第196話 ハートキャッチ
そして放課後である。
善は急げ、何はともあれ行動だ。
それはそれとして事前準備は必要という英雄の主義の下、教室で作戦会議。
昨日と違うのは、クラスメイト達は居らず参加者はいつものメンバーのみ。
「結論から言うよ――――、キスをしよう」
「待て英雄、最初から飛ばし過ぎだ。作戦会議するならせめて議題から言え」
「オッケー、愛衣ちゃんと栄一郎のストーカーを撃退する為にキスしよう!!」
「待つでおじゃ、英雄殿はもう少し段階を踏んで課程を述べるべきでゴザルよ?」
フィリアと栄一郎の台詞に、天魔と愛衣は頷いた。
なお、ローズと茉莉は職員室で仕事の為に不参加である。
「そもそもだ英雄、理由がどうであれキスという結論に至るのはどうかと思うぞ」
「あれ? フィリアは反対?」
「勿論だ、私程になれば君の思考過程ぐらいトレースする事は容易いからな。――魂胆は分かっている」
「へぇ、じゃあ説明お願いっ!」
「…………ほう、よくも私の前でヌケヌケと言うな」
ピリピリとしたフィリアの雰囲気に、栄一郎達は嫌な予感に襲われ。
英雄としては、然もあらんと首を縦に。
「じゃあ説明しよう」
先ずは前提の共有だ、この場に居る誰もが承知しているが万が一齟齬があっては困る。
「女装した栄一郎の魅力に牽かれ、愛衣ちゃん諸共に姉妹丼しようとしたバカが盗撮写真を送ってきた。そのアングルからストーカー常習犯である可能性が高い。――ここまでは良いね?」
(ま、僕としては不審な点だらけなんだけど)
その点については、今は言及しない。
証拠も無いし、推理する為の手掛かりも足りないからだ。
……フィリアの態度がソレだと英雄の本能は告げていたが、現時点では放置である。
「じゃあ次はキスに至った過程を述べるよ。といっても簡単な理論なんだけどね」
「簡単……? おい英雄、もしかして犯人を炙り出す為に愛衣ちゃんにキスするって言うんじゃないだろうな?」
「お、鋭いね天魔。それはイエスでありノーだよ」
「…………英雄殿英雄殿? 拙者、ちょっと嫌な予感がするでゴザルが?」
「いやぁ、栄一郎も鋭いね。流石に親友の妹で妻で新婚ほやほやでしょ? 僕がキスするってのもねぇ……」
「となれば、公衆の面前で天魔と愛衣がキスするでおじゃ?」
「それなら、わたしも賛成しますけど……」
「ああ、それは違うんだ。今回は愛衣ちゃんについてはノータッチで」
そこで、フィリアが苛立ちながら机を叩いた。
「ええいッ!! 全部吐けッ!! 何を企んでいる英雄ッ!!」
「ストーカーを炙り出す為に、栄一郎とキスする」
「やはりそうかッ!! 何を考えてるんだ貴様ッ!!」
「…………大事な親友とキスする事?」
「バカ者めッ!! 貴様だって新婚ホヤホヤだろうがッ!! 私を差し置いてあろう事か男とキスだとッ!! 断じて認めんッ!! 認めんぞッ!!」
「ひぃッ!? 拙者もしや英雄殿の痴情の縺れの巻き沿いで死ぬゥ!?」
お前を殺して私も死ぬ、そんなフィリアの勢いに栄一郎は今にも妻の名前を叫びそうで、天魔と愛衣は抱き合って震える。
英雄といえば慣れたもの、そして予想の範疇。
当然、対策は――――。
「ごめんねフィリア、僕としてもクッソ嫌だし死ぬほど気持ち悪いけど…………栄一郎を救うって心に決めたんだ」
「そこで君が犠牲になる必要が何処にあるんだッ!! 警護の者も探偵も私が用意しよう!! だから唇は私だけのだッ!! そのコンプレックスだらけのクソ女装男に必要以上の義理立てするんじゃないッ!!」
「あれ? これ拙者むっちゃディスられてね?」
「残念でもないし当然ですね兄さん」「当たり前なんだよなぁ……」
「コンプレックスだらけのメンタルよわよわ変態女装クソ男だけどッ!! それでも僕の親友なんだッ!!」
「熟女好きを愛する者の名の隠し蓑にして、素直にアプローチ出来ないクソ不器用でコンプレックスだらけのメンタル敗者の野クゾ男だぞ! 正気かッ!!」
