第198話 ゲットバック・ラブ!/発覚
(な、なんでそうなるのさあああああああああああああああああああああああっ!?)
茉莉の言葉に、英雄は大いに焦った。
不味い不味い不味い。
これは本当に不味い事態である。
(読み違えたあああああああああああああああああ!!)
今回の騒動、栄一郎を目覚めさせる為に。
そして妻として放置された嫉妬の発露だと。
(どうしよう……マジでどうしようっ!!)
あくまで英雄の勘だが、目の前の親愛なる教師は本気で告げた響きがした。
その勘は彼が何より信頼するそれで。
(あわわわわっ! 冗談じゃないよっ!? 僕が切っ掛けで離婚とかっ、お腹の子供はどーすんのさっ!?)
教師と生徒、親友の愛する人。
決して浅くは無いが、近そうで地味に遠い付き合いだ。
だとしても彼女の性格を考えるなら、この先は十二分に想像できる。
(泥沼だぁ……。絶対に泥沼になるよっ! 今ここで意志を変えさせないとセンセは絶対に離婚するっ! そしたら栄一郎が荒れるってもんじゃなくて、その先にはバッドエンドが紙一重が待ってる波乱しかないじゃんかっ!!)
ヤバいヤバいヤバい、本当にヤバい。
唸れ己の灰色の頭脳、何か手は無いのか、説得する材料は何処にある。
丸く収めるにはどうすれば良い?
深く考えてる時間なんて無い、栄一郎が我に返って何かを言う前に行動に移さなければ。
周囲を見渡せば、愛衣と天魔は思考ストップ。
フィリアは英雄と同様に焦った顔で――。
「タアアアアアアアアアアアイムっ!! はい、一端ストップ!! 愛衣ちゃん天魔っ! 栄一郎を拘束!! フィリアは僕とセンセを隔離!!」
「よし来た!」
「お、おう!」「っ!? わかりました!!」
「――ふぁッ!? 何するんだお前等ッ!!」
「お、おいっ!? アタシを連れて何処に行くんだ!!」
「良いから来てください先生ッ! ――何処で話す英雄ッ!!」
「取りあえず廊下でッ!!」
そして二人は茉莉を廊下に連れ出す。
直後、茉莉の右手を英雄が、左手をフィリアが掴んで逃走を阻止。
「…………こんな事をしなくてもアタシは逃げねぇ」
「いえ、どちらかと言うと自殺防止的な? センセってば今にも死にそうな顔をしてますよ」
「はぁ……そうかもしれねぇな」
「茉莉先生、お腹の御子の為にも速まった事はしてはいけません」
「ごめんね先生、僕が間違ってたよ」
「脇部、お前が謝る必要はねぇんだ」
「だよね、だって全部栄一郎とセンセが原因だもん」
「うむ、その通りだな」
「お前等、仮にも担任で傷心のアタシにセメント過ぎないか?」
「僕の身になって考えてセンセ? やらなきゃいけなかった事だけど自分の言葉で親友をビンタして、挙げ句の果てに離婚騒動に発展した僕の気持ち考えてどうぞ?」
「うむ、それに全く持ってお腹の子に悪い」
「それを出されたらアタシは何も言えねぇぞっ!?」
「うん、だからね。――後は僕らを信じて任せて欲しいんだ、フィリアも、僕に合わせてくれれば丸く収めてみせるから」
ふんすっ、と鼻息荒く告げる英雄。
だがフィリアは見抜いて。
「虚勢を張るな、どう考えても想定外の事態でテンパってるとしか見えないぞ」
「あ、やっぱ分かっちゃう? 英雄君恥ずかちぃ!」
「お前、良くふざける余裕があるな?」
「いつだって楽しくがモットーですから」
「いつも楽しそうなのは君の美点だが、そもそも解決策を思いついていないだろう」
「まぁね、ぶっちゃけ策なんて一つしかない」
「だろうな、策なんて…………おい、今何て言った?」
「策なんて一つしかない」
「脇部、お前の気持ちは嬉しいが。……アタシと栄一郎は少し距離を置いた方が良いんだ」
「違うよセンセ、今必要なのは対話だ」
「英雄は対話に導ける案があると?」
