第209話 大団円はニューホームで
引っ越しの作業は英雄が考えるよりも、かなり早く終わった。
家具は這寄の力で速達され、中の作業は栄一郎達四人の他に美蘭、修達の五人が。
更に、両親と祖父母が加わって――。
「ねぇフィリア? 何もかも無事に終わったって言うのに、何で僕はみんなの前で正座させられているワケ?」
「ほう? 君は心当たりが無いと、そう言うのだな?」
「…………あー、やっぱアパートを燃やしたの怒ってる? 灯油をぶちまけたのって危険だったもんねぇ」
「いや違う、それは二人で決めた事だとやかく言うつもりは無い」
「じゃあ、もしかして……君のコンソメ味のポテチ黙って食べた事?」
「やはり君だったかッ!! ――いや違う、私も君ののり塩を食べたからなおあいこだ」
「やっぱ君だったんじゃん!! え、じゃマジで何で僕は正座されられてるのっ!? っていうかみんな変な顔して黙ってるし、事態が飲み込めないんですけどっ!?」
まったく持って心当たりは無い、だが気付いた事が二つ。
男性陣は、すまなさそうに。
女性陣は、半ば同情的に。
この差はいったい何だろうか?
「栄一郎? 天魔? 何か知らない?」
「くうううッ、申し訳ない英雄殿ッ!! 阻止できなかった拙者をッ責めて欲しいでおじゃ!!」
「スマン英雄……、俺らの不手際だ、いやお前も原因である事は確かなんだが、お前にはあんまり罪は無いんだが……」
「もっと具体的にどうぞ?」
「……」「……」
「なんで黙るのっ!? ボクの心は不安で死にそうだよっ!? 親父っ! 祖父ちゃん!」
「ふっ、迂闊だったな英雄……それは俺が既に通った道だ……こんな所も親子で似なくてもなぁ」
「いや違うぜ王太……三代揃って同じだ」
「どういうコトっ!? 修兄さんっ! ロダン義兄さんっ! 義父さんっ! 何か知ってるんだよねっ! ねぇっ!!」
「俺も気をつけなきゃなぁ……」
「ボクも気をつけるコトにするよ」
「ああ、大変勉強になった。……この年だしそんな事はないだろうが、警戒するに越したことは無いな」
「だから具体的に言ってっ!?」
「…………はぁ、失望したぞ英雄。しかも先に男性陣に聞くとは」
「誰か! 説明! してよ!!」
悲痛な叫びを上げた英雄に、こころが暖かみのある眼差しで。
「母として言うわ、……貴男の決断ならソレを受け入れるけど、私はフィリアの味方だから」
「お袋っ!? ちょっと義母さん婆ちゃん! 翻訳してお願いっ!!」
「……これは試練よ英雄。祖母として見守るしかないわ」
「いや婆ちゃん、顔が笑ってるよね、楽しんでるよね?」
「娘婿その2よ……、ちょっとした悋気だから笑って受け入れてくれると……ぷぷっ、おかしいったら! フィリアは楽しい人を夫にしたわねぇっ!!」
「んもおおおおおおおおおおお!! どんな反応だよおおおおおおおおおお!! 愛衣ちゃん、茉莉センセ! ディアさん、イアさん、小夜さん、んでもって美蘭!! マジで答えて」
すると彼女達は、ひそひそと内緒話。
数秒の後、美蘭が任されたと言わんばかりに胸を叩いて。
「――良く聞きなさい、わたくしが慈悲を以て伝えましょう」
「前置きは良いから単刀直入に」
「英雄の荷物から、ラブレターが見つかったわ。しかも男性からの」
「…………――――~~~~っ!? え、あれっ!? マジでっ!? どうやってっ!? 外箱付きの昆虫図鑑の中をくり抜いて、その中に鍵付きの箱に入れたよねっ!?」
「すまない英雄殿……、落としたら鍵が壊れた様でゴザって……」
「あぁ……、そういや爺ちゃんチの倉から持ち出した年代物だったっけ」
「ラブレターが出てくるだろ? 見るだろ? 男からの熱烈ラブレターで爆笑するだろ? ……まさか後ろにフィリアさんが居るとは気付かなくて……マジでスマン」
「成程……そう言うワケだったんだね」
疑問は解消された、確かに隠したのだその中に。
捨てるべきではあるが、一応は心のこもった手紙。
彼の恋心に答えられなくとも、せめて……と情けを出した末の処置だったが。
「これで分かっただろう? 私が怒っている訳が」
「嫉妬の間違いじゃなくて?」
「そうとも言う」
「ひとつ質問なんだけどさ」
「何だ? 今からお前は一週間耐久お姫様だっこの刑だが?」
「イチャイチャに見せかけて地味に面倒なヤツっ!? ――じゃなくてさ、他のは見た?」
「…………ふむ? 見ていないが? しかしどうせ同じラブレターだろう、女からのもあるだろうが私にとっては等しく嫉妬だ」
静かに言い切ったフィリア、道理で女性陣が苦笑しつつ同情的な訳で、男性陣がすまなさそうにしている訳である。
(…………これ、僕なにも悪くないよね? というか正座させられて足が痺れ始めてる分、損してない?)
