第108話 急襲! バレンタイン同盟!
臨時会議を開いていた美術室は校舎の一階、外に繋がるありとあらゆる所。
扉、――外には包帯で顔を隠した生徒、主に女子達が大勢、数は正確に把握できない。
窓の外、ざっと三十人ぐらいは。
(犠牲を覚悟したら窓の外が突破しやすい、――けどそれは罠だね。とは言え、廊下が手薄って事は無いだろう。机でバリケードがあっても不思議じゃない)
つまり、極めてピンチである。
(事前に準備しておいて良かった……、ぽちっとな)
やれやれと、英雄はポケットに両手をズボン突っ込みリラックス。
――と見せかけて、右のポケットには画面を付けたままのスマホ、予め打ち込んでいた文章を送信。
「団長っ! 囲まれてんぞどうするっ!?」
「チッ、アタシが活路を開く、着いて――」
「――まあまあ、落ち着きなよみんな」
「団長っ!? そんな場合で……いや、成程。キミがそう言うならボクらもそうするべきだね」
「ありがとフィギュア。じゃあみんな、気を抜かずにリラックスしててね」
「ほう、随分と余裕だな団長とやら。君がこの珍妙な集団の長と見受ける、間違いは無いな?」
「間違いないとも、僕こそがバレンタイン騎士団の団長さ! それで? 包帯だらけの君達は何者だい? それだけ怪我人が多ければ、保健室じゃ間に合わないだろう。病院に行くか救急車を呼ぶ事をオススメするよ」
「ふむ、ご心配ありがとう。だが我らの包帯は心の傷の証、恋人に裏切られ傷ついた者達の抗議と結束の証だ」
「恋人に裏切られた? それはご愁傷様、でも分からないな、何故、僕たちの集まりに乱入するのかい? ――ああ、君達もバレンタイン中止に賛成してくれると?」
「はっ! 馬鹿も休み休み言って欲しいものだな。良く聞けバレンタイン騎士団」
包帯女達の首魁と見られる金髪ポニテ巨乳のフィリアっぽい声の女は、ズビシッと英雄に人差し指を突きつけ。
同時に、周囲の包帯女達も同じく指さして。
「我ら! バレンタイン同盟!! 恋人達の聖なる日を邪魔しようとする不届きな集団、バレンタイン騎士団を滅する為に集った哀しき愛の戦士なりっ!!」
「精神病院行ったらどう? 付き添いぐらいはするよ?」
「本気で言ってるなら、問答無用で今すぐ天誅を下すが?」
「うーん、物騒だねぇ。僕の恋人とは大違いだ、ねえ同盟の……」
「盟主、そう呼ぶがよい」
「じゃあ盟主さん、そんなチクチクしてると恋人出来ないよ? ああ、裏切られたんだっけゴメン。そんなんだから裏切られたんだね」
「ほ、ほう? 言うではないか団長とやら。生憎と私の恋人は貴様の様な顔を隠してコソコソと、バレンタイン中止を企むような愚か者ではなくてな。それはもう良い男なのだ」
「そう? ありがと」
「誰も貴様の事は言ってない」
「確かにそうだった、でもその良い男さんとやらに裏切られたから君はそこに居るんじゃない?」
「ああ、だからこそ。貴様等の卑劣な企むはここで潰す」
彼女は右手をスッと上げ、同盟員達は拳を握りファイティングポーズ。
或いは縄も持ち、さすまたを持ち、椅子を持ち。
騎士団の者達も応戦体制を取るが。
「――良いのかな? 暴力的な手段で解決して」
「何だと?」
すると英雄は会議前に設置した箱の前に、その外装を取り払って。
「なっ!? カメラだとっ!?」
「聞けぇ! 全校生徒達よっ!! 同盟を名乗る者達はあろう事か僕らにスパイを送り込み! 罪のない我が同胞を脅迫し! 僕らを罠にかけたっ! そして今、暴力という手段で何の罪もない僕らを攻撃しようとしているっ!」
「くっ、おいカメラを止め――」
「――団長の邪魔はさせねぇよ」
HDが、カーニバルが、フィギュアが、団員達が両手を広げて前に。
団長と盟主を囲むように、同盟員達を牽制する。
「私を人質に取ったつもりか? 貴様こそ卑怯者ではないか」
「まさか、対話の余地を作っただけさ」
