第五章 GW動乱
第124話 トラブルはラッキースケベが好みだがそうはいかない現実
(どこで何を間違えたのさっ?)
父との電話を終えた英雄は頭を抱えた。
ゴールデンウィークを明日に控えてのホットスタート。
心当たりは数知れず、けれど警察沙汰になるような犯罪はしていないし。
「バカ騒ぎをしてたぐらいだよね……けど、センセ達のウケも良かったというか、むしろセンセ達も積極的に参加してたし…………、あー、もうっ! 理由が分かんないっ!」
「英雄、どうした? 外まで聞こえてきたぞ?」
「あー、フィリア。お帰り、僕のポテチ買ってきてくれた?」
「勿論だとも」
「うっひょう、コンビニ限定の梅こんぶ味ポテチ! でも喜べない!!」
「……ふむ、さては君。何かあったな? これ以上無いぐらい焦った顔をしているぞ?」
いつもの様に感情の読めない仏頂面のフィリアだが、流石にここまでの付き合いだ。
眉の微妙な角度、口元の下がり具合で心の底から心配している事は分かる。
「そんな顔してる? じゃあ問題だ、君がコンビニに行ってる間だに何があったでしょう!」
「ヒントは?」
「これは僕たちにとって、大きな問題になるかもしれない」
「ふむ、ふむ…………。では少し待て」
「え? 何でタンス? 下着でも履き替えるの? 今日ってそんなに暑かったっけ」
「馬鹿者、私と君にとっても大事な問題なのだろう? ならば心当たりは一つだ」
「ちょい待ち、僕には下着を確認するような大問題なんて知らないんだけど?」
んん? と嫌な予感に首を傾げる英雄。
フィリアといえば、チッと舌打ちしてタンスの引き出しを閉める。
「――確認するが英雄、私のレースの紐パンを勝手に履いてないだろうな?」
「いくら君のでも、そんな事しないよっ!?」
「だが、頭に被って遊んでいる事があるだろう」
「それは君の前だけっ、構って欲しいからボケてるんじゃないかっ!」
「断言するが君、将来娘が出来て成長したら。パパ、ウザイと言われる事は間違いないぞ」
「マジでっ!? 僕ショックっ!! ――じゃないよフィリア、話を戻そう」
「うむ、単刀直入に聞こう」
「クイズを出したのは僕だけど?」
「では問題だ」
「あ、スルーされた」
そしてフィリアは威圧敵な表情で、ガンを飛ばしながら至近距離で英雄を睨みつけ。
「――――ここ数週間、私に無断で私物を漁ったり、下着を盗んだり、尾行しているのは君か?」
「何それ僕ってば聞いてないよっ!?」
青天の霹靂にも程がある。
やはり違うか、と落ち着いた様子で呟く彼女の一方、英雄は目を白黒させて。
「今言ったからな」
「もっと早く言ってよっ! というかこの期に及んでトラブル追加なワケっ!? 僕が退学の危機だってのにっ!!」
「待て、待て待て待て? 退学? 何だそれは? それこそ聞いて居ないぞ? 私がコンビニに行っていた間に何があった? それとも黙っていたのか?」
「フィリアが帰ってくる前に、親父から電話があったんだよ!! 僕だって初耳だ! というかそれよりストーカーの件! もっとキリキリ情報聞かせて!」
「君の退学の件が先だ」
「いや、君の件が先だよ! 下着取られたって事はこの部屋に侵入されたって事じゃん! 暢気にしている場合じゃないよ!!」
「私の方が金の力でなんとかなる、今は君の方が先決だ」
「僕の方はゴールデンウィーク終わったら校長先生に直談判するよ! 君の方が先だ!」
「英雄の方だ」
「フィリアの方だ」
「英雄のだ!」
「フィリアの方さ!」
「むむむ!」「ぐぬぬ!」
二人は睨みあいながら顔を近づけて。
「――ん」
「…………ふう」
軽いキスを一つ、仕切り直しである。
「じゃあ先ず僕の方から、と言ってもさっき言った通りさ」
「義父さんから電話があって、退学の危機にあると?」
「うん、それだけ」
「…………ふむ、不可解だな」
「何が? やっぱ卒業式で父兄参加のバルーン割りチャンバラ・卒業式サバイバルしたのが原因かな?」
「それは無いだろう、父兄OB卒業生在校生、そして教師教頭校長、全てに好評だったし。近隣の学校からも導入したいから詳細を教えてくれと生徒会に話が行ってる」
「マジで!? いやぁ、先輩達の頼みで計画した甲斐があったってもんだね! うーん、僕らの卒業式の時はもっと派手になるように今から仕込んでおくかなぁ?」
「その前に、退学の事だな」
「不可解って言ったね、何が引っかかった?」
「英雄も普段なら気づきそうだが……、まあいい。そもそも、一発退学などあり得るか? 君はお祭り男だが警察に捕まるような違反は無いし、校則違反も平均的だ……多分」
「ああそうか、その前に担任のセンセから警告やら停学があるよね」
「そこだ。忘れたか? 今の担任は姉さんだ、私達に事前に通達が無いのがおかしい」
「確かに、何で親父からなんだろう。校長センセとも知らない仲じゃないし、DMで直接知らせてくれてもいいのに……」
「校長先生のアカウントと相互フォローしてるのか君?」
「僕だけじゃないよ? 男子は結構相互フォローしてると思う」
「……ふむ、教師と生徒の距離が近いのは今更か」
「ま、ウチのガッコだもんね」
「では私は姉さんに聞いてみる、君は校長を当たれ」
「今出来るのはそれぐらいみたいだね」