「まぁね、全ては栄一郎の反応次第だから不発に終わるかもしれないけど。ともかく、――僕にチャンスをくれないかなセンセ」
「頼みます先生、英雄にやらせてやってくれませんか?」
口調は軽いが真剣な眼差しに、茉莉はゆっくりと頷く。
(……アタシは良い生徒を持ったな。だがこれで駄目なら――――)
彼女の眼差しに、未だ不穏なモノを感じつつ。
しかしてならば、教室に戻るのみだ。
「やぁお待たせ、頭は冷えたかい?」
「冷えるって程、時間経ってねぇぞ英雄?」
「…………離婚って、どういう事だよ」
「怒ってるか落ち込んでるのかどっちかにしよ栄一郎、今から話し合うだからさ」
にこやかに台詞を吐く英雄に、誰もがひきつった笑みを浮かべて。
だが彼は構わず第一声。
「単刀直入に言うね、――――離婚しよっか栄一郎。僕とフィリアはセンセの味方だ、センセが望むなら僕は君とセンセを絶対に離婚させるよっ!!」
「だからせめて事前に一言あるべきだろう英雄ッ! 私は何も聞いていないぞッ!!」
「えー、僕を信じてって言ったじゃん」
「具体的に言えッ!!」
「じゃあフィリアは反対? 恐らく離婚反対派の栄一郎に付く?」
「馬鹿も休み休み言え、――私も賛成派だ」
「おいおいおいおいおいッ!! 何考えてるんだ英雄ッ!! お前そこは普通止めるべき所だろうッ!!」
「そうですよ天魔くんの言うとおりですっ! なんで賛成してるんですかっ! 義姉さんの事ですからネガティブ思考の一時的な気の迷いで絶対に後悔するだけじゃないですかっ!!」
「…………愛衣? オマエ、アタシの事をそんな風に思ってたのか?」
「あ、それで納得いった。センセって意外とネガティブっていうか少女マンガのヒロイン思考してるっていうか」
「アタシの事はどうでも良いだろっ!!」
「そうだな、今は机栄一郎。――貴様の気持ちを言うべき時だ」
ぴしゃりと放たれたフィリアの剣に、栄一郎はノロノロと頭を上げて。
「俺の……気持ち?」
(うん、多分ココだ、きっとココだ。メイビー僕自身を信じてっ!!)
英雄は歌うように告げる、なお脳裏でイマジンが流れている。
栄一郎の全てを今、晒け出すのだ。
「ねぇ、想像してみてよ。センセが大好きで大好きでたまらなくて、世界一愛している君だからさ。きっとセンセの気持ちを尊重して、最終的に離婚の道を選ぶと思うんだ。――その時、君はどうなる? どう思う?」
「俺、俺は……一人で寂しくて、でも諦めきれずにまたストーカーになるかもしれない」
「その先は?」
「多分、……また強引に迫る、今度は茉莉に気持ちも知ろうとしないで、茉莉を傷つけてでも側に居る」
「うんうん、どうして栄一郎はハーレークインのヒーローみたいな事しかしないかなぁ……?」
「同意するが話を反らすな英雄。そして先生、今の話を聞いて感想はどうだ? どうして離婚なんて言い出したんだ」
「センセが本当に望むなら、僕らが何としてでも叶える。――望むなら、栄一郎を冷たい鉄格子に居れて一生近づけさせない。だから言って欲しいんだ」
「お前等……」
茉莉はぎゅっと拳を握る、教え子にここまで言わせて逃げられるものか。
確かに己はネガティブで少女マンガチックな乙女心があるのかもしれない。
(――――少し、冷静になった)
今ここで逃げたら、お腹の我が子をどんな顔をして抱けば良いのか。
そうならない為にも、……勇気を出して。
「…………アタシはさ、栄一郎。オマエの重荷になってるんじゃないかって思ったんだ」
「そんな事は無いッ! 茉莉は重荷になんか――」
「――じゃあ子供はどうだ? オマエはこの年にして一児の父親になっちまった。……年上で教師であるアタシがしっかりしなきゃいけなかったのに」
「それは俺がッ!!」
「そうだ、いつだってアタシはオマエの好意に甘えてた。脇部が怪我をしたあの事件だって、アタシがアタシの責任で解決しなきゃいけない問題だったんだ」
