第200話 プレゼント或いは賄賂
両親と祖父を部屋から叩き出して、その日は事なきを得た二人であったが。
そうなってくると必要なのが対策である。
翌日、彼らは登校しながら話し合って。
「まさかこんな事になるなんて……」
「こういう事を言うのもアレだが、――君の親族は馬鹿か?」
「うーん、否定できないし今は君もその親族の一人だってコト分かってる?」
「うむ、私もきっと馬鹿なのだろう。だが心しておけ英雄。――――これで終わりとは思えない」
「だよね、絶対に何かしてくるよ」
「それもあるが…………私の親族の方はどう出てくるのだろうな……」
遠い目をするフィリアに、英雄はいっそうゲンナリして。
そうだ、忘れていた。
お祭り騒ぎは脇部一族の専売特許、と言いたいが。
「ううっ、ローズ義姉さんとロダン義兄さんはまともな反応してくれると信じたいっ!」
「五分五分だな、ウチの親にとっては同じく孫だ。矛先はそちらにも向く筈だろうから……ああ、多分大丈夫な筈だ」
「嘘でも良いから、断言して欲しかったっ!!」
と、そこで気づく。
フィリアの父・勇里の性格は温厚だ。
むしろ伴侶の性質という点で話が合うし、そもそも彼は父の親友だ。
双方の親族合わせても、最後の良心と言えよう。
だが。
「そういや僕ってば、義母さんのコトはあんまり知らないけど……、義父さん関係意外はまともなの?」
「ふむ? 君にしては察しが悪いな」
「というと?」
「良く考えて見ろ、私と君の両親は大学時代の親友同士だ」
「つまり?」
「考えることを放棄していないか? まあ良い、結論から言おう。――――母がもし日本人として産まれたならば、絶対に脇部の家の出だろう」
「それ絶対に、孫の命名権を盗りに来るヤツじゃんかーーっ!!」
「考えろ英雄、いや我ら二人で考えなければならないのだッ!! 我が子の名前を死守する事をッ!!」
「トホホ……、企みや陰謀の類なら阻止する方法がいくらでも考えつくけど、意志を変えさせるのが一番面倒くさいんだよなぁ……」
栄一郎の女装ママ事件の時も、即日解決と行かなかったのはそれが彼の善意でもあったからだ。
「悪意が無いのが厄介なんだよなぁ……、少しは気持ちが分かっちゃうのがまたね」
「それだな、愛する我が子の産んだ子。私もお節介と思いつつ名前をつい考えてしまいそうだ」
「目的を反らそうにも、その対象に心当たりは無いし」
「素直に言って引き下がるような人種では無いからなぁ」
「僕の時もそうだったろって言ってみた所で、だからお前も味わえ通過儀礼だとか言いそう」
「それを跳ねのけてこそ親の一歩と、母さんも言いそうだ……」
名案、奇策、次善策、どれも思いつかなくて。
「…………出産まで海外に逃げればワンチャンあるかな?」
「もしやウチの母方の祖父母を? 恐らく時間稼ぎにしかならないぞ」
「やっぱ義母さんがネック?」
「そうだ、恐らく日本を出る前に察知されて先回りされる、最悪出国不可だ」
「繋がりの無い土地に言っても不安要素しかないもんなぁ」
「やはり、いつも通り真正面からインパクトで叩き潰すしかないのでは?」
「そのインパクトが見つかれば…………、第三者の介入……駄目だ目的を達成できるヒトが思いつかない」
「では物理的なインパクトはどうだ?」
「全員、殴り倒せって?」
「そうではなく、物理で精神攻撃する君のいつものやり口だ」
「学校を爆破するぐらいしか思いつかないや」
「やるなよ? 絶対にやるなよ? フリじゃないからな? 卒業どころか受験前に廃校とか同級生にも下級生にも迷惑だからな?」
「僕をいったい何だと思ってるの?」
「世界一愛してる夫(バカ)だが?」
「今なんか変なニュアンスだった!!」
「気のせいだろう、さ、歩け歩け。遅れてしまうぞ」
「奥さんからの扱い酷い気がする……。まぁ良いや、行こうか僕らの安息の地へ」
流石に学校までは魔の手を伸ばさないだろう、二人は安心感を覚えつつ校門を通り抜け。
校舎の入り口に銅像が設置途中なのに気づいたが、華麗にスルー。
今の彼らには野次馬根性すら無かったし、そもそもブルーシートで覆われていて覗き見する隙間も無かったからだ。
そして教室に入ると。
「…………え、なにコレ?」
「聞いてくれ英雄、私の目が少し変になった様だ」
「多分それ正常だね、僕にも見えるから」
「なんなのだ……いったい何なのだこれはッ!!」
頭を抱えるフィリア、然もあらん。
二人の机と椅子は新品どころか、機能性に優れた高級なオフィスチェアーとデスクといった代物。
