第174話 アイビーの花言葉
先の設問の答えは簡単だった、だが選べなくて。
英雄は先頭を歩きながら、顔を悔しそうに歪めて。
(難しいなぁ)
感情のコントロールとは、如何に難しいのか。
出来ていた筈だ、今までなら。
確かに不安に犯されて感情過剰になっている自覚はある、だがその不安はどうやって克服すれば良いのだろうか。
「英雄殿英雄殿、着いたでゴザルよ? 何をボーッとしてるでおじゃ?」
「――うん? ああっ! ごめんね、ちょっと考え込んでたよ」
「気持ちは分かるが、切り替えてこーぜ。…………ローズ先生がお待ちってな」
「ふむ、心の準備は出来たか英雄?」
「勿論だよ義姉さんっ!!」
「学校に居る間だは先生と呼べ、――まぁ良い、ではチェックポイント・アイビーの問題を開始するッ!!」
ローズはそう高らかに叫んだ訳だが、英雄には疑問が一つ。
「え? チェックポイントに名前なんてあった?」
「おや? 見逃していたにゃ? 校庭のも花の名前が付いていたでゴザルぞ?」
「体育館はアイビーか……、花言葉って分かるか?」
「なるほど、花言葉で問題のテーマを暗示してると。――考えるより問題聞いた方が早くない?」
「身も蓋もない事を言うんじゃない。まだ何かあるか? 問題を始めるぞ?」
「あ、実はもう一つあるんだ」
「何だ、手早く済ませろ」
「ロダン義兄さんは? そう言えば見てないけど、僕らと一緒に愛の深みに落ちてないの?」
「フン、ロダンを貴様ら若造と一緒にするな。…………そうであればッ、私は喜んでその愛に堕ちたというのにッ!!」
『ま、そう言う事さ。ボクも新婚当時は英雄くんと同じように不安になったっけ……懐かしいなぁ』
「ロダンはここまで深く陥らなかったではないかッ!! 偶には一週間ぐらいベッドから離さない! とか言って押し倒してくれッ!!」
「気持ちは分かるけど、そっちが痴話喧嘩始めると余計に話が進まないと思うよ?」
屋上のロダンとモニター越しにイチャつき始めるローズに、英雄達は苦笑混じりに首を傾げて。
「ええいッ、言われなくとも! では行くぞッ!!」
そして彼女も、脇に抱えたフリップを掲げて。
『次の問に対し、三つの選択肢を一つだけ選んで答えよ。
貴方の愛する者が、相思相愛の相手と結婚を望んでいる。
また、この相手とは貴方ではない。
どう行動すればよいか、適切な答えを選べ。
1・祝福し、目出度いことだと受け入れる
2・徹底的に反対し、相手を地の果てまで追いつめて破滅させる
3・愛する者を監禁して、相手と絶対に会わせない』
「さあ選べッ!!」
「ローズ義姉さんのコトだよねっ!? 絶対コレ、ローズ義姉さんのコトだよねぇっ!?」
思わず叫んだ英雄に、他のチャレンジャーも激しく頷き。
「お、思い出すでおじゃあああああッ!? あの時、スゴく怖かったでゴザルよッ!?」
「だよなだよなっ!? 女装した英雄が部屋にいつの間にか入り込んでさ、脅してくるとか二度とゴメンだぜ!!」
「……あの時の私は、間違っていた。よもや英雄があそこまで無茶苦茶を形に出来る人物だとは」
「つーかさ、周囲の人間を排除されて? アパートも資金も押さえられて。そっからよく逆転出来たな?」
「そういえば、あの時は英雄殿のスマホも封じられていたでゴザルね…………、普通に考えたら詰みレベルでおじゃよ? 拙者では無理でゴザル、その状態で全校生徒やOB巻き込んで大型イベント開催して、更には自分達の命まで賭けるとか」
「いやぁ、照れるなぁ」
「照れるなッ!! いや誉めてはいるのだがッ!! 私が言うのも何だが自分の行動の影響力を考えろッ!!」
またも英雄以外は激しく頷いて。
ともあれ、今はそんな事を話している場合ではない。
「ええいッ、とっとと選べッ!!」
「ま、これも簡単だよね」
「既視感がある台詞でゴザルよ英雄殿?」
「いやいや、今度こそってね」
「流石に今回は大丈夫だろ、あそこまで自分でやったんだから間違えようが無い」
そして、彼らはボードに答えを記入する。
全員が書き終わったのを見計らって、ローズが声を張り上げた。
「総員ッ!! 答えを見せろッ!」
「我輩は1でゴザル!」
「これは1しかねーべ」
「1だな」「1」「1以外は駄目でしょ」「1、他はあの時みたいに大惨事になる」「1」「1」「1よ!!」