「なるほろ、センセのネガティブはそこか」
「英雄? 何を冷静に茶々を入れてるのだ? 空気を読め?」
フィリアのつっこみに、英雄は首を横に振った。
これだけは言わなくてはいけない、あの時の当事者として絶対に言わなくてはならないのだ。
「はぁ、栄一郎もそうだけどセンセも分かってないよね。確かに僕の無謀さが原因だろうよ、けどさ、正直言って、はっきり言って」
段々と強くなる語気、何を言うのか注目が集まった次の瞬間。
「――――大!! 迷!! 惑!! だよっ!!」
うん? とフィリア達は瞬きを一つ。
「もう一度言うよ? 超絶大迷惑なんだよっ!! ああもうっ! 二人ともお似合いの夫婦だよ! 揃って同じ原因でネガティブしてさっ!! 僕を理由に離婚しようとするんじゃないっ!!」
「ひ、英雄?」
「フィリアは黙って、――栄一郎、さっきも言ったけどさ。僕の怪我を自分の責任みたいに言うなっ!! 僕を馬鹿にしてるの? この傷は名誉の負傷!! そして若き日の過ち!! 我が行動に一点の曇りなし!! そもそも! 君も僕も反省しなきゃいけないのは、大人に相談しなかった事だっ! それ以上のコトもそれ以下のコトも無いっ!!」
ビシッと指さす英雄に、栄一郎は思わず頷く。
そして続いて茉莉に向けると。
「センセも同罪だよっ!! あの時のコトは周囲の大人にちゃんと相談しなかったのが原因だ! あと、年下に手を出して人生狂わせたと思うんなら腹くくって死ぬまで責任取れっ!! なんか拗らせて離婚とか迷惑過ぎるんだよっ!!」
「…………スマン、オマエの言うとおりだ」
「全部英雄が正しい……俺が、俺たちが間違ってた」
「僕に謝るなっ!! そもそもの話だっ!!」
英雄は大きく息を吸って。
「いつも言ってるだろうっ!! ――――ちゃんと!! 話あえって!! コミュニケーション不足なんだよっ!! あと何ヶ月かしたら子供生まれるんだろう!? 親になるのに何してるのさっ!!」
実にもっともな話であった。
正論過ぎて反論の出ない話であった。
原因がどうであれ、過程がどうあった所で――最終的にはコミュニケーション。
意志の疎通が全てなのだ。
「二人ともそこで正座!! ――ああ、いや。茉莉センセは椅子で、妊婦さんだもの」
「正座しました英雄!!」
「座ったぞ脇部!」
「よろしい! じゃあ話し合う!! この際全部些細なことからトラウマまで全部話し合う!! 今すぐに!! 僕らは外で待ってるからね!」
「「はい!!」」
「じゃあ外で待つよみんなっ!!」
英雄はそう言うと、ドカドカと大きな足音を立てて廊下へ。
途端、残されたフィリア達は大きなため息。
「あー、なんだ? ドンマイ?」
「マジですまん天魔……」
「迷惑をかけたな越前……」
「これが終わったら英雄にも言っとけ」
「兄さん、義姉さん、その……元気出してくださいね?」
「うむ、今後の為にも切に、本気で話し合って欲しい。…………怒った英雄は本当に怖いんだ」
「分かってる、肝に銘じておく」
「アタシもだ、……教師なのに生徒に大事な事を教えられちまった。アイツは良い教師になる」
「英雄に言っておきます」
そして、フィリア達も廊下へ。
夕暮れ時の教室には、茉莉と栄一郎だけが。
「…………そろそろ冷える、俺の制服の上を着てくれ茉莉」
「ありがとう栄一郎、アタシはそんな気遣いが出来るオマエに……昔から惚れてたんだろうな」
「俺は多分、茉莉の弱い所を守りたかったんだ。……でも、出来なかった」
「そんな事はねぇよ、アタシは栄一郎に何時だって守られた。――二人で間違った選択をしたかもしれない、けどよ……アタシの夫は結婚前からアタシの心も体も守ってくれてたんだ」
「茉莉……」
