第148話 大バカ者達



「何でなんだオサム兄さんっ!! 僕達が戦う理由が何処にあるんだよっ!!」


「分からないか英雄? いや、お前のレベルではまだ分からないだろう――おっぱいの真理と言うものを!」


「いや、レベルが上がっても理解したくないけど?」


 突如として裏切りを宣言した修、頭を抱える英雄。

 平九郎は拳を握り闘志を瞳に滾らせて。

 そして王太はひょっこり起きあがると、彼に近づく。


「そうかそうか、修。君も俺と同じように英雄達の妨害に回すというんだね? いや、皆までいうな俺には分かる…………嫁さんは怖かっただろう?」


「残念だが叔父さん、貴方と一緒にしないでくれ。――俺は、アイツらを乗り越えてきた」


「マジでっ!? 愛が重いの三人も居てどうやってっ!?」


「ほゥ? 詳しく聞きてぇな。俺は那凪だけで手一杯だってぇのに、オメーさんは何をした?」


「詳しく語るも何も――――その場でウンコして投げつけてきたっ!!」


「なんでさあああああああああああああああっ!?」


 英雄は後、何回驚いて叫べばいいのだろうか。

 どうしてこうなった? あの従兄弟は心優しい、強いて言うならば勇者として異世界召還され世界を救えそうな人物。

 そんな彼が、己のひり出したウンコを嫁に、そして彼を愛する二人に投げつけるなんて。


(おっぱい、おっぱいはここまで人を狂わせるのっ!?)


 己はなんて罪深い事をしてしまったのだろうか、打ちひしがれる英雄。

 そんな息子に代わり、王太が修に問いかける。


「勇者だ!? 本物の勇者がここに居るっ!? な、何故そんなコトをっ!? 彼女たちの復讐は怖くないのかっ!?」


「ああ、勿論怖い……今だって手が震えて――そしてめっちゃ臭い」


「素手で投げたのかテメーっ!? えんがちょっ!?」


「……どうしてっ!? どうしてなんだオサム兄さんっ!?」


 涙を流す英雄に、修は勇気ある者の顔をして。


「――――そこに、おっぱいがあるから」


「おっぱいはあの三人にもあるよっ!!」


「そうだな……だがそれは、俺が勇気を出せば全部手が届いたおっぱいだ。――ついでに揉んできた」


「まさかその頬の紅葉っ!?」


「痛かったさ……だが同時に、生きているという実感を得た。――おっぱいは勇気」


「僕にはオサム兄さんの言葉が解らないよっ!!」


「…………いや、俺は理解できる」


「爺ちゃんっ!?」


「そうだね……俺も理解できるんだ英雄」


「親父までっ!?」


 彼ら三人は優しく、どこか悲しい瞳で英雄に投げかけて。


「人の欲望って物は際限が無いんだよ英雄……、特におっぱいに関しては。こころのおっぱいは素晴らしい……だが、もっと、もっとおっぱいが欲しいんだ」


「澄んだ瞳で言わないでよ親父っ!?」


「デケーおっぱいも、小せぇおっぱいもな、――皆等しくおっぱいなんだぜ」


「当たり前だよ爺ちゃんっ!?」


「そして英雄……残念な事に世の中には限界があるんだ。そう――おっぱいにも。…………おっぱいはな、一人につき一組しかないんだ。おっぱぶに行ったってそうだ、――だが、ここに一つ例外がある」


「聞きたくないけど続きをどうぞっ!!」


「おっぱぶで全員の金を一人で使えば、…………何人ものおっぱいが楽しめる、それは夢、ロマン、――ぶっちゃけここまでやっちゃったから。それぐらいしないと割に合わない」


「それが本音かよっ!! 今までの優しいオサム兄さんは何処に行ったのさっ!!」


「そんなもん……一昨日、ディアに押し倒された時に死んださ。今の俺は自分の股間のソードに自信を持つ一人の勇者」


「どこからツッコんでいいのさっ!!」


 絶望、あまりにも絶望。

 修はこの後の修羅場を越えたハイパーウルトラマックス修羅場を覚悟して、己のおっぱい欲を満たしに来たのだ。


(――――嗚呼、おっぱいが罪を、争いを呼んでる)


