彼の後につき、気がつくと自分の背後にも御付きの者と警護者がいた。家の敷地を出ると、門の外には石の敷かれた道がある。絹をまとった肥えた男たちが雑談していたが、こちらを見ると、そそくさと去っていった。

 柱の一つ一つにレリーフが彫られており、白い石肌は滑らかだった。廊下を通らないと外部には出られない。

「庇付きの廊下なんて洒落ていますね」

 彼は振り返って笑う。

「2ヶ月の突貫工事だが、わりとよくできている。特に、柱の表面は塗料に手間をかけている」

 しばらくすると、廊下の先に薄暗い階段が見えた。

 なんと下へ向かうようだ。地下施設だろうか。ここだけが岩盤になっているので、掘り進めて作ったのだろうか。

 僕はそのとてつもない技量に関心した。

 通常であれば簡単に崩れ落ちそうなものだが、大量の指示棒で莫大な重量を支えている。

 岩自体に穴をあけるには、当然、岩よりも硬い金属の道具がいる。

 僕の国では、今、砂地に建てる家を研究しているが、岩盤には無頓着だった。

 彼が影の中へ消えて行くので、僕もその背中について行く。お付きの者たちはいつのまにか散っていた。

「足元に気をつけて。まだ、階段は整えていないから。凸凹としているよ」

「今までのどんな階段よりも歩きにくいです」

「正直な人だな」

 大きな笑い声が響き渡る。

 頭を屈めながら中へ入ると、ぼんやりとロウソクの灯りが揺れていた。常に火を絶やさないようにしているのだろう。

「壁に何か描いてあります」

「そうだよ、わざわざミリヤ人の画家に描かせた。一生残る仕事だと喜んでいたよ」

「もちろん、そうでしょうね。なんと羨ましい」

 そう言って、僕はこの後に会う青年について考えた。果たして、どれほどの極悪人なのだろう。どれほど凶悪なんだろうか。

 足音が盛大に響いている。きっとこの奥に潜む牢屋にもよく聞こえるだろう。

 ミリヤの民が描いた壁面は、幾何学の模様だった。人や植物ではない。膨大な線で、色とりどりで複雑な形を描いている。特定の形を書いているわけではない。でも、宇宙のようだった。

 宇宙というものを教えてくれたのは父だ。天体観測に躍起になっており、空に広がる真っ黒な空間を宇宙と呼んでいた。真っ黒い空が宇宙であれば、この地下廊下に続く薄暗い空間も宇宙だろうか。

「徐々に冷えてくるから、気をつけて」

 彼はそう言ったが、僕は高揚感で熱を持っていた。

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