第138話 脇部んチに咲く花



 GW三日目突入である。

 男共の大半が二日酔いでダウンしたま朝食を、女性陣は実にケロリとした顔で。

 そしてその後、お昼まで何をしようかという時。


「ではお二人とも、時間は有限ですわ。今日も今日で親交を深めようではありませんか!」


「昨日の今日でよく来るね美蘭? 僕のコト、憎いんじゃなかったの?」


「そうですとも! 貴男はワタクシの憎き怨敵マイヒーロー! どうやって屈服させるか朝ご飯を食べながら考えました!」


「それは実に浅い思考時間だな? あと一日ぐらい練って居ていいのだぞ?」


「明日の昼には帰るでしょうに、それに、英雄に時間を与える程ワタクシは愚かじゃありません」


「良かったな英雄、理解者だぞ?」


「うーん、敵じゃなけりゃ歓迎したんだけど」


「ふふっ、英雄からの敵視の目線。これぞ悪役の快楽ですわ!!」


 体をくねらせてゾクゾク震える美蘭に英雄はドン引き、フィリアは義務感百パーセントで問いかける。


「それで? 朝から何をしようと言うのだ。昨日みたいなリスクのある大騒ぎはごめんだ」


「ノンノン、もっと華麗に行きましょう。――言ったでしょう? 親交を深めにきたって」


「具体的に?」


「まず一つ、英雄は座布団にでも座って指をくわえて眺めてなさい」


「放置プレイ? じゃあ次はどうすんの?」


「ワタクシとフィリアさんがイチャイチャします!!」


「…………ふむ、喜んでイチャイチャしよう!!」


「ちょっとフィリア? なんでそんなに乗り気なワケ? 僕ってばハートが傷つくんですけど?」


「昨日、大人しく協力するフリをしろと言ったのは君ではないか」


「あ、それ随分あっさり言いますのね」


「これぐらいは美蘭さんも想定内だろう? なら言った方が心理戦で優位に立てる」


「ワタクシの予想が当たっていると油断を誘う気ですね、良いわ乗ります! 美少女に義務的にイチャイチャとかちょっとイケない快楽ですわっ!!」


「わかりみが深い」


「流石は英雄! 分かってくれると信じてましたわ! イエーイ、ハイタッチ!」


「いえーい、ハイタッチ!!」


「そんな事で分かり合うなッ!!」


 本当に彼女は英雄が憎いのだろうか?

 首を傾げたくなるフィリアであったが、二人は気にせず盛り上がって。


「で、で? 何をするの! 気になる!!」


「ふふっ、でも英雄は見てるだけですわ!」


「くっ、なんて卑劣なんだ美蘭! 君こそ悪役だよっ!!」


「おほほほっ! そこでガン見していなさいっ!!」


「…………はぁ、イチャイチャと言っても何をするんだ。唇は許すつもりは無いし、その先は言語道断だ」


「では参考までに聞きますが、ワタクシが貴女にキスをするのは?」


「ダメでしょ」


「ほっぺたまでなら」


「フィリアのほっぺたが寝取られたっ!?」


「ふふっ、君はそこで悔しがって嫉妬と欲情メーターを貯めるといい」


「あれ? ワタクシってば夜のダシに使われてません?」


「君の悪辣な罠に付き合うのだ、少しの役得があっても良いと思わないか?」


「うーん、その意気やよし。では早速、ほっぺにチュー!」


「どんと来い!!」


「ふわぁっ!? 美少女と雰囲気美少女がイチャつき始めたっ!? この胸の疼きは何っ!?」


 いつもの通りムスッとしたフィリアの顔に、美蘭はそっと唇を寄せる。

 英雄はああ言ったが、美蘭も外見は優れている方に入る。

 金髪の少女の、心底嫌そうな冷たい視線。

 銀髪の少女の、うっとりした表情。


「これは良いものブヒィ! フィリアの表情がストーリー性を醸し出して、そう! 嘆美な空間ブヒィ!!」


「くッ、百合豚になった英雄も良いと感じてしまう自分が悔しいッ!!」


「ちょっと待ってくださいまし? 嫌がる人に頬とはえ無理矢理キスだなんて…………ワタクシ、バイに目覚めたかもしれません」


「只の愉悦ではないか?」


 一人冷静なフィリアを置いて、英雄と美蘭は盛り上がる。


(糞ッ! 計算違いだッ!! 英雄は何故か喜んでるし、私の方がジェラシーを感じているぞッ!!)


