第109話 どっちのチョコでショー!(前)



 そして勝負当日、校庭にはキッチンが二セットとカメラが三台入って。

 騎士団と同盟の構成員達は、まるで運動会の様にそれぞれの陣営で固まって座り。

 開始前、団長もとい英雄と謎のフィリアっぽい美少女盟主は中央で談話。


「おい、おい騎士団長。君はどうやってコレを準備したっ!?」


「いやぁ、校長センセに校庭使用の申請書出しに行ったらさ。こんな事もあろうかと! って喜んで出してくれて。信じられる? ウチの料理部の備品なんだよ」


「この分だとまだまだ変な備品がありそうだな……、ではこの本格的なカメラは? OBにでも借りたか」


「いやそれがさぁ、名前は伏せるけど。大物Vチューバーが団員の中に居て」


「待て、何故Vの者が持っているのだ?」


「欲しい物リストに冗談で入れておいたら、貢がれちゃったんだって。家に置いても場所とるからって寄付してくれたんだ。いやー、世の中って広いねぇ」


「この学校おかしくないか?」


「そう? 楽しければそれで良くない?」


「ああ、うん、今理由が分かった気がする」


「え、マジで!?」


「いや君は驚いてないで理解しろ?」


「おーいお二人さん、配信の準備が出来たってさ」


「とっとと位置に付くでおじゃ」


「了解さHD、栄一郎」


「今の拙者は栄一郎ではなく、謎の宇宙美少年でゴザル!!」


「はいはい謎の宇宙美少年、――これ長くない?」


「やっぱりそう思うでおじゃる?」


「お前までダベるな、さ、とっとと始めようぜ」


 そして騎士団側は英雄を中心に、右に天魔、左にロダンが。

 相対するは同盟、フィリアっぽい盟主を中心に、右に栄一郎っぽい誰か、左に愛衣っぽい誰かが。

 彼らの中心に、マイクを持った校長とローズが立って。


「では! これよりドッチのチョコでショー! の開始を宣言する! なお司会兼実況はこの校長が行わせて貰う! 若人よ青春たれっ!!」


「解説は私、這寄ローズが担当する。双方とも準備は良いか?」


「勿論さっ! 格の違いってヤツを思い知らせてやるね!」


「ふふっ、その軽口が何時まで続くか見物だな。――敗北の言い訳を考えておけよ?」


「両者戦意は十分だっ! ではルール説明をお願いするローズ君」


「了解した。この勝負は大きく分けて二つ。


 まずは料理勝負、私達が食べて味をお伝えしよう。


 そして次にアピール合戦だ、バレンタインに恋人へチョコを渡す演技をして貰う。


 最後にネット投票により勝者の陣営を決める」


「という訳で――――バレンタイン騎士団VSバレンタイン同盟! 恋人達の真の守護者はどちらだぁっ!! それではドッチのチョコでショー…………レディィィィ、ゴォーーーー!!」


 その瞬間、どちらの陣営もキッチンに走り。


「ところで校長、彼らは一からチョコ作りをするのですか? 物によっては数時間かかりますが」


「ぶっちゃけ、完成品はあるのじゃ」


「校長?」


「ひぃっ!? ローズ君は美人だから睨まないでおくれっ! 迫力がありすぎるのじゃ!」


「怖がってないで説明を、これではキッチンを用意した意味が無いのでは?」


「そこはホレ、キッチンの横にそれぞれシェフが立っておるじゃろ?」


「ええ、何の意味があるのですか?」


「アレは料理の腕を見てるのじゃ、彼らの判定により完成品のチョコか、試作段階で失敗したチョコになるかが決まるのじゃ」


「つまり、ゲーム形式の三分クッ○ング的なものだと」


「そう言うことじゃ、見てる方もダレるでな。チョコも最初から湯煎してあるぞ」


 校長とローズが説明を兼ねて場を繋いでる間に、彼らは慌ただしく動いて。

 然もあらん、いくら完成品を用意されていると言っても。

 あくまで、チョコを冷やし固める手間を省く為だけの措置だ。


「ふむ、本気の顔つきじゃのう。同盟は女性が中心だけあって、危うげの無い手つきじゃ」


「それに比べて、騎士団は男性が中心。手間取って……いるのは一人だけだな」


「最近の若者は男でも料理が上手いのか、時代じゃのう」


「それもあるかもしれませんが、情報によるとロダ――げふん、コードネーム・フィギュアは趣味が彫刻、そして普段から妻に手料理を振る舞う事が多いとなっています」


「ふむ、愛故に料理上手となったか」


「まさに、そう言う意味では愛に素直になれないと専らの噂である、コードネームHDの危うい手つきがが微笑ましく思えますね」


「ふぉふぉふぉ、青い青い。――しかし、団長は何をしておるのじゃ? 先ほどからジャガイモの皮を剥いているだけに思えるのじゃが。……ジャガイモだけに?」


「じゃがいもと、老人特有のわざとらしい語尾をかけた高度過ぎて理解不能なギャグですね」


「儂の事は解説せんといてっ!? オヤジギャグ解説するとか外道の所行じゃよっ!?」


「それにしても、何を作っているのでしょうね騎士団は。一人は良くある型に流し込むだけのチョコの様ですが、一人は固まりのチョコを彫刻刀で削り、一人はジャガイモを、予想が付きません」


