第112話 チョコ一番の大勝負
英雄とロダンのもたらした情報に、騎士団は動揺した。
何しろバレンタイン当日は明日。
つまり残り二日間でこれを奪取し、守りきらなければならない訳で。
午前の中休み、美術室で緊急幹部会議開かれていた。
「――さて、状況は切迫してる訳だけど。何か案はあるかい?」
「おい英雄、随分と暢気だな? そう言うお前は案があるのかよ」
「そこは団長って言って天魔?」
「おい英雄……」
「あ、うん、そんな場合じゃなかったね」
「こんなに大量となると、奪って運ぶには時間も人手もかなり必要だ。アタシとしては、車持ちでサポートするぐらいしか出来ねぇぞ」
「あの部屋に続く通路は狭いからねぇ、しかもある意味、本拠地だ。見つかったら即座に妨害が入るとボクは思う、正直お手上げさ」
頭を抱える茉莉とロダン、そして天魔も渋い顔をして。
「俺からも言うとな、……これ、絶対に罠だぜ」
「やっぱり? 何か証拠が出てきたんだね天魔」
「お前の言うとおり、こっちでも確認してみたけどな。――団員の恋人の多くに、その情報が流れてた」
「うーん、それは嫌な予感しかしないなぁ……」
「暢気に言ってる場合か脇部? ノコノコ奪いに言ったら大勢待ち受けてるパターンじゃねぇかっ!!」
「けどセンセ、奪わなきゃ僕らが騎士団を立ち上げた意味が無くなるよ」
「…………もしかして英雄くん、何か手を打ってるね? だからそんなに余裕なんでしょ」
「英雄?」「脇部?」
訝しむロダンの発言に、天魔と茉莉はぎょろりと睨んで。
「そんな怖い顔しないでよ」
「おい、何か手を打ってるなら早く言えっつーんだ。わざわざアタシらが集まる意味あったのか?」
「そうだぞ英雄、何故集まったんだ」
「それは簡単な話さ、――この部屋、盗聴されてるでしょ?」
「え、そうなの英雄くんっ!?」
「いえ、ロダン義兄さんは気づいて? どうせ義姉さんあたりの仕業なんだし」
「盗聴されてて何で集まるんだ脇部、不利になるだけじゃねぇのか?」
「ふふふふ……その理由はたった一つ! 聞きたい? 聞きたいよねっ!!」
「勿体ぶらずに早く言え」
「ノリが悪いなぁ天魔、じゃあ一つ目。……こっちが気づいている事を向こうに知らせる為さ、僕の勘じゃあこれが最終決戦か、それに繋がる重要な場面だからね」
「なるほど、盗聴を逆手に取るのか」
「そう言う事さロダン義兄さん、まあ念を入れて予告状を出すつもりだけど」
すると英雄はスマホに文章を打ち込んで三人に送る、彼らは頷いて。
「――へへっ、わかったぜ英雄。派手にぶちかまそうじゃねぇかっ! 同盟と決戦だっ!!」
「了解したぜ脇部、手筈通りに動いてみせる」
「オッケー英雄くん、総力戦って感じだねっ! 予告状は今すぐ作って送っておくよ!」
「じゃあ放課後、日が沈む直前に僕のアパートに全員集合だっ!!」
一方その頃、生徒指導室に陣取っていたフィリア達は。
「――聞いていたな?」
「ああ、ばっちりでおじゃっ!」
「小僧め、此方を防御側にセッティングしおったな?」
「これは油断できない状況ですね、すぐに動きましょうフィリア先輩っ!」
「よし! ではこれより同盟も動くぞっ!!」
校内も外も、にわかに慌ただしくなって。
――そして放課後、正確には夕方の日が落ちる前。
英雄達のアパートの敷地内は何人もの同盟員が警備に。
その周囲百メートルに渡り、道の角には二人組が配置されて。
「…………予告の時間まで、あと三十分ぐらいか。本当に来ると思うか我が妹よ?」
「来るでしょう正面から、しかしそれはフェイク。英雄なら必ず絡め手を使ってきます、どんな予想外の奇襲も想定していなければ」
「ああ、その為に校内外から多くの人員を動員しているのだ。幾ら策を及ぼそうともチョコはアパートの地下だ」
「確かに。あの物量ならば、騎士団も数を使わなければ奪うのは無理でしょう……」
姉妹が警戒を高めるその直後だった。
「火事ですっ!! アパートがっ! 地下から煙がっ!!」
「何だとっ!? ――げほっ、げほっ、煙の回りが早いっ!? まさか――モガモガモガ~~っ!?」
「落ち着けっ! これは罠――ムガムガムガ~~っ!?」
視界を遮る程の煙、姉妹の口は塞がれ両手を後ろに拘束されて転がされて。
「(はーい、こちら団長! 頭の無力化に成功!)」
「(こちらフィギュア、同じく成功!)」
「(アタシも馬鹿男を無力化!)」
「(団長! あと三十秒で消防車が到着、道路の封鎖が完了します!)」
「(じゃあ作戦は次の段階だっ! チョコを軽トラに運び出せっ!!)」
「「「ラジャー!!」」」
つまる所、掟破りの奇襲であった。
消防と警察、そして周囲の家には火災訓練を根回し。
OBの手により、県外から廃棄予定の消防車を。
そして、バレンタイン同盟に紛れて英雄以下多数の人員が女装して潜入。
(玄関に発煙筒、庭にお手製スモークグレネードってね。科学部部長とサバゲ部部長には感謝しなきゃね!)