ならば、ならば、――明かすしかない。
あの秘密の小箱に隠された英雄の努力を。
「――皆、待つでゴザル。我輩、妙に嫌な予感がするでおじゃが?」
「奇遇だな栄一郎、俺も同じだ」
「おい英雄、君は何を企んでいる。新妻が可愛らしく、そしてやり場のないドロドロとした嫉妬を向けようとしているのだぞ? ……そのニヤニヤとした顔は何だ」
フィリアの瞳が不審に細まる、他の者は戸惑いに揺れて。
「ね、もう一度聞くけど――、他の手紙は見なかったんだね?」
「あ、ああ……そうだが?」
「オッケー、じゃあその手紙を全部持ってきてよ。あ、それから同じように隠してある電車図鑑も持ってきて」
「まだあったのかッ!? 信じられんッ!! この私の夫にラブレターを渡す痴れ者がまだ居たとはッ!! 駆逐してやるッ! 全員の住所を突き止めて駆逐してやるッ!!」
「はいはいフィリア、落ち着いてね」
栄一郎は直ぐに戻ってきて、英雄は二つの箱を手に取る。
その瞬間であった。
「あ、俺、ちょっと予定思い出したから帰るわ」
「オサム様?」「修?」「――修くん?」
「はい、修兄さん捕まえててね」
「――っ!? 拙者も帰るッ!! 行くぞ茉莉ッ!」
「はい天魔、栄一郎捕まえてて」
「ヤメロォ離せえええええええ、畜生アレかよッ!! その箱ってアレかよおおおおおおおおお!!」
「え、ちょっと英雄? 貴男の親友達の様子が変じゃないかしら?」
「直ぐに分かります――あ、お袋! 婆ちゃん! 親父と爺ちゃんを捕まえて」
「王太?」「平九郎?」
「おい英雄ォ! テメェそこで隠してたのかよッ!?」
「恨んでるな? 命名騒動やっぱ根に持ってるなお前えええええええええ!!」
「王太も長老もどうしたんだ?」
「そうそうカミラさん、義父さんを捕まえていてください」
「俺もかっ!?」「え、勇里も?」
次々と男共は捕まって、女達は首を傾げ。
「待て英雄、いったいそれは何なのだッ!? ただ事じゃないだろうコレはッ!?」
「いやー、じぶんで言うのも何だけどさ。僕ってば口が堅いじゃん? 頼りになって人望もあるじゃん?」
「そうだな、それは私の魅力の一つでもある」
「んでさ、僕だけじゃないんだ。捨ててしまうには心が引けるけど、手元に残しておくのは危険だって品とか手紙とか」
「…………まさか、皆から預かっているのか!? この手紙は全部君のモノじゃなくて、皆が持っていた手紙かッ!!」
「そうだよっ!! これがみんなが隠したかった忘れたかった手紙!!」
「テメェ英雄!!」「ヤメロォ! 拙者の古傷が!!」「マジで勘弁しろよ……いや俺はあんまり無いけどさぁ」「よし英雄、ここは親子のよしみ、ウォーキングデッドのブルーレイ全巻で手を打たないか?」「ま、まさかボクのもあるのかいっ!?」「俺のもあるのか……? え? あるのか本当に?」
「ウケケケっ、こうなったら一蓮托生だよっ!! なお、うっかり事故って出来ちゃった結婚騒動に巻き込まれたとか、女装騒ぎで超絶面倒くさかったっていうかフィリアの妊娠報告それで遅れたとか、僕らの子なのに名前をかってに着けようとしたとか、全然、全然、まぁーーーーったく気にしてないからねっ!!」
「ふむ、これはかなり根に持ってるな」
フィリアが冷や汗をかきながら冷静に分析、しかしそんな事は誰が聞いても丸わかりであり。
「じゃあ行っくよーー! 最初は栄一郎への男からのラブレター! これは僕らと天魔が事前に阻止したものですっ! んでもって、茉莉センセへのラブレター! 栄一郎が事前に止めて、僕に渡したヤツでーす!」
「英雄殿のばーかばーかばーか!!」
「そして天魔!! ……は実は出せなかったラブレターを預かってるだけなんだよね。これは僕が記念に持っておくよ」