「おい英雄? どうした貴様の答えは?」
「……………………い、い、いいっ、いいいいいいいっ!!」
「頑張るでおじゃッ!! 後少しでゴザル!!」
「いけえっ! 言っちまうんだ英雄っ!! お前なら言えるっ!!」
「言え英雄ッ!! フィリアの為にも1と言えッ!!」
「頑張れ脇部!」「新婚の意地を見せてくれ!」「ガンバ脇部!」「1だ! 1って言うだけだぜ英雄!」
全員が激励する中、英雄の出した答えは――。
「――――いいいいいいいいいい、ああっ、駄目だ言えないっ!! 答えは2、そこからの3だっ!! うわあああああん、将来娘が出来たら恋人は排除するんだあああああああああ!!」
「英雄殿おおおおおおおおおおおお!?」
「おいっ! おいっ!! 英雄おおおおおおおおおおお!?」
「くッ、英雄! 貴様という奴は!! 正解は1だッ!! 英雄以外は合格ッ!! スタンプを受け取れッ!!」
英雄が崩れ落ちる中、栄一郎達はスタンプを貰い。
さて次に行こうかという段になっても、彼はそのまま動かず。
その姿を見たローズは、ぽろぽろと涙をこぼし始めた。
「…………なんで、なんで義姉さんが泣くんですか」
「分からないか? ……そうだな、今のお前には分かるまい。だが聞け、聞いて欲しい」
そして彼女はしゃがみ、英雄と視線を合わせて。
「すまないな……。思えば私、いや私達はお前にずっと負担を強いてきた」
「……でも、義姉さんのフィリアを思う気持ちは本物だった」
「それでも、愛を理由に全てが許される訳じゃない。英雄、お前が教えてくれたんだ。――私はそんなお前が、こんな簡単な問題を答えられないまでに追いつめてしまった事を恥じているのだ」
「…………拙者も分かるでゴザル」
「…………ああ、俺も、理解出来るぜ」
「確かに、な」「そうだ」「そうよね……」「わたし達に、責任の一端はあるわ」
口々に理解をみせる栄一郎達に、英雄は居ても立ってもいられずに。
「違うっ!! 違うよみんなっ!! 僕がこうなったのは僕自身の気持ちの問題だっ!!」
「確かにその面は大きい、……だが、そこに至る道筋で英雄は何時も私達の様な夫婦、恋人の事を考えてくれたではないか」
「問題を共有して、全員で幸せになれるようにしてきたでおじゃ……」
「お前が全部考えてくれたんだ、全員で幸せになれる方法を。んでもって導いてくれたんだ」
「それはっ、僕も利益があったからっ!!」
「それでもだ英雄、私達はお前の頭脳と行動力を宛にして、――――深く、深く考えさせ続けてきた」
何か反論は出来ないのか、意味もなく否定しとうと言葉を探す英雄の耳に、放送が入る。
『すまない英雄、私は君に問題を押しつけすぎていた……。君が、その名の通りヒーローの様に私の全てを救い続けて来てくれたから、何時にか勘違いしてしまっていた。…………英雄も、普通の人間で一人の男だというのに』
「っ!? でもフィリアっ!! それは僕が望んだからだっ!! 愛する女の子をヒーローみたいに助けたいって、負担になんてなってないっ!!」
叫ぶ英雄に、彼女はゆるゆると首を横に振る。
『そうでないから今の君なんだ。……英雄、どうか自分を取り戻してくれ。今回のイベント全て君のためにある、――――私はまだ、君の健闘を信じている』
「フィリアの言うとおりだ英雄、私とフィリアは……否、全校生徒がお前の健闘を信じている」
「………………僕は」
「取り敢えず立ち上がって前に進むでゴザルよ、英雄殿」
「さ、行こうぜ英雄」
栄一郎と天魔は手を差し伸べて、英雄は恐る恐るそれを掴む。
立ち上がった彼は、目を一度閉じて。
開いた瞳には、決意の定まった色は見えなかったけれども。
「…………ありがとう。二人とも、みんな」
「頑張れ英雄、そして覚えていてくれ。……私は道を正してくれたお前に感謝している、そして、お前が元のお前に戻る事を信じている」
「ローズ義姉さん、いやローズ先生。……僕は進みます、行こうみんなっ!!」
フィリアが記憶喪失から戻った様に、きっと英雄も元に戻る筈だと。
そう願うローズは、虚勢を張って歩き出す彼の背中を見つめた。
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