第146話 尊厳を捨てて栄光へのロードへ
賽は投げられた、とてつもない汚物をひり出しながら投げられた。
英雄は着替えと財布をひっつかみ、靴を履く手間すら、ケツを拭く時間すら惜しんで外へ。
目指すは、祖父母の家から商店街方面へ二番目に近い自販機。
「よォ英雄、遅いじゃねぇーか」
「さっすが爺ちゃん、早いね! 他の人たちは?」
「王太達は隠れてる、んで修がまだだ」
「うーん、大丈夫かなぁオサム兄さん」
「アイツなら大丈夫だろ、――んで? ここに集めた理由は何だ、そろそろこの後の行程も話しておく時なんじゃねーのか?」
二マリと笑う平九郎に、英雄はサムズアップして。
「よし、――カモン! 校長!!」
「ようやく出番か……老人使いが荒い奴じゃな」
「コウちゃん! 帰ったんじゃねぇのかッ!?」
「儂も平九郎と同じく、じゃんけんの報酬として命令されてなぁ」
「んじゃあ。オサム兄さんがまだだけど、そろそろ着替えようか、みんな出てきてっ!」
「待てよ英雄、大事な事を忘れてねぇか?」
「え、何かあったっけ?」
「バカ野郎ッ!! ケツ拭く紙だよ!! 俺らにウンコ付けたままパンツ履けってのかッ!?」
集まった皆は、フルチン姿+ケツにウンコの汚れという酷すぎる姿で頷く。
「愚問だね爺ちゃん――――、トイレットペーパーを持ってくる暇があると思ったかっ!?」
「無ぇのかよッ!?」
「そう、僕らはこのままパンツを履いて…………なんて、そんな事はしないしさせないさ。ケツにウンコついたままでおっぱい触るとか、テンション下がるにも程があるでしょ」
「おい、おい?」
「まあまあ、お茶目なジョークじゃよ平九郎。というかその為に儂がおるのじゃ、安心せい」
「なんでェ、驚かすなよ英雄」
「ごめんね爺ちゃん、万が一どこから漏れて校長が使えなくなったら計画が瓦解しちゃうからさ」
「という訳じゃ、――ほれ、トイレットペーパーじゃ使え。ビニール袋もあるからそこに捨てい」
「そうだ、服とか財布とか忘れた人は? それも予備を持ってきて貰ってるんだ」
「おーし、足りねぇ奴は受け取れッ!!」
そしてケツをしっかり拭き、衣服を整えた彼らだったが。
何分たっても修は現れず
「…………よし、残念だけどオサム兄さんは諦めよう」
「そうだな…………、テメェら修に黙祷!」
「愛に沈め修……」「君は勇者だった……」「出産祝いを今から考えておこう」「その前に結婚式だな」「それも勇者・修が帰った後の修羅場を乗り越えて……、香典を用意するか」
「くっ、惜しい人を亡くしたっ!!」
「勇者に敬礼だッ!!」
全員は満場一致で、あっさり修を見捨てる。
然もあらん。
今、家に戻ると怒り狂った伴侶達と鉢合わせだ。
誰が好き好んで助けにいこうか。
「じゃあこれからの予定を確認しよう、みんな地図は頭に入ってるね?」
「あったりめぇだぜ英雄ッ! この中の半分がこの家で生まれて、残る半分も毎年のようにキャバクラダッシュ、おっぱぶチャレンジをしてるんだ!」
「お前の親父を見くびって貰っては困るな、――ここまで来たら後は楽勝だ、……………………ゴールで待ち伏せされてなければ」
「王太の言うとおりだ、…………途中で子犬のぬいぐるみが捨てられてなけりゃあ大丈夫だ」
「ああ、パンツが落ちてない限りはな!」「ブラジャーが落ちてない限りは!」「ご近所の赤毛の美女が……いや、あれも不幸な事件でしたね」「脱衣麻雀に誘われなければなぁ……あれは惜しかった」
「ちっとも安心出来ないっ!? みんなどれだけ罠に引っかかってるワケっ!?」
ダメだコイツら、と頭を抱えたその時だった。
遠くから足音と、何やら言い争う声。
「――――――ちくしょおおおおおお! みんな逃げろおおおおおおおおおおお!!」
「待ちなさいオサム様っ!! そんなにウンコが好きなら私のを食べさせてやりますよっ!! ええ、オサム様が死んでもウンコを食わせますっ!!」
「いたぞ英雄だッ!!」
「観念しなさい旦那様!!」
「王太、――これから先、オムツ生活を覚悟しなさい!!」
百年の恋も覚める鬼の形相のフィリア達が、全裸ダッシュの修の後ろに迫っていて。
「オサム兄さんのバカああああああああああ!! みんな逃げろおおおおおおおおおおお!!」
「全員死ぬ気で走れェ!! 捕まったら終わりだぞッ!! 俺達はおっぱぶを楽しんでから死ぬんだッ!!」
「カカカッ! 恨むならそのちっぱいを恨めこころッ!! 俺はロマンを追い求める男! 愛してるぞおおおおおおおお!!」
「王太!! 今度という今度こそ許さないっ!! 百歳になっても私のおっぱいを吸いたくなるように躾てやるっ!!」