「ちょっと二人とも? 拙者のハートがブロークンでゴザルよ? ちょっとは手加減して欲しいでおじゃ?」
「いや栄一郎、誰の所為でこんな事態になってると思ってるの?」
「そうだぞ、貴様が英雄の親友で茉莉教諭の妻でなければとっくに排除していたぞ? むしろ感涙に咽ぶ所ではないか?」
「拙者何も言い返せないでゴザルッ!?」
事実だった、あまりにも正論だった。
強いて言うならフィリアにもブーメランな要素もあったかもしれないが、それを思いつけない程の悲しき正しさであった。
「じゃあ話を戻そう、――僕は栄一郎とキスをする」
「ならば平行線だな、――私は断固として反対する」
「よし、なら擦り合わせをしよう。君の感情以外の理由は何処? 妥協点はどうしようか」
「私は君の妻である、ならば妻の感情を意見に取り入れるべきでは?」
「それを言われると痛いね、だって茉莉センセの意見も聞かなきゃいけない………………うん? ちょっと待った」
その瞬間、英雄は何かがカチリとハマった音が聞こえた。
必要なピースが最低限揃ったというべきか。
「――――栄一郎、あの写真貸して」
「英雄殿? どうぞどうぞ」
「む、何か思いついたのか?」
「気になる事があってさ」
英雄は写真と教室を見比べる、アングル、そして被写体からの距離。
それらを考えながらウロウロと。
(あの時、みんなは輪になって僕らを囲んでいた。そして廊下には……駄目だ証拠が無いな)
(不味い、感づかれたか? 少し作戦を焦りすぎただろうか……)
(校内の監視カメラで当時の教室の出入りを……そこまでカバーしてたっけ? あるとしたらフィリアの盗聴盗撮グッズだけ――――いやいや待てよ?)
(しまったッ、私を見たッ! このままでは計画が破綻するぞッ! 早すぎるッ、まだ次手の準備段階だと言うのにッ!!)
視線、一瞬交差して。
表情を見せずに視線を流した英雄、ポーカーフェイスで回避したフィリア。
(これ、絶対にフィリアが関わってるよね。というか――)
(あ、これバレましたね? わたしを見たって事は疑われてますよねコレ)
(――共犯、いや狂言の可能性があるって事かな?)
英雄は顎に手を当てて考える、証拠はフィリアの持ち物、パソコンのデータを漁れば出てくる筈だ。
だがその理由は何だ、愛衣と、そしてもしかしたら茉莉先生まで加わった企みの意図は何だ?
「おーい英雄、何か分かったなら教えてくれよ」
「そうでおじゃ、考えは纏まったでゴザル?」
男二人が暢気に声をかけた刹那、女二人はアイコンタクト。
「ふむ、考える時間が必要か? ならば今日はお開きにして家で考えてもいいと思うぞ」
「わたしとして、犯人の次のリアクションを待つ。そういう手もアリかもしれません。今のところは教室での隠し撮り写真しか害は無いのですし」
「うーん、どうしようかなぁ……」
「どうだろうか英雄、今ここに男にキスするという発言を聞いて可愛い嫉妬をしている妻が居るのだが……その妻を慰めないか?」
「妻でおじゃるか……、そういえば茉莉にも迷惑かけているでゴザルなぁ……」
「いやお前、その自覚があるならもっとセンセに気を使えよ、妊娠中だろうが」
「うう、状況が一緒なだけに拙者は天魔に言い返せない……」
(――――なるほど? 天魔と栄一郎はシロ、時間稼ぎ発言をした愛衣ちゃんとフィリアは確定でクロか)
次の瞬間、英雄は満面の笑みで言った。
「じゃあ茉莉センセを誰か呼んできてよ、……全ての謎は解けた! 真実はいつも一つでジッチャンの名にかけてってヤツだねっ!!」
「マジでゴザルッ!? 写真だけで何が分かったでおじゃッ!? いつもながら気持ち悪い洞察力でゴザルッ!!」
「スゲーけど、ちょっと引くわ……頼りになるけど、オマエの推理力はちょっと引くわ」
「なんで僕はディスられてるのかな?」
ともあれ、事態は解決が見え始めたのであった。
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