意識を取り戻したのはベッドの上だった。てっきり断頭台の上にでも登りつめるかと思ったが、幸い暖かい布が体に被せられていた。

「お水はこちらへ置いておきます」

 従者の女性が丁寧に礼をして去って行く。僕と同い年か少し上のようだった。

 僕は後頭部を負傷し、切れ布が巻かれていることを手で触って確認する。地下牢で何者かに殴られて倒れたのだ。

 ファラの死体を発見した時だった。なぜか暗闇になっていた地下道に、王の恋人らしき人物が降りていった。するとどうしたことか。レイミアは消え失せ、ファラはなぜか水死体のような膨れ具合で転がっていた。なぜ、あのような形で死んでいたのか。

 僕と同じように、後頭部を打撲して殴り殺されるなら理解できるが、明らかに水で窒息していた。色の変わった顔面と、膨れ上がった皮膚が物語っていた。

「気がついたか」

 顔を上げると、王が柱にもたれていた。どうやらずっとそこにいたようだった。

「ええ、僕は一体どうしたんでしょうか」

「地下で倒れていたよ」

「誰かに殴られたようです」

「そのようだね。なぜ、地下へ?」

 僕は経緯と、死体の話をした。

 ファラの死体はすでに回収され、葬儀に向けて準備されているそうだ。

「どうしてあんな死に方をしたのか」

 僕と同じ疑問を国王も抱いていた。案の定、水死体で、窒息したことは明らかだった。なぜ、地下牢で息絶えなければならないのか。自力であの状態になることは想像がつかなかった。

 すると、当然、行方不明の青年に気が向く。一体、どうやって消えたのか。霊か何かのような空恐ろしさを感じる。

「彼はナイフを持っていました。血まみれだった」

「今のところ、血まみれの死体は、見つかってはいないね」

「ファラも、彼が殺したんでしょうか」

「いくら彼でも、ナイフで窒息させることはできないだろう。死に方がチグハグだ」

 たしかに、と僕は頭を抑えながら答える。ズキズキと脈動する血管を感じる。なぜ、僕のことも殺さなかったのか、という疑問も生じる。

「さて、私たちはどうするべきだろう。君の仕事もすっかり無くなってしまった」

 王は遠くを見ていた。

 たしかに、僕が父親から託されたのは、この国へ弁護人として派遣されたことであり、弁護する人間が死んでしまっては何も手出しできない。

 そもそも、妻は誰が殺したのか。

 死体の数が増えるだけで、謎は解決していない。ただ、ナイフは持ち去られているというから、彼が持っていた血まみれのナイフが、妻を殺したのかもしれない。また、何らかの方法で、ファラを窒息させたのだろうか。

「僕は何をすればよろしいでしょうか」

 半病人のように尋ねると、意外と快活に返事があった。

「では、ファラを殺した人間を見つけてほしい」

 彼は穏やかな顔でそう言った。

「今度は探偵ですか」

「そうだね。弁護する人がいなくなったので、せめて殺した人間を探してほしい」

 僕は考えてから、まずはあの地下牢へ戻ろうと思った。

「私は少し疲れたので、すまないが、部屋で休んでいるよ。王宮内は自由に探してもらって構わない」

 そう言って、国王は背中を見せて去っていった。空は曇り、雨が降りそうな雰囲気である。

そうか、と一瞬ひらめく。

 ただ、あまりにも単純だ。

 しかし、それくらいしか考えつかなかった。

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