「(おい英雄っ! そろそろ煙が晴れる! 撤収の準備だっ!)」
「(コードネームで……って言ってる時じゃないか、了解!)」
「(待ってくれ英雄君、予想より量が多い、それに通路が狭くてまだ時間がかかる!)」
「(早くしてくれっ! 外では封鎖を突破したヤツが出てきたっ! 消防団員に偽装したOB達だけじゃ押さえきれないっ!! アタシの軽トラが出発できなくなる!)」
「(――――分かった、僕が時間を稼ぐ。軽トラの脱出路と、荷物の搬入ルートの保持に絞って団員達を動かしてっ!)」
同盟は大人数を動員した故に出来た隙、可能となった奇襲。
だが人が大勢いると言うことは、乱闘に発展するリスクが大きくなるという事だ。
(だから僕たちは必要最低限でなくちゃいけない、――けど、この状況はキツいな)
それ故、せっかく無力化したフィリアとローズも放置。
今では、薄い煙越しに立ち上がる所が見える始末だ。
少しでも時間を稼ぐ為、英雄は顔を覆っていた包帯を外し話しかける。
「やあやあバレンタイン同盟のみんな、僕からのサプライズプレゼントは如何だった?」
「――ゲホっ、ゲホっ、…………やってくれたな小僧ッ!!」
「奇襲とは卑怯なっ! しかも消防車まで持ち出してっ!! 本当にアパートは燃えてないんだろうなっ!!」
「大丈夫さ、このアパートには純粋無垢なイケメン脇部英雄と這寄フィリアが住んでるからね。煙はあくまで偽装さ」
「おい英雄? 私の目から見ればイケメンだが、世間の物差しに照らし合わせると、雰囲気イケメンが関の山だぞ?」
「あれっ? ヒドくないそれっ!?」
「まぁ、私のロダン並のイケメンはそう居ないからな、どんどんガッカリしろ小僧」
「確かにロダン義兄さんはイケメンだけどっ! 僕の味方がいないっ!?」
「いや、敵の真っ直中に奇襲をかけて。しかもお前以外はチョコを運びだしてる最中ではないか、――愛衣っ! 何を手間取ってる!」
「無茶言わないでくださいよフィリア先輩っ! ああもうっ! か弱い女の子に三人がかりなんてっ!!」
「ま、こっちの作戦勝ちって所かな? 所でお二人は加勢しなくて良いの?」
「馬鹿を言うな英雄、君をフリーにさせる訳にはいかないだろう」
「フン、分かってるのだぞ。騎士団はお前さえ潰せば、後は烏合の衆、チョコはくれてやるがオマエは逃がさん」
ジリジリと距離を詰める姉妹に、英雄も警戒しながら距離を保って。
「烏合の衆ってヒドくない? 僕が捕まってもロダンさんが居るじゃん」
「残念だがロダンは単独行動こそ輝く人材なのでな、人を率いるには少し足りん」
「その辺りをローズ義姉さんが受け持つと、いやー、良い夫婦だねぇ」
「ふふん、もっと誉めるが良い!!」
「もう一つ言うと、僕が捕まっても天魔が居る。騎士団は安泰だよ」
「そうですか? 天魔くんって小隊長って感じで軍を率いるのには適してないって思いますけど、――てやっ!! 護衛戦力削りきりましたっ! 後はセンパイだけですよっ!!」
「だ、そうだぞ英雄。さあそろそろ観念したらどうだ?」
「それ以上下がれまい小僧、もう塀だ」
「うーん、万事休すって所かな?」
膝をつく搬出ルート護衛の団員、塀の外には消防車の壁を突破した同盟員達が集まり始め。
しかして、英雄は余裕の笑み。
「――妙だぞ姉さん、英雄に余裕がありすぎるっ!」
「ッ!? 全員警戒しろっ! 何を企んでいる小僧っ!」
「企むなんて心外だなぁ、僕は僕らの限界を知ってる、だから…………」
上を見上げる英雄、フィリア達も上を見上げるとそこには梯子を垂らしているヘリコプター。
「そこまでするのかっ!? というかアレはウチのヘリじゃないかっ!」
「貴様っ!? いつの間にウチの従業員を手懐けたっ!?」
「――――這寄家・執事メイド部隊、アッセンブル!!」
「ご当主様、奥方様の命により! 我ら一同、お嬢様方の敵に回りますっ! 主人を諫めるのも従者の役目ですっ!!」
「未来っ、裏切ったなっ!!」
特殊部隊のようにヘリから、はたまた隣家から、アパートの空き部屋から。
メイドと執事達がわらわらと出てきて。
「ふはははははっ! ではバレンタイン当日を楽しみにしてるよっ! アデュー!」
「くそっ、何時だっ! 何時から裏切った未来っ!」
「裏切りとは遺憾ですねフィリア様、そもそも我らは最初から、バレンタインで異変があれば奥方様から英雄様に協力する様に申し使っておりますれば」
「おのれ母上っ!! 次帰った時は父上とのイチャラブタイムを邪魔してやるからなっ!!」
そして英雄は未来達に足止めを任せてヘリへ、見下ろすと、彼らの助けにより荷物を乗せた軽トラも発進を始めていて。
(――――うん?)
それは一瞬の事だった、もしかしたら気のせいだったかもしれない。
フィリアと目があった瞬間、彼女が不敵に微笑んだのは。
ともあれ英雄達は、無事に学校の体育館にある騎士団本部まで帰還したのだった。
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