第120話 深夜戦線・崩壊



 騎士団結成の翌日に、話は巻き戻る。

 校長室にこっそり呼ばれた英雄であったが。

 差し出されたのは謎のスイッチだ。


「――校長、これは?」


「ふぉっふぉっふぉ、よくぞ聞いてくれた! これこそが我が青春のロマンを詰め込んだスイッチ!」


「いえ、具体的に教えて欲しいんですが?」


「君は自爆スイッチ思っても良い、はたまた、青春の一ページの思い出の様な何かかもしれない」


「校長? 校長センセ? 僕の話聞いてます?」


 英雄の問いかけを無視し、ヒートアップした校長はもう一つ謎のスイッチを手渡す。

 今度はラジコンのコントローラー型だ(片手で持つタイプ)


「……行け、若きアオハル戦士よ! ちなみに、窮地に陥ったらコッチのボタンを押すがいい! コチラは体育館の中でないと作動しないから気をつけるんじゃぞ!! さあさあ、お帰りはあちらですぞよ!」


 そんな訳で体育館に無事に戻った英雄は、鞄を置いてある倉庫へ駆け込み。


「ああもうっ! こんなあやふやなスイッチに頼る事になるなんてっ! でもちょっとワクワクするよね、スイッチオーン!!」


 躊躇うこと無く、コントローラー型のスイッチ、つまりはトリガーを引く。

 すると。


『体育館タワーディフェンスモード、承認じゃ! これより体育館は封鎖される! 解除するには自爆スイッチっぽいアレを押すか、外のスペシャル謎解きをクリアするしかないのじゃ!! では健闘を祈る!!』


「マジでっ!? ばっかじゃないの校長センセっ!? ウチって一応市立高だよねっ!? こんなの作ちゃって良いのっ!? マジでサイコーー!! テンション上がって来たぁあああああああああ!!」


『なお、建築法以外はわりと無視しているので。存在がバレたらマジでヤバいから、秘密基地防衛モードを起動する際は十分気をつけて起動するのじゃ』


「ファッキン校長っ!! 何してるのさマジでさぁっ!! でも時間稼ぎにはなるよねサンキュー!!」


 窓という窓にはシャッターが自動で降り、通路の隔壁は閉鎖……に見せかけて、○と×が書かれてるので用途はお察しである。


「これはホント、テンション上がるね! くぅ~~校長ってば分かってるぅ! これなら文化祭の時だって……いやそうじゃない」


 秋の文化祭の事を考える前に、今はこのバレンタインの事を考えなければ。

 何だかんだと時刻はそろそろ明け方近く、混沌したバカ騒ぎを軟着陸しなければならない。


「胴体着陸……せめて、車輪は出しておきたいなぁ……」


 冷静になった所で、更なる問題が浮上。


「…………籠城モードって何が出来るのさ? え、何も出来ないとか勘弁だよ? 何か取説とかないの? ――あったよQRコード! いやいや、グリップの模様に擬態とか何の意味があるのさっ!?」


 ともあれ、見つかったからには読むしかない。


「あの地下室にパソコンがあるのか……」


 ならば。


「あれをこーして、んでもって、設定を変えーの、文言を変更して……ううっ、人手が欲しい……」


 そして五分後。


「よっしゃ出来たっ!? 僕ってば大天才! ――って、もうフィリア達が来てるっ! いや、来るよねそりゃ。んじゃあぶっつけ本番スタート!! あとは野となれ山となれっ!」


 英雄がノリノリでエンターキーを押したその頃、体育館に入れず立ち往生しているフィリア達は。


「ダメでゴザルっ! 裏口もシャッターが降りてるニャ!」


「窓も換気口も全滅だ、蟻一匹すら入れねぇよ。どうする這寄?」


「むむむっ、英雄めぇ何時の間にこんな設備をっ!!」


「いえフィリア先輩……流石に英雄センパイでもこんな大がかりな装置を……。というか皆さん? 英雄センパイを孤立させて追いつめるなんて何してるんですかっ!! 一番やっちゃいけないパターンじゃないですかっ!! ニトロもブレーキも無い状態の英雄センパイが一番厄介なんですからねっ!!」


「すまんでゴザル、マイシスター」


「いや愛衣ちゃん、ニトロ付いた英雄もヤバイんじゃねぇかな?」


「何言ってるんです天魔くん、ニトロ、即ち誰かが側に居るだけで、あの人はより安全なルートに行くんですからっ!! ちゃんと聞いてるんですかフィリア先輩!!」


「む、むぅ……聞いている」


 合流して事態を把握するなり、プンスカ怒り始めた愛衣に三人はタジタジ。

 然もあらん。

 フィリア達も悪手を打ったと思っているのだ。


「お説教は後だ、問題はどうやって中に入るかだが――」


『ぴんぽんぱんぽーん、体育館の中からこんばんわ、おはようかな? みんなのアイドル脇部英雄くんからお願いがありまーす』


「よしスルーだみんな」


「でおじゃるな」


「英雄のペースにこれ以上乗ったらなぁ」


『結論から言います、――ごめんね? 爆発の件はマジでした。いやー、僕も正直半信半疑だったんだけどさぁ、確かめてみたらマジで爆薬があるんでやんの! 笑っちゃうよね!』


