Ⅷ
翌朝、太陽が昇る前に起き、ベッドの上で身支度を整え歩き出した。早朝の散歩は僕の日課だった。頭の中を整理するのにも丁度良い。
植物が咲き乱れる庭を横切ろうとしたそのとき。八方に葉を伸ばす巨大な植物の元に、線の細い人間が立っていた。
僕は、まるで会ったことがないのに、彼がレイミアであることを直感で知る。
僕がすぐにレイミアの元へ駆け寄らなかったのは、その手に銀色のナイフが輝いていたからだ。
なぜ、戻ってきたのだろうか。すると、ぼくはさらに目を凝らして、そのナイフが真っ赤に汚れていることを認めた。
まさか、と思い、急いで駆け寄ろうとした時、少年は猛烈な勢いで走り出した。獣のように荒々しく、素早い足だった。僕は急いでその後を追いかける。
すると、真っ直ぐの廊下を通り、やがてあの洞窟の入り口にたどり着いた。レイミアは、無言のまま入り口を入っていく。
僕もそのあとを追う。
ろうそくが消えている。一体、どの程度の頻度で新品に変えているのだろうか。
黄色の衣を身につけていたレイミアは、肌は、ファラよりも白かった。
顔はよく見えなかった。
僕は息を切らしながら老体に鞭を打って階段を降りていく。早朝の洞窟は、より一層冷たく寒かった。不気味な霊でも出そうだが、あいにく霊よりも不気味な少年を追っている。
レイミアはファラを殺しに行くつもりだろうか。なぜかはわからない。
「レイミア」と僕は大声を出してみた。
洞窟の中に木霊する。しかし、反響は壁に当たって跳ね返るだけだった。
滑るような岩肌を頼りに暗がりを進む。
ほんの少し目が慣れると前が見える。しかし、ろうそくのない洞窟内部は暗闇の巣窟だった。
ゆっくりと前しかない道を進んでいく。
すると、なぜかもう行き止まりに着いた。だだっ広い牢屋があり、そこには誰もいない。部屋だけはろうそくがついていた。
レイミアが消えた。
僕は恐る恐る目を凝らす。牢屋の中に自ら入ったのかと思ったのだ。しかし、そこには生きた人間はいなかった。
代わりに、上を向いて横たわる白ぶくれの死体があった。変わり果てた形状だが、それは間違いなく弟のファラだった。
明かりがないので薄らぼんやりとしか確認できないが、明らかに死んでいる。
目はむき出しで、皮膚と腹が膨れあがり、ピクリとも動かない。
「どうして」
僕はその時、自分の頭に猛烈な痛みを感じた。
何かで叩かれたような。
体がぐらりと倒れ落ち。
血の気が引いて行く。
目を開いていられない。
なぜかふと水の音を聞いた。
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