 英雄の目から涙が落ちる、どうして男はおっぱいに愚かなのだろうか。

 自分に出来る事はもう無いのか、何か手は無いのか。

 思考は空回るばかり、しかし悲しいかな事態は進んで。


「人はパンのみにてに生きるにあらず、おっぱいにの為に生きる。……君の決意は変わらないようだね修」


「勿論だ、王太叔父さん」


「俺だって理解はしてるってぇの、今でも那凪のおっぱいじゃないと満足できない体になってるってな…………だがな、心と体は別だ。――俺は、未知なるおっぱいを求めてる」


「ああ、――痛いほど良く解るよ爺ちゃん」


 大馬鹿三人はファイティングポーズを取る。

 ――修は、おっぱぶで豪遊するため。

 ――王太は、妻に与えられた使命で。

 ――平九郎は、未知の乳房を求め。

 ぱさりと、一枚の葉が落ちる


「くらえっ!! 通信制気功術改め、ウンコ気功術!!」


「ガハハハハハっ!! ウンコがなんぼのもんじゃいッ!! 自慢の拳をくらええええええええッ!!」


「ステゴロは苦手なんだけどね、――蹴りはそこそこ得意なんだ。いくぞさっきウンコを踏んだ靴でキック!!」


 世にも汚い戦いが始まって。

 修はウンコのついた手で掌底を放てば、平九郎は躊躇無くそれを拳で殴り。

 王太が蹴りを放てば二人は上体を反らして回避、だが靴についたウンコが飛び散って彼らを汚す。

 ――それを、英雄は少し離れた所で眺め。


(………………あれ? みんなってば財布を置きっぱなしじゃない?)


 はた、と気がつく。

 彼らはおっぱぶを独り占めする為に、無様な三つ巴を繰り広げている。

 だがその肝心な資金、財布は纏めて放置されており。


(あー、なるほど? ここが分水嶺だね?)


 そもそもの話、英雄にとっておっぱぶに行くのはあくまで手段。

 目的では無いのだ。

 無論、おっぱぶに興味津々な事は否定しないし、本気である。


(これは…………行けちゃうねっ!!)


 彼の頭の中で様々な計算がなされていく、正直な話、後一つ決め手に欠けていた所があった。

 だから、おっぱぶチャレンジ成功の効果をアテにしていた。


(よし、勝ちにいこう)


 そして――、英雄は服を脱ぎ始める。

 シャツもパンツも靴下も、勿論靴だって。


(足の痛みは我慢だ、英雄くんは男の子っと)


 何故ならば、身体能力では彼らに負ける。

 ならば、少しでも身を軽くするのみ。


(そーしーてー、財布ちゃんをゲット~~!)