 どうにかして、英雄の注意を引かなければならない。

 使命感に燃えたフィリアは、美蘭の手首を掴み壁際まで移動。

 彼女をドンと壁に押しつけ。


「あら、貴女の方から来てくれるんですの?」


「――その口、塞いでやろうか?」


「わーお、壁ドンだっ!! 美蘭の股の間にフィリアの足が挟まってるのはポイント高いよ!!」


「か、顔が近いですわっ!? 睫毛ながいっ!? まだ化粧していませんのに唇が赤くてプルプルしてっ!? しかも良い匂いしてますわよっ!? この世の奇跡でしょう誇れっ!!」


「この状態で、どこまでその口が続くか見物だな……私は目的の為なら手段も方法も選ばない女だ」


「次はどうすんのフィリア?」


「良い質問だ英雄、――美蘭さんにがエッチな事をするのを禁止したが…………私が手を出しても構わないのだろう?」


「僕が構うんだけど?」


「ひゃうっ!? 耳元で囁かないでっ!? この声って癖になりますわっ!?」


「大丈夫だ、じっくり行こう……」


 美蘭の首筋に顔を埋めたり、腰を撫でたり。

 ギリギリ健全なラインを攻めるフィリア。


「うーん、もしこれが男同士だったら地獄だったねぇ」


「待て英雄ッ! 感想がそれかッ!?」


「眼福って言えば眼福なんだけど、美蘭は従兄弟だしそれなりに見慣れてるし欲情しないからなぁ」


「ではフィリアさんには欲情しませんの?」


「フィリアが攻める姿も刺激的だけど、どっちかって言うと、攻められてる方が輝くから」


「いえ英雄? それは単に征服欲が刺激されるシチュってだけでは?」


「そうとも言う」


「………………私は無力だ」


「――っ!? チャンス到来っ! フィリアさんん太股ゲットぉ!!」


 崩れ落ちて座り込んだフィリアの隙をつき、美蘭はすかさず太股に頭を乗せる。

 だが、同時に英雄も見逃すはずが無く。


「甘いね、この太股は僕のモノさっ!」


「ああっ、ルール違反ですわよっ!? 普段からしてもらっているでしょう! 全部譲りなさいな!」


「ダメだね、こればっかりは譲れない」


 右に英雄、左に美蘭の頭を乗せて。

 流石のフィリアの太股もそこまで広くなく、頭と頭がゴッツンこするほど狭い。

 そんな子供じみた二人に、フィリアはため息混じりに微笑んで。


「二人とも、喧嘩しないで仲良くするんだ。頭をぽんぽんしてやるから」


「はいママ」


「ママァ……」


「おー、よちよち、良い子にしてくれてママは嬉しいぞ」


「ばぶー」


「バブゥ!!」


「………………おっぱい吸うか?」


「いやフィリア? 節度と恥じらいってモノを覚えよう?」


「ダメですわフィリアさん、女の子が言う言葉じゃありませんよ?」


「貴様等は何なんだッ!! そこは喜ぶ所じゃないのかッ!?」


 キシャーと牙を向くフィリアに、英雄と美蘭は同時にやれやれと肩を竦め。


「分かってないなぁ、僕らはエッチな事がしたいんじゃないんだ」


「そうですわよ。ワタクシ達は未婚で子供の居ない、まだ少女の年頃の女の子に母性を感じたいのであって。淫猥な事をしたいワケじゃありません」


「面倒くさいッ!? もう膝を貸さんッ!! スタンダップ私!!」


「ぐぎゃっ!?」


「でっ!?」


 ゴツンゴツンと頭が落ちて、床は畳なのでそこまで痛みはないが。

 それはそれとして、とても残念である。


「付き合ってられるかッ! 二人とも暫く頭を冷やせッ!!」


「え、何処行くのフィリアっ!?」


「お婆様と義母さまの所だッ! 夫を籠絡するコツを聞いてくる!!」


「あちゃー、行っちゃいましたわねぇ」


「もう、美蘭の所為だよ?」


「それを言うなら、英雄が原因なのでは?」


 体を起こし、顔を見合わせる二人。


「では、午前はお開きという事で」


「オッケー、また午後もするの?」


「その予定ですわ、……ところで、実際に見た感想は?」


「美少女二人の絡みは百合豚になっても良いかなって思ったけど……」


「けど、何ですの?」


「僕としては、その間に入って堪能したいかなって」


「それ、本物の百合を好む方の前で言わない事を進めるわ。殺されますわよ?」


「だよね、気を付ける」


 そして二人も部屋を出て、正反対の方向に歩き出した。


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