二人は、ゆっくりと語り合って。
距離が少しずつ縮まって、何時間も話し合って仲を深めた。
――――その頃、廊下では。
「いやぁ寒くなって来たねぇ、栄一郎達に暖かい飲み物差し入れした方が良いかな?」
「必要無いんじゃね? さっき除いたら抱きしめあってたぜ?」
「正座だって言ったのに……、まぁ仲直りしたみたいだから良いけどさ」
「所で英雄、あのブチ切れ発言は何処まで計算していたんだ? 私は地味に気になっているのだが」
「あれ? 計算なんて一つもしてないよ? 経験則てタイミング見て本心叫んだだけで」
「…………うむ、私達も話し合うか?」
「何を? いつも話してるじゃない。何か隠し事でもある?」
「うむ、そう言われると…………あ、そういえば」
「あ、って何ですかフィリア先輩? もしかしてあの事ってまだなんですか?」
「そうなんだ、何時話せば英雄が一番喜ぶかとタイミングを見計らっていた矢先に栄一郎がやらかしたからな」
「ああ……それは兄さんが悪いことをしました」
「何々? 何の話?」
「…………成程、俺はピンと来たぜ。多分あの事じゃね?」
「あれっ!? 僕だけ仲間外れ?」
英雄はアルェーと首を斜め45度に、それを見たフィリアは微笑んで。
そして、右手でポケットからピンクの手帳を取り出して、左手はお腹に添えて。
「――――来年には君もパパだ」
「うえぇっ!? そ、それってっ!?」
「すまんな、サプライズ発表したくて期を伺っていたらこんな変なタイミングになってしまったんだ」
「いやそれは良いからっ!! つつつつ、つまり僕はフィリアはっ!? いったい何時っ!? そうかあの日、産婦人科に行ったときっ!? で、でも妊娠して無いってその前に?」
混乱する英雄の手を、フィリアは己の腹部に当てる。
「私も知らなかったのだがな、妊娠検査役には使用期限があってな。……それが切れていた事に気づかなかったんだ」
「ほわあああああああああ、それってつまりっ!! そういう事なんだねっ!!」
「そうとも、――――妊娠したぞ英雄」
「いいいいいいいいいいいいいいやっほおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!! 愛してるフィリア!! 僕の奥さん!! 君と子供に祝福あれっ!! 二人ともまとめて幸せにするよっ!! 愛してるフィリア!!」
「ああ、……愛してる英雄」
「キース! キース! キスしろバカップル!!」
「こら天魔くん、そこはハグも含めないと!」
「ありがとうっ! ありがとうフィリア!! 僕達の子! 孕んでくれてありがとう!! おーしこの際だ天魔達もハグだ!!」
「うむ、うむ……ふふッ、幸せとはこういう事を言うんだな」
「おーし、俺からも祝福のハグさせてくれ英雄!」
「よしきた!!」
「じゃあわたしはフィリア先輩にハグします!」
四人が幸せな抱擁をする中、教室の扉が開いて
「…………フィリア殿と英雄殿の子供が出来たでゴザル? 拙者達もその喜びのハグにまざってもよろし?」
「あー、アタシも良いか?」
「良いに決まってるさ!! 今夜はお祝いだあああああああああああああああ!!」
そして英雄達は、皆一様に幸せな気分で食事し家に帰り。
「――――おい! こころ! 英雄のヤツ、子供出来たってさ!」
「本当? なら明日にでも行かなきゃね」
「俺はジジイに電話して来る!」
「私はカミラに電話するわ! ……私達にも孫が出来るのねぇ」
「ふふふふ、俺の孫命名リストが火を噴く時が来た様だな」
「あら奇遇ね、私も孫の名前リストを作っていたの」
「ほう?」「へぇ?」
今、新たな戦いが始まろうとしていた。
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