一歩
指を絡め、腕を上に伸ばす。凝り固まった体を伸ばしていく。
ここのところ研究室にこもってパソコンと向き合ってばかりだ。だがそのおかげで修論に少しずつ終わりが見えてきた。
今日はこれくらいでいいだろうとパソコンを閉じる。近くから同じシャットダウンの音が聞こえた。そちらを見る。この前の友人とちょうど目が合う。
「修論、順調?」
「もち。そっちも?」
「うん」
自然と切れる言葉。お互いなんとなく帰る用意を始める。友人は電車で、私は徒歩で。この前のように別れる。そこまで考える。
「……あのさ」
「んー?」
「……ご飯行かない?」
少し声が震えたかもしれない。友人はこちらを見る。心なしか驚いているように見える。怖い。
沈黙が、返答までの間が、永遠に感じる。
「――いいね!」
思わず溜めていた息が漏れ出る。
その表情も声音も何一つ違和感はない。嫌がっている様子はない。
「何食べる?」
「んー、どうしよう……」
じゃがーさん、一歩、進みました。
心の中で独り言つ。
小さな一歩でも、私にとっては大きな前進だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます