翌朝、太陽が昇る前に起き、ベッドの上で身支度を整え歩き出した。早朝の散歩は僕の日課だった。頭の中を整理するのにも丁度良い。

 植物が咲き乱れる庭を横切ろうとしたそのとき。八方に葉を伸ばす巨大な植物の元に、線の細い人間が立っていた。

 僕は、まるで会ったことがないのに、彼がレイミアであることを直感で知る。

 僕がすぐにレイミアの元へ駆け寄らなかったのは、その手に銀色のナイフが輝いていたからだ。

 なぜ、戻ってきたのだろうか。すると、ぼくはさらに目を凝らして、そのナイフが真っ赤に汚れていることを認めた。

 まさか、と思い、急いで駆け寄ろうとした時、少年は猛烈な勢いで走り出した。獣のように荒々しく、素早い足だった。僕は急いでその後を追いかける。

 すると、真っ直ぐの廊下を通り、やがてあの洞窟の入り口にたどり着いた。レイミアは、無言のまま入り口を入っていく。

 僕もそのあとを追う。

 ろうそくが消えている。一体、どの程度の頻度で新品に変えているのだろうか。

 黄色の衣を身につけていたレイミアは、肌は、ファラよりも白かった。

 顔はよく見えなかった。

 僕は息を切らしながら老体に鞭を打って階段を降りていく。早朝の洞窟は、より一層冷たく寒かった。不気味な霊でも出そうだが、あいにく霊よりも不気味な少年を追っている。

 レイミアはファラを殺しに行くつもりだろうか。なぜかはわからない。

「レイミア」と僕は大声を出してみた。

 洞窟の中に木霊する。しかし、反響は壁に当たって跳ね返るだけだった。

 滑るような岩肌を頼りに暗がりを進む。

 ほんの少し目が慣れると前が見える。しかし、ろうそくのない洞窟内部は暗闇の巣窟だった。

ゆっくりと前しかない道を進んでいく。

 すると、なぜかもう行き止まりに着いた。だだっ広い牢屋があり、そこには誰もいない。部屋だけはろうそくがついていた。

 レイミアが消えた。

 僕は恐る恐る目を凝らす。牢屋の中に自ら入ったのかと思ったのだ。しかし、そこには生きた人間はいなかった。

 代わりに、上を向いて横たわる白ぶくれの死体があった。変わり果てた形状だが、それは間違いなく弟のファラだった。

 明かりがないので薄らぼんやりとしか確認できないが、明らかに死んでいる。

 目はむき出しで、皮膚と腹が膨れあがり、ピクリとも動かない。

「どうして」

 僕はその時、自分の頭に猛烈な痛みを感じた。

 何かで叩かれたような。

 体がぐらりと倒れ落ち。

 血の気が引いて行く。

 目を開いていられない。

 なぜかふと水の音を聞いた。

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