第184話 同じ穴の狢



「そこになおれ馬の骨えええええええええええええええええええええええええええええ!!」


「追いかけてこなかったら止まりますよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 義理の父と息子の追いかけっこを見ながら、英雄派栄一郎に問いかけた。


「問1 娘を孕ませた少年を、怒り狂った娘の父親が追いかけ回しています。解決策を述べろ」


「見捨てる……と言いたいでゴザルが、そうはいかないでおじゃねぇ」


「俊介オジさん、怒り心頭で冷静じゃないもんねぇ」


「愛衣が来るまで待つでおじゃ? 少し前に診察室入るって連絡来たでゴザルから。もうすぐ来る筈にゃ」


「それも手だけどさ、妊婦さんにこの追いかけっこを止めさせるの? 僕らが居て? ちょっとダメじゃない?」


「それな、何か手はあるでゴザル?」


 英雄は思考をぐるりと巡らせた、栄一郎と愛衣の父・俊介。

 若い娘を孕ませられた父親の怒りは、英雄の想像以上だろう。


(僕らが体を張って止める。…………ダメだな、僕らに被害が来る可能性は許容するとして)


 それでは状況は変わらないだろう。

 また、俊介を傷つけたら事態は悪化する可能性がある。

 ならば。


「お、その顔は思いついたでゴザルな?」


「うん、僕らは天魔の親友じゃん?」


「つまり頑張って天魔を逃がすでゴザルな?」


「それは違うよ栄一郎、それじゃあ面白くない」


「というと?」


「――――俊介オジさんに加勢するっ!! さあ行こう!! 僕らも天魔を捕まえるんだっ!!」


「合点承知の助ッ!!」


 そして二人は走り出して。


「覚悟してね天魔!!」


「大人しく捕まるでゴザル!!」


「テメェッ!? 裏切ったなああああああああ!?」


「おおっ! 英雄君!! 馬鹿息子!! 加勢助かるッ!!」


「行くよ栄一郎! フォーメーション・デルタ!!」


「ラジャーでゴザル!!」


「何ぃッ!? フォーメーション・デルタだとォ!?」


「知っているのか馬の骨!!」


「何で俺に聞くんです義父さんッ!?」


「まだ義父さんと呼ぶんじゃねぇええええええ!!」


 フォーメーション・デルタ。

 それは本来、天魔を加えた三人一体の包囲技……という事実も過去も無い。

 単なるブラフである。

 だがそこは英雄と栄一郎、二人はアイコンタクトも無く左右に別れ挟み撃ち。


「くらえっ!! 全集中・水の型!!」


「そしてフルカウル10パーセント!!」


「こうなったら、唸れ俺のコスモ!!」


 なお、どれも只のパンチである。


「脚は止まった!! 必殺の筋肉バスターを――」


「ああ、いや俊介オジさん。危なそうな技は禁止ですよ」


「スマンスマン」


「隙が出来たな!! なら卍解!!」


「しまったっ!? そんな所にモップが落ちてるなんてっ!?」


「なんのォ!! ならば拙者はこのマスターソードでッ!!」


「ねぇ俊介オジさん。BGMはブリーチかゼルダか、どっちが良いかな?」


「ここは、こち亀アニメの『コミカルなおいかけっこ』が好きだな」


「おー、通だねオジさん」


「ちょっと英雄殿ッ!? 父さんッ!? 今のウチに捕まえるでゴザルッ!?」


 暢気に雑談をし始めた親友と父親に栄一郎は叫ぶ、天魔といえば。


(どうする……どうする!? 逃げて解決しないだろコレッ!? ――――いや待て、英雄の狙いはコレか? 義父さんを少しでも落ち着かせようと?)


