第122話 でかしたっ!!



「フハハハハ! ハッピーバレンタイン! 親愛なる我が生徒諸君、楽しんでおるかね!!」


「あ、校長センセ! ちょっとヘルプミー! 体育館のシステムが不調っぽくて扉が開かないんですっ!」


 脇部某もとい英雄が捕まり、そして解放され。

 体育館にどう入ろうかと話し合いを始めたその時だった。

 校長が上機嫌で、英雄の所へやってくる。


「丁度良かった。校長先生、我らはこれより共同でチョコを作りバレンタインを祝おうかと思っているのです、なので体育館の扉を開けては貰えませんか?」


「――却下じゃ」


「あれ? 校長センセ、今なんて?」


「却下じゃよ」


「…………理由をお聞かせ願えますか? 校長先生」


 困惑する英雄と凄むフィリアに向かって、校長は好好爺とした然を崩さずに。


「すまぬな若者よ、今年のバレンタインは中止じゃわい」


「校長センセ? あれ? まだ情報が届いてませんか? もう騎士団とか同盟とか関係なく――」


「知っておるよ脇部君、……否、平九郎の孫よ」


「平九郎? え、校長センセってば爺じゃんの知り合い?」


 首を傾げる英雄に、校長はくわっと目を見開くとた啖呵を切る。


「ええい、とぼけおって!! ここで会ったが百年目!! アイツも息子も孫も!! 代々で儂に迷惑をかけおってからにっ!! 今日こそ貴様等一族に引導を渡してくれようぞっ!!」


「……校長先生、申し訳ないが話が見えないのだが?」


「フン! 這寄君、優秀な生徒だと思っていたがまさかロクデナシの孫のロクデナシの嫁になるとはな」


「もしもし校長センセ? 拙者達、全然理解出来ないでゴザルが?」


「よろしい! そこまで言うなら聞かせてやろう! 儂とアイツの因縁を!!」


「いや校長センセ? 誰もそのコトを聞かせてとは言ってないけど?」


 英雄のツッコミやその他大勢の迷惑そうな視線を意に介さず、校長は気持ちよく語り始めた。


「そう、君たちにとっては約五十年以上前の事で…………儂にとっても五十年前の事じゃ」


「今の下り必要あった?」


「黙れ脇部の孫がっ!! ――オッフォン! ともかく儂は代々貴様の家系に苦しめられて来たのじゃ!! ある時は学校一のマドンナをかっさらわれ、あるy時は儂が暴いて出世する筈だった上司の不正を先に暴かれ、そして今っ!! 儂と嫁が別居で離婚の危機だというのに青春大騒動などと羨ましい事をっ!! 断じて許さん!!」


「完全に八つ当たりだよっ!?」


「恨むならリア充である貴様の祖父と父と己を恨むが良い!! チクショウ!! おろろーーーーん、帰ってきてくれ良子おおおおおお!!」


「おい英雄、勝手に泣き始めたぞ?」


「いや僕に言わないでフィリア?」


「とはいえ、これは英雄殿の案件では?」


「そうそう、お前が何とかすべきだろう」


「なので、何とかしてください英雄センパイ」


「え、君ら薄情じゃない? 僕一人で解決するのコレっ!?」


 気づけば周囲の生徒も、何とも言えない複雑な視線で英雄を注視し。


「ああもうっ、分かったよ! でもその前に、――校長センセ! 何時から僕を裏切ってたのさ! そんなそぶりなんて少しも無かったじゃないか?」


「当たり前じゃろ? 何故、貴様ら一族に隙を見せなければならないのだ? 祖父といい父といい貴様といい、少しでもガチ敵対する素振りを見せたら、徹底的にメタを張って叩きのめすじゃろうが?」


「助けてフィリアっ!? 僕に対してガチ過ぎるよ校長センセっ!?」


「成程、勉強になる。隠蔽は完璧に、疑惑を抱かせた時点で敗北が必須という訳か……」


「それ無理ゲーって言わないでゴザルか?」


「よし英雄、後でポテチ奢るから全部チャラな」


「英雄センパイ、ジュース奢るんで全部チャラですよ」


「僕の扱いが雑だしヒドいっ!?」


 恋人と友人達の反応はともあれ、そうであるならば気になる点が一つ。


「でも校長センセ? じゃあ何で今出てきたの? まだ勝利確定してないでしょ?」


「ほう? 流石はアヤツの孫よ。この難攻不落の体育館を前に良くほざくのう。頑丈に補強した扉、勿論窓や通気口も対策済み、電子ロックは中からのみ、解除するにはパスワードが必要、――そして中には大量のチョコ」