英雄は校長にDMで質問を送り、フィリアもまた姉ローズにメッセージを送る。
「これで僕の方は返信待ちだ」
「退学と言っても、次に登校したら即日退学などありえない。もしそうなっても、私の力で私立校に転校する」
「もし本当に退学になるなら頼もしいね、残念でもあるけど」
「転校する時は私も一緒だ、安心しろ」
「…………ありがと、僕の最高の恋人が金持ちで良かったよ」
「最高なのは金を持っている事か?」
「まさか、お金が無くても僕はフィリアが最高だと思ってるよ」
「では英雄、君の最高の恋人のストーカー問題を話し合うとしよう」
「よしきた、じゃあ最初から頼むよ」
頬にキスをしあい、話は次へ。
ストーカーがストーカーされるとは奇妙な事だが、現実に起こってしまった以上、恋人として絶対に対処しなければならない。
「違和感を覚えたのは、さっき言ったとおり数週間前だ…………そうだな、三年に上がった直後ぐらいか?」
「ええと、今がGWだから。……それって一ヶ月以上前って言わない?」
「ふむ? よく考えるとそうなる訳だな」
「というか君、自分がストーカーされてるって言うのに落ち着き過ぎてない?」
「君の退学の話が衝撃的だったからな」
「いや、問題はその前から起こってるじゃん? フィリアってばそんな素振り一度も見せてなかったじゃん?」
「これは自慢なのだがな、私は美しい」
「そうだね」
「……そこは美少女をカノジョに持って嬉しいという場面では?」
「そんな場合じゃないと思うよ?」
「残念だ、では続ける」
「あー、美しいから今までもストーカー被害の経験があったって言いたい?」
「少し違う、多くの人間の視線を集まるのは日常茶飯事だからな。それにウチから護衛も着いてる、問題は全て未然に防がれているのだ」
護衛の件は初めて知ったが、然もあらん。
英雄としては度々忘れがちになるが、這寄フィリアという人間は良家のお嬢様だ。
となれば問題点は。
「その護衛の人たちの目を盗んで、僕らの部屋に盗みに入った誰かが存在するって事? 念のために聞くけど、僕のストーカーじゃないよね?」
「君のストーカーはあり得ない、何故ならば私が全身全霊でもって排除しているからだ」
「うーん、頼もしいお言葉。ちっとも嬉しさが無いのは何故かな?」
「それは不思議だな。だが安心しろ、何年も今現在もおはようからお休みと言わず、布団の中まで把握しているのだ。何なら、昨日君が何回寝返りを打ったかさえ言えるぞ!」
「相変わらず僕へのストーキングが治ってないよね?」
「そうか? 機械による監視は止めているぞ?」
「え、じゃあ一晩中起きてたワケっ!?」
「いや英雄、愛する男が隣に寝ているのなら。コチラが寝ていても全てを感じ取って脳に記録しておく事など簡単な事だろう?」
「さも当然のように言わないでっ!? フィリアってば変態度が上がってないっ!?」
「うむむ、そうか? ウチの女子達とこの手の事を話した事があったが、九割が出来ていたぞ?」
「マジでっ!? ウチの女子達はどうなってるのっ!? そんなんだからバレンタインが大騒ぎになったってマジで自覚してどうぞ!?」
「全ては愛故に、だな……」
「何、良い感じにまとめてるの?」
些か疲れを覚えた英雄であったが、肝心な話が進んでいない。
「ストーカーの証拠はある? あるなら警察に行こう」
「視線を感じるし、時折妙なメールが入る、だが家の方の諜報部で調べても差出人不明だし、物は無くなっても証拠は出てこない。……家の内外併せて二十台の監視カメラを付けてると言うのにだ」
「………………それって、僕の出来ることある?」
「あるぞ」
「やっぱ無いよねぇ…………」
「いや、あるぞ?」
「うん? 君がお金の力と熟練ストーキング力で対策してダメだったのにあるの?」
「ああ、とても大切な役目がある」
真剣な瞳でみつめるフィリアに、英雄もまじめな顔で頷いて。
「何でも言って、協力して捕まえよう」
「いや、捕まえない」
「え、何で?」
「そんなもの、痺れを切らして出てきた所でウチの護衛に捕まえさせればいい」
「じゃあ僕は何をするの?」
「分からないか?」
「えーと、囮になるとか?」
「ばーか、…………側に居てくれ。私はそれだけで幸せだ」
「なるほど、それは責任重大な役目だ。僕は喜んで引き受けるよ!!」
二人は両手の指を絡ませ、微笑んで。
そのまま体を密着させ、顔が近づこうとしていた。
――――だが。
『見知らぬだれかさんから、メールだよ!』
「え、僕の声?」
「うむ、君の声を合成して着信音にしていてな」
「ふつーに止めて?」
「恋人なら普通だ」
「えぇー、そうかなぁ……?」
英雄が首を傾げる一方、スマホを取り出したフィリアは画面を見て眉を潜める。
「どうしたの?」
「…………これを見ろ」
「どれどれ? 『モウスグアエル、マイゴッデス』」
「多分これが、例のストーカーのメールだ」
「っ!? 今すぐここを――――」
――――ピンポーン。
「まさかッ!?」「遅かったっ!?」
呼び鈴が一回、つまりは誰かが来たという事で。
英雄とフィリアは緊張と緊迫で身を堅くした。
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