「フハハハハ!! 捕まえられるもんなら、コッチに来なぁ!! あーばよぉーーーー!!」
父はそう言うと、英雄にウインクを飛ばし違う道へ。
「親父っ!! なんて事だっ!! 追っ手を一人減らす為に犠牲にっ!! 僕がもっと臭いウンコをしていればっ!!」
「嘆くな英雄ッ! 王太は後で合流するっ! たとえケツにバイブが入っててもだッ!! お前の信じる父親を信じろッ!! ちなみに俺は嫁さんにバイブを突っ込まれる男に育てた覚えはないから信じないッ!!」
「それは僕も信じられないよ爺ちゃんっ!?」
「だ、誰か靴をくれっ!! 足の裏がマジで痛いッ!!」
「うわっ!? オサム兄さん超足早いっ!?」
「おっさきに失礼ってな!! 今の俺は誰にも止められねぇええええええ!!」
見事な身体能力で、英雄達を追い抜かして行く修。
だがその時、上空から妙にトラウマを刺激する騒音が聞こえてきて。
「見ろっ! スケスケ黒パンティが降ってきている! これはオレの妻のだっ!! ひゃほおおおい! 妻のおぱんちゅうううううううううう!!」
「ああっ! 翼叔父さんが罠にっ!! というかヘリコプターっ!? フィリアだよね絶対っ!! なんて無茶苦茶なっ!!」
「ウンコを漏らしてまで気を反らした貴様に言われたくないっ!! ――未来、パンティ投下!!」
「うっひょう!! この赤いレースのブラは嫁さんのだっ!! あれもこれも、全部嫁さんのだなっ!? 罠だと分かっていても体が勝手に――――嫁ブラジャーばんざーーーーい!!」
「大二郎伯父さあああああああん!!」
「糞ッ! 今年も同じ手に引っかかりやがってッ!! というか英雄ッ!! テメーの嫁御はどうなってるッ!! ヘリなんて反則だッ!!」
「僕に言わないでっ!!」
「ヘリだろうが、地の利はこっちにあるっ!! 俺に続け二人とも――――何だとっ!?」
先頭を走る修は驚愕した、ヘリが地面すれすれに降り立ったと思えば、そこから二人の女が飛び降りて。
「田舎の田んぼ道だからって無茶し過ぎだよ未来さんっ!? というかあの二人って…………」
「なんでココに居るんだよ小夜っ!? イアっ!?」
「――浮気者は粛正、そしてディアの件の説明を求む(はわわっ!? 修くんがそんな趣味だったなんてっ!? ええ、でも言い機会ですっ! 前例を作ってくれたディアさんに、淑女協定に感謝! ハーレムを作ればおっぱぶだなんて言わせませんよっ!!)」
「アンタどこまでバカなワケっ!? 妾が直々にケツの穴を調教してやるわっ!! というかディアの件を説明しなさい!!」
「畜生!! 刺すなら刺してみやがれっ!! 俺にはお腹と背中にタブレットという盾が――」
「今はマッパだよオサム兄さんっ!?」
「捕まってたまるかああああああああっ! ああっ、金玉はヤメロォ!! まてっ!? 何故ケツを狙うっ!! お、俺は負けねぇええええええええ! 誰か助けてぇええええええ!!」
「オサム兄さああああああああん!! ――仕方ない、見捨てよう」
「だな、さし当たっての問題は――――」
後ろを振り返る英雄と平九郎、そこにはヘリに乗り込むフィリアと那凪の姿が。
「少し遠回りになるけど、森に入ろう爺ちゃん!」
「それだッ!! 遅れるなよテメーらッ!!」
「「「いざ行かん! おっぱぶへ!!」」」
思わぬ猛攻で英雄達は残り数人、だが彼らは諦めずに森に入り。
ヘリの中の美蘭は、キシャーと激高するフィリアと那凪の後ろで静かに彼らを睨み。
(落ち着きなさい、落ち着くのよワタクシっ!! これは英雄の罠っ!! おっぱぶに行くなんて英雄らしく…………ああもうっ! 英雄なら本気で行きかねないっ!! 何を考えてるのよっ!?)
彼女からしてみれば、英雄の行動は実に不可解だった。
うんこを漏らすぐらいには手段を選ばない彼であるが、フィリアという愛する彼女を置いて本当におっぱぶに行くのか?
否、全くの否である。
(けど、止めなければアイツは本当におっぱぶに行くっ! ――――アタクシへの当てつけとしてっ!!)
だが、本当に当てつけだけなのか。
英雄の目的は、美蘭の心を揺さぶるだけなのか。
(何としてでも捕まえて、聞き出すしかないわ)
アチラが尊厳を捨ててまで行動するなら、美蘭としても相応の、それ以上の覚悟を以て止めなければならない。
――ヘリが彼らを見失い、商店街に先回りする為にコースを変更する。
(絶対に他の女になんて触れさせないっ!! フィリアさんであってもっ!!)
美蘭は親指の爪を噛みながら、瞳を黒く淀ませた。
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