 仕上げに、フィリアに電話。

 呼び出し音が一回、二回、三回目の直前で彼女が出る。


「あ、もしもしフィリア? 僕、今から森を出ようと思うんだ、だから阻止出来るものなら止めてみなよっ! じゃーね!!」


 返事を待つ事なくスマホを捨て、財布を大事に持って。


「…………おい英雄? テメー何するつもりだ?」


「いけない息子だなぁ、今度はお前が相手か?」


「ふっ、油断ならないな英雄は。――お前も俺と同じくおっぱぶを独り占めするつもりだな」


 三人は敵意を剥き出しに英雄を睨み、彼はヘラヘラ笑って答えた。


「一生そこで争ってろウンコマンどもっ!! 僕はこのお金でおっぱぶを堪能するからさっ!! じゃあねバイバイっ!!」


「――チィッ!! おいっ! 一時休戦だっ!! 英雄を追うぞっ!!」


「させないよ英雄っ!! こころがマジ切れするからっ!!」


「へへっ、面白くなってきたぜ! お前を捕まえて俺は真のおっぱい勇者になるっ!!」


「はっはーーっ!! 悔しかったら追いついてみろスリーウンコマン!!」


 全力でダッシュする英雄に追いつくため、三人も走り出して。

 そして、橋にて待ち受けるフィリア達と言えば。


「糞ッ!! 何のつもりだ英雄ッ!! 調子に乗りおってッ!!」


「英雄からの電話ですか?」


「そうです御婆様、――――今から、ここに向かうと。阻止できるものならやってみろ、と」


「ほう、随分と舐められたものですね」


「フィリアさん、オサムウンコ様は一緒なのですか?」


「少し待て…………、未来? 報告を頼む。…………よし解った。ディアさん、修さんも一緒だ、どうやら御爺様と義父さんと三つ巴で争っていたらしいが、英雄が隙をついて財布を全取りして抜け駆けしたらしい」


 そう、フィリアには全て筒抜けだったのだ。

 ヘリで追ったのは誘導しやすくする為、そして備考するメイド・未来を気づかせない為。

 那凪は合流したディア、小夜、イア。

 そしてフィリアとこころ、美蘭を見据え。


「では貴女達、此処で終わらせます準備を」


「――承知(うう~~、修くんがスカトロ趣味だったなんてっ、い、いえっ、きっとわたし達を出し抜く手段な筈ですっ! ……でも、本当だったらどうしましょう)」


「よくも妾にウンコを~~!! ぶっ殺して顔にウンコ塗りたくってやるんだからっ!!」


「落ち着いてください小夜さん、イアさん。こうなったら、トリプルおっぱい地獄を味あわせるしかありません。――――オサム様には便器の底すら生温い、私達以外の女に視線すら向けられない様にします」


 かの勇者を想う三人は、激怒のあまり暗黒面に囚われて。

 那凪は土蔵から持ち出した真剣を、鞘から抜いて静かに目を閉じる。


「……そろそろ、虚勢しても良い年でしょう。ふふっ、大丈夫ですわ旦那様。切り落としたナニは私が全て食べて上げますから」


 そんな彼女達を見て、フィリアは我に返る。

 決して我が身を振り返った訳では無い、英雄に浮気の罰を与えるのは決定事項だ。

 だが。


(奇妙だな……、何故アイツは連絡してきたのだ?)


 事前に言われたとおり、そしてウンコを漏らした事といい、おっぱぶに行くという行為には本気しか感じない。


(少しでも勝率を上げるなら、私に連絡するのは悪手、――しまった、ここに来るのがフェイクかッ!?)


 慌てて未来に連絡を取るも、英雄達の進路は真っ直ぐこの橋へ。

 ならば、何故こんな手を使ったのだろうか。


(…………ポケットにいつの間にか入ってたあの指輪、何か関係があるのか?)


 美蘭に返す筈だった玩具の指輪、英雄が返せなかった指輪。

 フィリアは後ろを振り向き、美蘭を睨んで。


(待て、おっぱぶに行くと言い出した切っ掛けは何だ?)


 そう、彼女だ。

 彼女の想いに触れた後、帰る前に終わらせる為に、だ。


(~~~~あのバカめッ!! 少しは相談しろッ!!)


 英雄が何をしようとしているのか、フィリアには朧気に見えてきて。

 美蘭といえば、彼女に睨まれている事にも気付かずに。


(そう……、そうなのね英雄……)


 きゅうきゅうと胸を痛めながら、ただ彼を想う。

 彼女もまた、彼が何故こんな事をしたか理解しつつあった。


(全てはワタクシの為――いいえ、多分、フィリアさんの為に)


 きっと、恐らく、確実に今、美蘭は英雄に想われている。

 その方向性が何であろうと、誰のためであろうと、美蘭は英雄に強い想いを向けられている。


(こんなに、こんなにもワタクシは嬉しいのに)


 どうして涙がこぼれそうな程、胸が締め付けられるのか。

 彼の笑顔が、己の心から消えていきそうな予感がするのか。


(まだ、まだよ……まだ、まだワタクシは終わっていないんだから)


 きゅっと目を閉じ、祈るように両手を組み合わせて。

 ――そして女達は、先頭を走る全裸の英雄の姿と、後に続く愚か者達の姿を見た。


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