「校長センセの勝利は確定してるって?」


「そうじゃ!! もはや儂の勝利は揺るがん!! 勝った! とうとう脇部の一族に勝ったのじゃ!! これを手みやげに良子に戻ってきて貰うんじゃ!!」


「なーるほどなぁ……」


「ふむ? 何か手はあるのか英雄、その顔は何か企んでる顔だろう」


「あ、分かっちゃう? 流石は僕のハニー」


「分かるとも、私のダーリンだからな」


 英雄には策がある、だが校長が敵に回るとは本当に予想外だった。

 ならば、それで足りなくなった一手を補わなければいけない訳で。


「…………校長センセ、ちょっと質問良い?」


「ならぬ、貴様らに余計な言質を与えると禄な事にならない」


「まぁまぁ、そう言わずに。現状の確認だけだから」


「確認? 儂が勝利した、それ以外に何かあるか?」


「僕が聞きたいのは、その前提。――校長センセは、つまりこのバレンタイン決戦に第三勢力として参戦、チェックメイトをかけたって事でオッケー?」


「…………まぁ、そうじゃな」


「つまり、この脇部一族きってのエリートエンジョイ勢である僕を倒す為に、ゲームの盤上に上がった。そう受け取って良いんですよね」


「何が言いたい?」


 静かに問いかける英雄に、校長だけならずフィリア達も不穏な何かを感じ取って。

 ――そして英雄は続ける。


「くくくっ、ははははっ、聞いた? ねぇみんな聞いたよねっ! 校長センセもバレンタイン決戦に参加している訳だ! この青春バカ騒ぎに!!」


「そして明確に僕に、そして僕の家族に敵対しているっ!! ――ならば敵だっ!! 僕らの敵だっ!!」


「校長先生、これは忠告だが。今すぐ我々にチョコを渡すべきでは?」


「そうでゴザル、有効な策であったが、勝敗が完全に決する前に出てきたのは悪手でゴザった」


「脇部の孫っ!? 貴様何を――!?」


 校長が焦りをみせた瞬間であった、英雄はパチンと指を鳴らし。


「カモン!! 這寄家従者隊のみんなっ!! 出番ですよっ! ゲームはまだ続行だぁっ!! いやっほう!!」


「ぬっ!? 未来っ!? 今まで何処にっ!? そして貴様等、いったい何を用意して――!?」


「メイド分隊! 校庭にキッチンを用意! 執事分隊、若旦那様ご注文の品を搬入! ――っと、這寄家従者部隊・隊長の未来、ただいま参上致しました」


「おおっ、あっと言う間に校庭にキッチンが!? これでチョコを作るでゴザルね!?」


「でもチョコはどーすんだ? 校門から入ってきたトラックに入ってるのか?」


「それも考えたんだけどね、流石にバレンタイン当日の朝じゃない? ちょっと手に入らなくてさ。――あ、みんな、ちょっと道を開けてね! 今から扉を開ける準備するから! みんなも手伝ってね!!」


「な、な、な、何をするつもりなのじゃっ!?」


 目を丸くする校長、興味津々に道を開ける生徒達。

 トラックはその荷台にある大きな棒状の何かを下ろし。


「英雄様、ありましたよ丸太が!」


「でかしたっ!! よし、全員で丸太を持つよ!!」


「おい英雄? 丸太? あれを丸太だと? 丸太に偽装した破城槌ではないかっ!?」


「待て待て待てぇ!? そこは苦労してパスワードを解析するなり、儂にヒントを求めるのではないのかっ?!」


「え、何で敵の策に乗らないといけないの? そんなのだから校長センセは、爺ちゃんにも親父にも負けるんだよ? あ、今から僕にも負けるんだ。もし僕の子が通う事になったら、今度は負けないように策を立ててね? 今回はかなりビックリしたし、後もうちょっとだと思う」


「くぅんぬおおおおおおおおおお!! これだから脇部の一族はぁあああああ!! 正面からやっても、後ろから邪魔しても、邪道に手を染めても駄目とかっ! もうちょっと自重するのじゃあああああっ!!」


「よーし、みんな丸太は持ったな!!」


「英雄殿? 校長センセは放置して良いのでゴザル?」


「いや、この局面で気にかけてもチョコを作るのが遅くなるだけだと思うけど?」


「しゃーなし、なら行こうぜ英雄!」


「体育館の扉の向こうへ、レッツゴーですね!」


「うむ、では号令をかけてくれ英雄」


「了解さ、あ、未来さん。校長センセは簀巻きにしておいて。それから奥さんに連絡して来て貰ってよ」


「はなせぇっ!! 覚えてろよ脇部!! そして良子を呼ぶのは止めてくれぇっ!! また怒られるぅ!! これで三回目の再婚なのじゃ! 次の離婚の前に監禁されて出られなくなるのじゃああああああ!!」


「え、何それスッゴイ気になる!!」


「あー、校長センセってば。良子さんって人と離婚と再婚を繰り返してるって、風の噂で聞いたことあります」


「詳しく聞かせてよ、愛衣ちゃん!」


「待てよ英雄、その前にチョコ手に入れようぜ」


「おっとそうだった。じゃあみんな丸太は持ったね!」


「「「「おうっ!!」」」


「それではご一緒にっ! ハッピー・バレンタイン!!」


「「「ハッピー・バレンタイン!!」」」


 戦国時代のドラマで見るような形の破城槌は、物理法則に従って、勢いよくその重量を扉にぶつけ。

 しかして中身は最新鋭、そこに内蔵されたパイルバンカーが発動。

 扉は見るも無惨な姿になって。


「いやっほう! チョコ作りだ!!」


「絶対に後悔させてやるぞ、脇部一族ううううううう!!」


 負け犬の遠吠えをバックに、生徒達は笑顔で体育館に突入した。


 

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