 そう思った瞬間であった。


「ああっ!? 危ない天魔っ!? そこ犬のウンコ落ちてるっ!?」


「マジで――」「捕まえたァ!!」


 天魔が足下に視線を移した隙を逃さず、栄一郎は即座に後ろに回って羽交い締め。

 それを見た俊介は、満面の笑みで頷いて。


「よぉし、そのまま離すなよ馬鹿息子!!」


「ううっ、もはやこれまでか……」


「父さん、お手柔らかに頼むでゴザル。愛衣の夫になる我輩の親友であるからして」


 ポキポキと指を鳴らしながら近づく俊介、一緒に英雄も同行して。


「歯ぁ食いしばれ」


「はい、ちょっと待って俊介オジさん」


「……なんだね英雄君?」


「天魔を殴るのは父親として当然かもしれない、けどさ。その前に僕の話を聞いてくれないかな?」


「分かった、英雄君がそう言うなら」


 あっさり頷いた俊介に、天魔は英雄を救いの神を見るように崇める。

 それと同時に、どうしてそこまで彼への好感度が高いのか気になったが。


「不思議そうでゴザルな、後で説明するでゴザル」


「頼む」


 ともあれ、三人の注目を集めた英雄はしたり顔で口を開いた。

 これこそが、この場を収める最大の一時凌ぎだ。


「昔々ある所に、心を閉ざした一人の美少年が居りました……」


(ふむ、栄一郎の事か?)


(栄一郎の事だな)


(まさか拙者の事ッ!?)


「心を閉ざした割にある程度正しく育った少年は、とある高校に入りました。そこで少年は破天荒な先輩に出会い、少しづつ変わっていきました……」


(…………栄一郎じゃねぇな)


(我輩じゃない?)


(まさか…………?)


「それは少年が高校二年生の時でした、その破天荒な先輩の彼女の紹介で一人の女の子と出会ったのは」


「待て、待て待て待て? ちょっと待とうか英雄君?」


 この先はちょっと不味い、俊介は焦り気味に英雄を制止する。

 だが英雄は止まる筈が無く、にっこり笑って告げた。


「逆算すると、――出会って三日で孕ませたんですよねオジさん?」


「ぐああああああああああああああああああっ!?」


「しかも妊娠が発覚したら一週間ぐらい監禁したんですよね?」


「ノオオオオオオオオオオオオオッ!!」


「拙者、そんな事は聞きたくなかった…………ッ!!」


「お労しや栄一郎……」


「天魔? お前の父になる人でゴザルよ?」


「チクショウ!! 聞きたくなかった!!」


 頭を抱える男三人、共通点は高校在学中に恋人を孕ませた所だ。


「というか何で知っているんだ英雄君ッ!?」


「親父から」


「やっぱり脇部先輩かッ!! やはり貴方か脇部先輩ッ!! 加奈子と出会わせてくれたのは感謝するがッ!! ~~~~~~脇部先輩めぇッ!!」


「はい、という訳で。僕を除いた三人は同じ穴の狢なんだけどさ。……まだ殴る?」


 問いかける英雄に、天魔と俊介は顔を見合わせて。


「…………殴ってください。義父さんにはその権利がある」


「…………一発だ。俺も加奈子の親から一発殴られたからな」


 すると天魔は目を見開いて両手を広げて、俊介は右手を握りしめて振りかぶる。


「高校生で父親になるのは大変だぞ? その覚悟は出来ているんだろうな」


「まだ出来ていません、けど愛衣と一緒なら大丈夫です!!」


「良く言った!! 孫はちゃんと抱っこさせて貰うぞ婿殿おおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


「でも名前はコッチで決めさせて貰いますううううううううううう――――ゴハァッ!?」


 右ストレートが天魔の顔に直撃した、それを天魔は歯を食いしばって耐えて。


「よし!! 今日は飲むぞおおおおおおおお!! 君たちも家に来なさい!! 勿論、天魔君のご両親も呼んでだ!!」


「もう、そう言う事はもっと早く言ってくださいなアナタ?」


「そうですよ父さん、わたしも色々準備があるんですから」


「…………加奈子? 愛衣? いったい何時から?」


 さらりと会話に入ってきた声に、グギギと俊介が振り返る。

 すると其処には、妻である加奈子、愛娘である愛衣、馬鹿息子の嫁である茉莉。


「あ、終わったのフィリア?」


「問題なくな。そうそう越前、私が気を利かせてソチラのご両親に連絡しておいた」


「ウゴゴゴ、か、感謝するぜフィリアさん……」


「んじゃあ話は纏まった? ならみんなで栄一郎んチ行こう!! 今日はめでたい日だ!!」


 やっほいと叫ぶ英雄に、フィリア達は苦笑しながら賛同して歩き出した。


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