「センパイセンパイ! わたし欲しいですっ!!」
「ダメでーす、これは友情の飽かしだからね!」
「なら拙者も秘密にしておいて欲しいでゴザルううううううううう!!」
「そんな事を言うなら、茉莉センセには栄一郎が書いた宛先不明のラブレター集。いやー、僕には誰を想像して書いたか分からないけど、きっと茉莉センセ持ってるべきだよねっ!!」
「ぬああああああああああああああ、傷口が広がったでゴザルうううううううう!!」
「感謝する英雄、これはアタシがしっかり管理しておくさ」
「んでもってぇ、これは修兄さんが握りつぶしたディアさん達へのラブレター!! そして実はこっそり通ってたガールズバーの割引券!!」
「嘘だ濡れ衣だっ!! それはガールズバーじゃなくて、昔憧れてた先輩への――――はうぁっ!?」
「はいディアさん達、兄さんの愛の遍歴だよじっくり確かめてね」
「はいっ! ありがとうございます英雄さん!」
「ド畜生うううううううううう! 俺助けたじゃん! 助けたじゃんか!!」
「いや兄さん、僕忘れてないからね? 時期的にディアさんと出会う直前だろうけどさ、助けた女の子達と修羅場った時、兄さんを助けに来た僕を囮にして逃げたでしょ」
「…………正直すまんかった」
「ていうワケで、次行ってみよう! 爺ちゃんがキャバ嬢から貰ったラブレター各種に、親父が握りつぶしたお袋へのラブレター各種! それからロダン義兄さんへのラブレターに、義父さんへの……」
「いや待て英雄、なぜ父さんのも持っているッ!?」
「正月に君んチ行った時に、誰とは言わないけど処分に困ってるのを引き取った。――こんなコトもあろうかとっ! こんなコトもあろうかとっ!!」
「平九郎?」「王太?」「勇里?」
途端に勃発する修羅場、男性陣の隙から、はたまた愛からくる黒歴史。
新居は愛の戦乱に巻き込まれるその瞬間。
「ようし!! 栄一郎! 天魔! 任天堂スイッチを用意だっ!!」
「フィリア! 全員分の座席用意するよっ!」
「ま、まさか今ここでやるでゴザルかッ!?」
「へへっ、これで決着か……腕が鳴るぜ!」
「おい英雄? 俺達にも分かるように言ってくれ」
「親父、……僕らはね、こうして解決するんだっ!! 脇部英雄くんチ主催! 子供が出来たよおめでとうスマブラ杯を開催する!! 文句は勝ち抜いてからにしてもらおうか! 負けたら全部許すってコトで!! 今日は僕らのルールに従って貰う!! あ、夫婦タッグでね」
いそいそと準備をする若者達、夕食も考えてオヤツは抜きである。
そして親たちは互いに顔を見合わせて……。
「ゲームだろうが俺が勝ァつ!! いくぞ那凪!!」
「ふふっ、お手柔らかにね英雄」
「しゃーねぇなぁ、こころに黙って買って練習していた腕を見せてやるぜ!!」
「王太、フツーにバレてるわよ? 実は私も貴男が仕事の間に英雄対策で練習してたから」
「いやぁ、これはボクらにも風が吹いてきたかな?」
「日頃から二人につき合って遊んでいるからな」
「これは……ちょっと不利だな」
「任せて勇里っ! 初代スマブラで鳴らした腕は落ちていないわっ!!」
彼らは戦意十分、ならば今こそ叫ぶ時。
「みんなっ!! 楽しんでいくよ!!」
「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」」」」
そして夕食の時間に食い込んでも、彼らはゲーム大会を夢中になって楽しんで。
なお、優勝者は噂を聞きつけて乱入してきた校長夫妻であった。
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