一歩

 指を絡め、腕を上に伸ばす。凝り固まった体を伸ばしていく。

 ここのところ研究室にこもってパソコンと向き合ってばかりだ。だがそのおかげで修論に少しずつ終わりが見えてきた。

 今日はこれくらいでいいだろうとパソコンを閉じる。近くから同じシャットダウンの音が聞こえた。そちらを見る。この前の友人とちょうど目が合う。

「修論、順調?」

「もち。そっちも?」

「うん」

 自然と切れる言葉。お互いなんとなく帰る用意を始める。友人は電車で、私は徒歩で。この前のように別れる。そこまで考える。

「……あのさ」

「んー?」

「……ご飯行かない?」

 少し声が震えたかもしれない。友人はこちらを見る。心なしか驚いているように見える。怖い。

 沈黙が、返答までの間が、永遠に感じる。

「――いいね!」

 思わず溜めていた息が漏れ出る。

 その表情も声音も何一つ違和感はない。嫌がっている様子はない。

「何食べる?」

「んー、どうしよう……」

 じゃがーさん、一歩、進みました。

 心の中で独り言つ。

 小さな一歩でも、私にとっては大きな前進だった。

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