「おはようでゴザルお二方……、その様子だと想定外でおじゃ? というか何があったにゃ?」
「まーた何か事件に首でも突っ込んだのか? お前も飽きないよな」
「今回は僕の所為じゃ――いや原因かもしれないけどっ!!」
「どっちだ? どっちの親の仕業だ……?」
「うむむ? 端的に状況を頼むでゴザル」
「ウチの子、命名権争奪戦が親族間で勃発」
その瞬間であった、聞き耳を立てていたクラスメイト達が一斉に目を丸くして。
「フィリアさん妊娠したの!?」「マジか!?」「ヤりやがったな脇部!」「待ち望んでたもんねぇ」「そういやトトカルチョしてたよな」「賭け表は誰が持ってたっけ」
「いやいやみんな? もっと僕らに言うことあるでしょ」
「「「「おめでた、おめでとう!!」」」」
「うむ、ありがとう!!」
「いや嬉しいけどそうじゃなくてっ!! 聞いてたんなら同情が欲しいんだけどっ!?」
叫ぶ英雄に、栄一郎はぽんと手を叩いて。
「分かったでゴザル!!」
「じゃあ栄一郎、答えをどうぞっ!!」
「みんなーーーー! 英雄殿に貢ぎ物をすると、子供の命名権が手に入るでゴザル!!」
「これだから頭の回るバカはっ!! どうしてそっちに行ったのっ!? せめて一緒に止める側になってよっ!?」
途端ざわつくクラスメイト、英雄は栄一郎のこめかみをグリグリと。
「すまん英雄、俺も栄一郎もお前の気持ちは分かる。分かるんだが――」
「ぬおおおおおッ、タップタップ! 我輩ののうみしょ壊れりゅううううううううううう!!」
「その言い方では貴様の敵に回るか? ん? 容赦はせんぞ?」
「ギブギブギブッ!! 変なとびらひらいちゃうッ!! せっしゃあぶのーまるにかいがんすりゅうううううううう!?」
「待て待て待て、そういう事じゃなくてな……」
天魔はそう言うと、照れくさそうにそっぽを向いて。
「お前らが来るまで話してたんだよ、友情の証として俺らの子供の名前を付け合ったらどうだって」
「いいねそれっ!!」
「いや君は即答するな? 一考の余地は無くもないが私は二人で決めたいし。どうせ愛衣と茉莉先生の賛同は得ていないのだろう?」
「まあな、今考えてた事だし。――栄一郎も色々照れくさくてつい、ああ言っちまっただけなんだ」
「そうなの?」
「……………………ああ、そうだ。英雄には借りが出来っぱなしだ、これからはもっと力になろうと思ったんだが。いざとなれば恥ずかしくなってな」
「うーん、栄一郎の真面目な口調ってば背筋が痒くなるね」
「ふむ、女言葉でもう一度言ってみろ」
「――ふふッ、ごめんなさいね。私ったら照れくさくてついフザケてしまったわ。これからも親友でいてくれると嬉しいのだけれど」
「女装してからもう一回言ってどうぞ?」
「ちょっと拙者で遊び過ぎでおじゃッ!?」
「ま、暫くは我慢しろよ栄一郎!」
「トホホ……、――話は聞いてたでゴザルな! 皆で英雄殿とフィリア殿の御子の名を死守するでゴザル!!」
「「「「おおおおおおおおおおおおおっ!!」」」
やはり聞き耳を立てていたクラスメイト達は、全員拳を振り上げて決意の雄叫び。
その瞬間であった。
「ふぉっふぉっふぉっふぉっふぉっ!! 果たして貴様等小童に、脇部ジュニア夫妻の子供の名前を守れるものかッ!!」
「だ、誰だっ!!」
「良くぞ聞いてくれた! 儂こそが校長!! 脇部家の宿敵!! 平九郎の大親友!!」
「みんなー、校長がまたヤらかしそうだからガムテで縛るよっ!!」
「ぬおおおおおおおおっ!! 即断即決過ぎるっ!! これだから脇部の一族はっ!! それでこそ我が宿敵なりっ!!」
「お前も手伝え英雄っ!! 校長しぶといぞ!!」
「拙者を踏み台にしたっ!?」
クラス男子の囲いを、栄一郎を足場にする事で乗り越えた校長はヒーロー着地をキメめて。
「脇部英雄君! 貴様に安息の地は無しっ!! 儂も命名権争奪戦に参加じゃ!! 校舎の入り口に設置した『等身大・金の英雄くん像』を、ありがたく受け入れろおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「だから何でだよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
安息の地など無かった、しかも金の等身大像。
どうしてこうなった、その言葉が英雄の脳裏を埋め尽くしたのであった。
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