「…………これ、無視したら駄目なヤツじゃないですか? ちょっと声が震えてません?」


『僕も解除しようとしてるんだけどさ、絶賛トラップに拘束中です、その証拠に体育館に入れないでしょ? というか誰か聞いてるよね?』


「どうするでおじゃ?」


「私としては無視したい、したいがなぁ……」


『ちなみに、あと一時間ぐらいで爆発するから。チョコのバリケード作って何とかするか、腕一本犠牲にする覚悟で何とかするか迷ってるんだけど、まぁそれはいいや』


 困った様に、そして涙の混じる声に、フィリアを始めに全員が動揺して。


『この放送を聞いているだれか、どうか這寄フィリアさんに伝えてください。――僕は君を愛していたと、そしてココが重要なんだけど。…………爆発は体育館だけで済むらしいから、通報しないで欲しい。この事が外にバレたら、廃校になっちゃうから』


 沈黙が支配した、嘘だ、演技だ、そんな声も上がったが。

 彼らはほぼ徹夜ではしゃいで、肉体と精神共に、限界が近い状態。

 ――それは、真実として浸透する。


『それからさ、校長センセは責めないで欲しい。校長センセは男のロマンと、ちょっと秋の文化祭でエンジョイしたかったんだ。――いやまぁ、それで体育館に閉じこめられた挙げ句、僕も爆死とか、フィリアは怒りそうだけど』


「う、ううっ、ひ、英雄殿~~~~!!」


「くそっ、英雄っ!! 英雄っ! 俺らは何も出来ないのかっ!!」


「わ、私はっ、英雄っ! ぬおおおおおおおおっ! 今助けに行くぞ英雄!!」


「団長!」「脇部くん!」「俺たちで脇部を救うんだっ!!」「団長を救出するぞ!!」


「(はいはーい、こちら愛衣ちゃん。良い感じに煽動出来てますよー)」


「(こちら脇部くんチの英雄くん、もう一押し欲しいな、お願い出来る?)」


「(りょーかーい、この愛衣ちゃんにお任せあれっ!)」


 つまりはそういう事だった。

 英雄が体育館に帰還した時、入り口で待ち受けていたのは愛衣。

 天魔のキスとハグで満足した彼女は、英雄に協力を申し出て。


(いやぁ、ロダン義兄さんとスマホを取り替えておいて正解だったね! そうじゃなきゃ、詰んでたかも)


 残念ながら義兄のスマホには這寄家従者部隊の連絡先が無かったので、そちらへのアプローチは出来なかったが。


「(そうそう愛衣ちゃん)」


「(なんです?)」


「(フィリアのスマホを盗むか、茉莉センセに聞いて、未来さんの電話番号を教えて欲しいんだ)」


「(未来さんって、あのメイドさんですね! わっかりました! その代わり、バレンタインに天魔くんと……)」


「(この作戦が成功したら、みんなそうなるさ! ――なんでマジでよろしくね? 爆破はともかく、出られないのはマジだから)」


 メッセージの遣り取りを終えた愛衣は、ゲシゲシと鉄扉を蹴破ろうとするフィリアに近づいて。


「くのっ! くのっ!! たかが扉の癖にっ! 校長めっ! なんてモノを作るんだっ!!」


「落ち着いてくださいフィリア先輩」


「これが落ち着いていられるかっ! 学校が廃校はともかく、体育館が爆破も一歩譲って良いとして! 英雄がピンチなんだぞ! ちょっと嘘くさいけど、この這寄フィリアが英雄のピンチを救えなくて何が人生かっ!!」


「どうどう、だから落ち着いてくださいって。――ほら、見てください? 先輩の後ろにはみんなが居るんですよ?」


「――――…………う、む?」


「何か妙案があるでゴザルか愛衣?」


「勿体ぶらずに言ってくれよ愛衣ちゃん」


「んー、わたしが言っても良いんですけどね。その役目じゃないかなって」


 愛衣はフィリアを見つめ、英雄の恋人は深呼吸を一つ。


「……すまない、確かに冷静ではなかった」


「じゃあ、もう分かりますね? フィリア先輩の、フィリア先輩しか出来ない事が」


「うむ、勿論だ」


 すると彼女は集まった騎士団、同盟へと振り返り。


「――――聞いてくれ皆、英雄を救出する!!」


 朝日が差し込む中、フィリアはそう宣言した。


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