Ⅹ
意識を取り戻したのはベッドの上だった。てっきり断頭台の上にでも登りつめるかと思ったが、幸い暖かい布が体に被せられていた。
「お水はこちらへ置いておきます」
従者の女性が丁寧に礼をして去って行く。僕と同い年か少し上のようだった。
僕は後頭部を負傷し、切れ布が巻かれていることを手で触って確認する。地下牢で何者かに殴られて倒れたのだ。
ファラの死体を発見した時だった。なぜか暗闇になっていた地下道に、王の恋人らしき人物が降りていった。するとどうしたことか。レイミアは消え失せ、ファラはなぜか水死体のような膨れ具合で転がっていた。なぜ、あのような形で死んでいたのか。
僕と同じように、後頭部を打撲して殴り殺されるなら理解できるが、明らかに水で窒息していた。色の変わった顔面と、膨れ上がった皮膚が物語っていた。
「気がついたか」
顔を上げると、王が柱にもたれていた。どうやらずっとそこにいたようだった。
「ええ、僕は一体どうしたんでしょうか」
「地下で倒れていたよ」
「誰かに殴られたようです」
「そのようだね。なぜ、地下へ?」
僕は経緯と、死体の話をした。
ファラの死体はすでに回収され、葬儀に向けて準備されているそうだ。
「どうしてあんな死に方をしたのか」
僕と同じ疑問を国王も抱いていた。案の定、水死体で、窒息したことは明らかだった。なぜ、地下牢で息絶えなければならないのか。自力であの状態になることは想像がつかなかった。
すると、当然、行方不明の青年に気が向く。一体、どうやって消えたのか。霊か何かのような空恐ろしさを感じる。
「彼はナイフを持っていました。血まみれだった」
「今のところ、血まみれの死体は、見つかってはいないね」
「ファラも、彼が殺したんでしょうか」
「いくら彼でも、ナイフで窒息させることはできないだろう。死に方がチグハグだ」
たしかに、と僕は頭を抑えながら答える。ズキズキと脈動する血管を感じる。なぜ、僕のことも殺さなかったのか、という疑問も生じる。
「さて、私たちはどうするべきだろう。君の仕事もすっかり無くなってしまった」
王は遠くを見ていた。
たしかに、僕が父親から託されたのは、この国へ弁護人として派遣されたことであり、弁護する人間が死んでしまっては何も手出しできない。
そもそも、妻は誰が殺したのか。
死体の数が増えるだけで、謎は解決していない。ただ、ナイフは持ち去られているというから、彼が持っていた血まみれのナイフが、妻を殺したのかもしれない。また、何らかの方法で、ファラを窒息させたのだろうか。
「僕は何をすればよろしいでしょうか」
半病人のように尋ねると、意外と快活に返事があった。
「では、ファラを殺した人間を見つけてほしい」
彼は穏やかな顔でそう言った。
「今度は探偵ですか」
「そうだね。弁護する人がいなくなったので、せめて殺した人間を探してほしい」
僕は考えてから、まずはあの地下牢へ戻ろうと思った。
「私は少し疲れたので、すまないが、部屋で休んでいるよ。王宮内は自由に探してもらって構わない」
そう言って、国王は背中を見せて去っていった。空は曇り、雨が降りそうな雰囲気である。
そうか、と一瞬ひらめく。
ただ、あまりにも単純だ。
しかし、それくらいしか考えつかなかった。
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