第201話 ぶち壊せ!!



「この市立、倉尾帝高校においては校長の儂こそがルール!!」


「あ、久々にウチの高校の名前聞いたね」


「久しぶりだが、初めて聞く感動を覚えるな」


「結構余裕でゴザルね?」


「いや、校長の奇行はいつもの事だろ」


「ええい!! 儂の話を聞かんかっ!! 校長であるぞ!!」


 そうは言っても、突如やってきて金の銅像を押しつけようなんて人物への対応としては適切ではないか。


「校長がルールなのは良いけどさ、金の銅像は破壊するからね?」


「なんとッ!! 嘆かわしいぞ脇部の孫ォ!! 貴様の父は儂がルールと言ったら喜んで反逆したというのにッ!!」


「僕は僕だからね?」


「ククク、だが幾ら貴様が銅像を壊すと言っても既に設置は完了している!! しかも貴様と這寄――ではないな、フィリアくんとの愛のメモリーを備え付けタブレットで常時再生出来るようになっているのだッ!!」


「僕と敵対したいのかプレゼントなのか、どっちかにしてくれない?」


 象徴だの愛のメモリーだの、この校長は何をしたいのだろうか。

 英雄とフィリアの子供の命名権を得たいにしては、チグハグに思える。


「――――あ、なるほろ。さては祖父ちゃんを呼んで欲しいんだね?」


「ザッツライッッッ!! 流石は英雄くんじゃ!! 久しぶりに相手をして欲しくてのぅ……」


「オッケー、じゃあ祖父ちゃん呼ぶから銅像撤去してよ」


「ふむ、撤去は好きにすれば良いが……実は早速問題が起こってな」


「え、何それ? 嫌な予感しかしないんだけどっ!?」


 先ほど見た時は、まだブルーシートに覆われていた筈だ。

 こんな短時間に何が――――。


「…………はぁッ!? 銅像の前で二年と一年が争ってるだとッ!? 愛衣、どうしてそうなってるんだッ!?」


「マジでっ!? 僕らも行こう!! あ、近くに来てたみたいで直ぐに来るそうですよ祖父ちゃん!」


「サンキューじゃ英雄くん! 頑張れよぉ~~~~!!」


 そして昇降口の銅像前には。


「だーかーらぁーーー! こんな銅像なんて撤去するんですっ!! 英雄センパイは望んでませんったら!!」


「幾ら脇部先輩と仲が良いって言っても! この像は死守します! 脇部先輩、いや団長こそ我が校の象徴にして恋人たちのヒーロー! 来年以降の後輩たちの為にも残しておくべきですっ!!」


「撤去!」「残してください!」「ぶっこわせ!!」「先輩方は分からんのですか!? 希望は必要なのです!」「心さえあれば希望は見えるのだ!!」


「え、どういう状況?」


「ふむ、説明をしてくれるな?」


「英雄センパイ! フィリア先輩!」


「先輩方はオレ達の味方ですよね!」


 二年の代表は愛衣、一年といえばどこかで見た顔。


「あっ、君はバレンタインの時の騎士団中学支部の幹部の! そういえばウチに入学したっていってたね!!」


「おおっ!! 覚えていてくれましたか!! 感激です団長!!」


「ははっ、バレンタインは終わったし団長はよしてよ。二人はそれぞれ一年と二年の代表? なんで対立してる訳?」


 英雄の質問に愛衣は溜息を一つ、元幹部は瞳をきらきらさせて。


「わたし達としては、英雄センパイの人となりをよーく知ってる訳で。中にはわたしの様に中学時代から一緒の人も多く居ますし」


「くぅ~~、羨ましいっすセンパイ!! オレも隣の中学に行けば良かった!! もっと……もっと早く英雄センパイと知り合いたかった!!」


「なるほろ、ありがとう愛衣ちゃん! んで君は?」


「はいっ!! オレ達、今年の一年はバレンタインの時の騎士団員が多く入学して、是非とも! 英雄センパイにはご卒業後も、我が校の恋人たちの指針となるべく、その象徴として像を残したいのでありますっ!!」


「いや、ふつーに迷惑なんだけど?」


「何故っ!?」


 信じられないと叫んだ元団員、他の一年も男女共に同じ表情。


「……待て、何故女子も賛同しているんだ?」


「一年女子は同盟員が殆どで、皆、センパイご夫妻によって恋人たちと幸せを掴んだ者達なのです!!」


「という訳なんですよぉ……、どうにもこうにもセンパイ達は一年の間で神格化されちゃってるみたいで」


「どうするフィリア?」


「どうもこうも、君の意志次第だろう」


「あれ? 撤去に賛成してくれないの?」


「いや、夫の素晴らしさが後世まで残るのだぞ? 妻としては喜ばしいが、君が嫌なら協力もする」


「となると、説得しなきゃいけないのか……」


 またも、またもこれか。

 今日は厄日なのだろうか、登校中に意志を変えることの難しさを痛感したばかりなのに同じ問題が発生するとは。


(ああああああああ、もうっ!! どーして次から次へとっ!! 温厚な僕もキレそうだよっ!!)


