第189話 君にめろめろ?
方や美貌の女装少年(既婚)
方や金髪巨乳美少女(人妻)
どちらも、その頭脳は優れており身体能力も比較的高い。
故に、激戦が予想され仁義無き惨劇の幕が上がるかと思われた。
だが。
「うむ? 予鈴か、ではここまでだな」
「そうね。愛衣、教室に戻りなさいな。そして茉莉先生、ホームルーム……はローズ先生が来てからね」
「戻りますけれど、なんでそんなにアッサリ?」
「まぁまぁ、二人とも。ここは禍根を残さない為にも今すぐケリを着けるべきじゃないかな?」
「却下だ」
「それはダメですよ英雄」
「なんでさっ!? 二人ともどうみてもやる気だったじゃんっ!?」
ぶーたれる英雄にフィリアはしたり顔で、栄一郎改め栄子は柔らかく苦笑し。
「君の魂胆は分かってる、私達の決着を今すぐ起こす事で今後の身の安全を計り、そして授業を潰そうとも企んでいるな?」
「ふふッ、英雄の事だもの。これをお祭り騒ぎにして主導権を握るつもりだったのでしょう? お見通しだわ」
「ガッテムっ!? どうしよう天魔全部バレてるんだけどっ!?」
「しゃーない諦めろ、……そうだ! 今から放送室選挙して学校全部巻き込もうぜ!」
「ナイスアイディア! どうするかはその場で考えるとして僕らだけも今すぐ行こう!!」
「ひゃっはー! カーニバルの始まりだぜぇ!!」
その瞬間、英雄と天魔はアイコンタクト。
親友が女装して妻と対立するなどと、両方に熟知している英雄なら想像も予想も容易い。
(ふふん! みんなを着席させたのは策ってやつさ!)
事情を説明させ、この騒ぎをクラスに広め巻き込む。
これが目的の一つ。
そしてもう一つが、その隙に机の下で天魔と打ち合わせである。
今ここに、彼ら二人が立ち上がった。
――――ならば。
「バローム!」「クロース!!」
「ふわッ!? 例えが古い――じゃなくて両腕を取られたッ!? 私を何処へ連れていくのッ!?」
「まだまだ甘いね栄一郎!! 僕に挑戦するならば一瞬の隙すら与えない不意打ちで行くべきだった!!」
「という訳で、お前は拉致らせて貰うぜええええええ!!」
「英雄ッ!? ソイツを連れて何処へ行くんだッ!?」
「ごめんねフィリア、代返よろしくうううううううう!!」
「俺は直ぐ返ってくるからなああああああああああ」
「絶世の美少女!! 薄い本のように拉致されるッ!! 乱暴する気ねッ!? 薄い本みたいにッ! 薄い本みたいにッ!!」
「せめて私に何をするか説明してから動けッ!!」
あっと言う間に英雄と天魔は、栄子を引きずって廊下へ走り出す。
残されたフィリア達はぽかーんと。
「…………そういえばフィリア先輩、追いかけなくて良いんですか?」
「ああ、念のために激しい運動は控えている。それ以上に、英雄の事を信じているからな。……今はアイツに任せよう」
「ええ、今出来る事は……」
「そうだな、私たちは彼らの代返を頼まれた。無事にやり遂げなければ」
「いや、アタシが聞いていたからな? アイツら遅刻扱いとしてローズ先生に報告しとくからな?」
「くッ、不甲斐ない妻ですまない英雄ッ!!」
「諦めるの早っ! じゃあわたしも戻りますね、また昼休みに来ます」
そして屋上では、英雄と栄一郎の二人きり。
なお天魔はとんぼ返りである。
「サンキュー天魔!」
「良いって事よ親友! 先に戻ってるぜ!」
「…………はぁ、甘く見たつもりは無かったのだけれど。してやられたわね」
「もう少し様子を見ても良いかなって思ったけど、栄一郎が能動的になったら厄介だからね」
「まんまと先制パンチをくらったという訳ね」
そうは言いつつも、ダメージなど欠片も見せずに彼/彼女は婉然と微笑んだ。
(うーん、予想してたって顔だな。もしかして二人っきりになったのは悪手だったかなぁ……)
「ふふッ、それは悪手だったかもって顔ね」
「鋭いね、栄一郎」
「これで英雄のターンは終わりかしら? なら今度は私が動こうと思うのだけれど」
「どうぞどうぞ? 後出しの方が対策を練りやすいってもんだよ」
「なら、これはどう?」
瞬間、栄子は英雄の手をするりと取って――口づけする。
「うわキショっ!? 何するんだよ栄一郎っ!?」
「何って……誘惑よ」
「何のためにっ!? 僕ら男同士で親友じゃないか!!」
「それは勿論――、栄一郎の方ね。でも私は違う」
「ストップストップストッオオオオオオップ!! なんでお尻触るのっ!?」
「ウブね英雄、カ・ワ・イ・イ」
「もしかして僕ってば貞操の危機ッ!?」
「大丈夫よ、……私が入れられる方だから」
「耳元で囁かないでっ!? いやもうホント説明してよ栄一郎!!」
「…………つーん」
「待って、待って? 一瞬ドキっとしちゃったから、その格好で拗ねるの待って栄一郎?」
「つーん」
「栄一郎?」
「つーん」
「………………栄子」
「ええ、説明が必要かしら英雄?」
なんという色気だろうか、普段の残念美形しか目にしていない所為か、英雄の目にも段々と彼が彼女に見えてくる。
「なんだか僕、頭がくらくらしてきたよ……」
「それは大変ね、膝枕なんてどう?」
「それより説明はよ」
「つれないわね、…………じゃあ説明って言っても、私の理由は教室て言った通りよ?」
「もそっと具体的に」
「私は英雄にヒーロースピリッツを取り戻して欲しい、その為に英雄のママになる」
「事細やかに」
「私の美貌があれば、英雄もきっと女装してあの頃の百合タッグを組んでくれると思うの。ついでに英雄のママになりたい…………」
「実質ノープランじゃないかっ!? というかママって何っ!?」
すると栄子は真面目な顔で告げた。
「…………あの日、ストーカーを助けられた私は傷つき倒れた英雄を見てこう思ったの。『ママ』となって守って上げたいって」
「どうしてそうなるの?」
「という訳で、私は英雄にお乳を上げる準備は万端よ!! 何を隠そうこの偽乳は牛乳入り!! 私の人肌で暖めた母乳を飲んでマイ・サン!!」
「冗談じゃなかったのっ!?」
途端、制服を脱ぎ始める栄子。
それは男だと分かっていても、非常にエロチックで……
(ま、不味いっ!? これは僕が思ってたより不味い事態じゃないのっ!?)
どうしてこうなった。
本当に、どうしてこうなった。
「あ、ああ……」
「英雄? どうしたの?」
「あああああ、あああああああ…………」
「英雄? 不安ならママの母乳飲む?」
「うああああああああああああああああああんっ!! 栄一郎がぶっこわれたあああああああああああああああああああああああああああああ!!」
三十六計逃げるにしかず。
脱兎のごとく、英雄は後ろを向いて全力突撃。
「しまった逃げられたッ!?」
「ちっくしょおおおおおおおおおおおおお!! これで勝ったと思うなよおおおおおおおおおおお!! うええええええええん、フィリア助けてえええええええええええええええええええええ!!」
彼の逃走を唖然と見送って、次の瞬間、栄子は栄一郎の表情に戻る。
「…………どうか、俺を許さないでくれ」
その呟きは、風と共に誰にも届かず消えるのであった。
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