「スルーされたっ!?」


「では、同盟の方を見てみましょうか」


「ぐすん、老人虐待ではないか?」


「良い老人ホームを紹介しますよ?」


「ええいっ! 同盟の方を見るのじゃ!」


 二人が同盟のキッチンに視線を向けると。


「――いや、ちょっと本気出し過ぎておらぬか?」


「ま、まぁそう言う事もあるでしょう」


 その不穏な物言いに、英雄達も同盟のキッチンを見て。


「ジャッジ、ジャッジー? 同盟のチョコはアリなのか!? なんかレストランにある豪華なチョコフォンデュあるぞっ!?」


「ウェディングケーキもかくやって感じの巨大チョコケーキもあるよね、しかもシェフが作ってないっ!?」


「大人げないっ!? ホント大人げないよっ!? 君ら金に任せてプロに頼んでるのっ!?」


 イチャモンと言うには正しすぎる指摘に、同盟側も黙ってはいない。


「はっ! 悪いがこれも勝負でおじゃっ! 使える物は何でも使うでおじゃっ! そうっ! 貯めに貯めたお年玉の使い時が今でゴザルっ!」


「味と見た目で勝負するなら、プロに任せるのが一番だ。金は自分の懐から出しているから問題あるまい」


「ふっふーん! 自分の手で作る、そうルールに記さなかったセンパイ達が悪いんですよーだ。そもそも世間一般のバレンタインでは、高級チョコを買って渡す人も多いじゃないですか。わたし達は間違ってません!」


 彼らの言い分に、校長とローズは顔を見合わせて。


「許可」「問題なし」


「マジでかっ!? ズルくないっ!?」


「それならボクも、もっとグレードアップ出来たのにっ!!」


「ぐぬぬっ、ルールの穴を突くとはっ! ――HD、フィギュア! 抗議より手を動かすんだっ! 愛があるのは僕らの方だって証明する為にっ!!」


「おう!」「わかった!」


 そして三十分後、全員の調理が終わり。

 校長とローズの前に並べられるチョコ。


「では騎士団の方から、ふぉっふぉっふぉっ、儂は団長のチョコが気になっておってなぁ」


「私はフィギュアのですね、――いや、まさか自分の姿をチョコを削って作るとは」


「しかし、色物ばかりでストレートなチョコとは。勇気あるのぅ。味は予想は付くが、頑張ったで賞を贈呈したい気持ちじゃ」


「誉めてるのですかそれ?」


「誉めてるのじゃよ、……では、儂は団長のから」


「なら私はこの普通のチョコを」


 二人がチョコを手に取ろうとした瞬間であった。

 その手首がガシっと掴まれ。


「め、盟主君? 食べられないのじゃが?」


「匿名希望・天魔くんラブ? 邪魔しないで欲しいのだが」


「~~~~っ! 駄目だっ! 駄目だ駄目だ駄目だっ!! そのチョコポテチは私のだっ! 食べる事など許さんっ!!」


「そうですっ! いくらローズ先生でもっ! そのチョコを食べる事は禁止っ! 禁止ですっ!」


 血の涙を流す美少女が二人、彼女達はチョコを奪って逃げて。


「このチョコは誰にも渡さんっ! 絶対にだっ! 悔しかったら捕まえてみろっ!!」


「そうですともっ! 世界でコレを食べて良いのはわたしだけですっ!! ひと欠片でも渡すものですかっ!!」


「――――はうぁっ!? す、スタッフーっ!? 二人を捕まえるのじゃっ!!」


「チョコは食わせても良いが、引きずってでも捕まえて来いっ!!」


 慌てる校長とローズ、残念美少女二人は客席を巻き込んで鬼ごっこ。

 英雄はぽかーんと見とれた後、ハッと気づいて。


「それじゃあゴメンねみんな、ちょっとだけCMタイムだ。――けど忘れないで、今のは僕らの愛の籠もったチョコの勝利だったって事をねっ!」


 そして、ドッチのチョコでショーは一時中断され。

 再開には十五分の時を要した。


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