行だと疑われたのだ。しかし、夫である弟は殺しが出来るほど頑強とも思えない。引きこもったりしないだろう。

 そして、その弟も、地下室で水死体として発見された。

 不思議な事ばかりだと思うが、事態を整理すれば、女を殺したのも弟を殺したのも、彼ではないかと安易に思う。

「どうして、妻は殺されたのだろう」

 僕は声に出して考えをまとめる。

「恨みがあったのか。権力には邪魔だったのか」

 王の妻ならいざしらず、弟の妻が大きな権力を持っているとも思えない。

 どうしても「なぜわざわざ殺したのか」という答えは見つからなかった。

 そのとき、ふと、天蓋ベッドの布が風に揺れた。幸い、風が吹いただけだった。ベッドの横のサイドテーブルに、人形が置かれている。よく見ると、浅黒い子供のような、半魚人のような不思議な顔をしている。少し不気味なのは、人形が刃物を持っていたことだ。まるで、今から人を刺し殺すかのように構えている。

 この時代には、剣を振りかざす男がいても、ナイフを振り回す人間は少ない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る