 しかしプッツンしたところで意味は無く、そして無理矢理撤去しても、根本的な所で亀裂が入る気がする。

 ぐぬぬと悩む英雄を前に、フィリアはふむと頷いて。


「――――英雄、どこかで妥協したらどうだ?」


「妥協? どの辺を?」


「君としては撤去したい、何故だ?」


「何故って、そりゃ恥ずかしいから」


「そこでだ、……不公平だと思わないか? 君だけが恥ずかしいなどと、公平ではないだろう?」


 ニマリと笑うフィリアに、愛衣達二年は嫌な予感。

 一年はその空気に戸惑って、英雄は満面の笑み。

 そうだ、そうこなくては。


「流石だよフィリア!! うん、そうだよ毒を食らえば皿までってね!! 君がお嫁さんで本当に良かった!! 愛してる!!」


「だ、団長? つまりどういう事で?」


(ウケケケ、僕だけなんて不公平だもんねっ!!)


 ならばならばならば。

 英雄の灰色の頭脳が活性化する、ぎゅんぎゅん唸る。

 こうなったらもう、――楽しんだもの勝ちだ!!


「――――カメラ、放送部はカメラを用意してっ!!」


「英雄センパイ?」


「はははっ!! こうなったらヤケだっ!! どいつもこいつも、そんなにお祭り騒ぎが好きか!! ならそうしようじゃないか!!」


「あー、英雄殿のスイッチ入ったでゴザルな!」


「ようし、俺がひとっ走りカメラ持ってくるぜ! デジカメじゃなくてビデオの方だな?」


「勿論だよ天魔!! ――みんな聞いて!! 君たちの気持ちはよーーーーーーく理解した!!」


 そう宣言する英雄に、フィリア達以外は身構えて。


「全恋人達に告げる!! これから君達のラブラブ動画を取る!! そして! この銅像のタブレットから流す!! 僕らの動画だけ流してたまるか!!」


「私から付け加えよう、――――英雄の像の隣に私の像も立てる!! そして!! 二人の顔はプラモデルの様に取り外せる様にするッ!!」


「あのー、センパイ方? それはどういう……」


「これから校内ベストカップル総選挙を行う!! 授業なんて知ったことか! 三年生だからね! 二年一年は補修に怯えるといいよ!!」


「そしてベストカップルに選ばれた者の顔を! この銅像の顔を入れ替えるッ!! 我こそはベストカップルだと思うならば――――参加するが良い!!」


 英雄とフィリアの宣言に、誰もが顔を見合わせて黙り込む。

 そして数秒後。


「うおおおおおおおおお!! つまり団長を乗り越えろと!! この倉尾帝高校の新たな恋人達の象徴となれと!! そういう事ですね!! 我々もセンパイ方のような偉大なるイチャイチャバカップルになれると!!」


「そうだよっ!!」


「――――はっ!? つまり、わたしと天魔くんが勝てば、銅像として語り継がれると!! これは負けてられません!!」


「そうだともっ!!」


 もはやヤケクソそのもの、拳を振り上げる英雄に皆は沸き立つ。


「愛が重いとか、そんなのご褒美だよっ!! 子供の名前は譲らないっ!! というか、僕らこそが最強のバカップルだ!!」


「我らの愛に負けぬと思うなら、かかって来いッ!!」


 その日、突発的に行われた校内ベストカップル総選挙。

 教職員のみならず、後半にはOBも飛び入り参加して。

 結果的に、英雄とフィリアが第一回ベストカップルとして選ばれた訳だが。

 帰宅後である。


「――――あー、疲れたぁ。面白かったけど疲れたぁ…………」


「まさか、義母さんと義父さんのみならずお爺様と御婆様や、ご近所の方々だけじゃなくて、総理大臣まで参加するとは……」


「驚きだよねぇ、まさか卒業生だったなんて」


「最終戦、女装も脱糞も全裸も封じられて良く勝利出来たな英雄……」


「だよね、フィリアも盗撮盗聴を無効化されて。良く勝ち残れたよね」


「「楽しかったけど、もう、二度とやりたくない」」


 仲良く声を揃える二人、だが彼らは知らなかった。

 今後、三年に一度に開催される総選挙だったが、歴代のベストカップルが二人が獲得した総票数に及ばず。

 その後、二十年余り銅像の顔が変わらない事を。

 その後、恋人達の像として告白スポットとなる事を。

 全ては、卒業後の話であり――。


「――今、ちょっと良いか?」


「あれ? ローズ義姉さん! ベスト三位の義姉さんじゃないか!」


「そうだとも一位の、だが今は乱痴気騒ぎの話ではない」


「そうそう、とても大事な話なんだ」


「ロダン義兄さん? 二人ともどうしたんだ?」


 フィリアの疑問に、二人は深刻な顔で。


「――――心しろ、そして備えろ我が妹と英雄」


「驚かないで聞いて欲しい、…………義母さん達が来る」


「………………フィリア? なんで義母さん達が来るだけでこの反応なの?」


「分からんが、……嫌な予感がするな」


 ちょっとやつれた様な彼らの表情に、英雄とフィリアはごくりと唾を飲んだのだった。


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