「ではカメラを回し続ける理由は? それだってブラフだろう」
「そう思う? じゃあこれを見てる者達っ! バレンタイン騎士団サイコーって叫んでよ!!」
その直後。
「「「バレンタイン騎士団サイコーっ!!」」」
校内から男七割、女三割の声が上がり。
「いったい何時からだっ!? 何時から放送していたっ!?」
「答える義務はないけど、まあ直ぐに分かる事だからね。君達が入ってきた直後だよ」
「我らの作戦がバレていたと? はっ! 貴様こそスパイを送り込んでいたのではないか?」
「君達じゃあるまいし、そんな事はしないさ。僕らは矜持を持った騎士団だからね。スパイと裏切りが発覚した時点でこうなる事を予想してたってだけさ。――ホント残念だよ」
「ほう? 我らの襲撃を読んでいたと?」
「ついでに言うと、包囲される可能性もね」
「だが何故、こんなやり方なのだ? そこまで思いついていたなら、場所を偽装するぐらいは出来ただろう」
「ふっ、それだから君達は恋人から反感をくらうのさ」
「何だとっ!?」
「ああ、ごめん。真実で君達を傷つけてしまった」
「……どこまでも我らを愚弄するかっ!!」
拳を握りしめるフィリアに似た盟主に、英雄は右手を差し伸べて。
「提案しよう、正々堂々と決着を付けないか?」
「何が目的だ」
「簡単な話さ、僕らはバレンタインを中止したい。そして僕らを敵視する君たちはバレンタインを守りたいんだろう? なら、君達が僕らの敵足り得るか。それを見定めてやろうって事さ」
「まるで我らが貴様等のような珍妙な集団に、手も足も出ないと言っている様だな?」
「そう言ったんだけど分からなかった? ああ、卑怯な手段を使って、暴力まで振るうんだものね。ごめんよ、もっと簡単に言うべきだった」
「安い挑発だな、そんな事で我らが勝負を受けるとでも?」
「いいや、君達は受けるしか選択肢はないよ」
「ふむ、続けろ」
「では問おう、今この場で僕らを捕まえたとして。……果たしてどうなると思う?」
「我らはバレンタインを取り戻し万々歳だな」
「心の底からそう考えているなら、愚かだとしか言いようがないな」
「では、どうなると言うんだ」
「――――本当の戦争が起こる」
「本当の戦争?」
「僕らの仲間は、この学校の中だけじゃない。……この地域全部の恋人を持つ者が賛同者であり、騎士団員だ」
「だがその者の恋人は、私たちの味方。或いは味方になるだろうよ」
「だからさ、――例え僕らを捕まえたとしても、僕らの意志は彼らに残る。ね、想像してみて? 人として正しい事を望んだ僕らが、望んだ相手から暴力を振るわれて捕らえられる光景を見せられた彼らは、どう思うかな? どう行動するかな?」
「貴様っ!? そこまで考えてカメラをっ!? いやっ、この学校内だけじゃないのかっ!?」
「この映像は、この地域全域に、特に学校外の団員のスマホには直接配信されているんだ」
英雄は勝ち誇って言った。
「さて、暴力で決着を付けるかい?」
「――チッ、これが選択肢など無いという意味か」
「ではもう一度言おう、僕らと勝負しよう」
「…………内容は」
「バレンタインに送るチョコ対決、場所は明日、この学校の校庭で。代表者三名、もちろん今と同じように動画を配信する」
「視聴者投票で決着を付けると?」
「そうだ、――ああ。降参は今からでも受け付けるよ」
「冗談を抜かせ、しかし私達が勝った場合は貴様達はフザケた活動を即刻止めて解散しろ」
「良いよ、じゃあ僕らが勝ったら君達は誓え。…………料理に食材以外は絶対に入れないって」
二人は睨み合って。
「――撤収するっ! 明日の対決に向けて会議だっ! チョコと調理器具の手配も急げっ!!」
「僕らも動くぞっ! 幹部と部隊長はそのまま残ってくれっ! あ、みんな見てくれてありがとうっ! じゃあ、また明日ね! 団員達には後で指令を送るから見逃さないでっ!」
フィリア……、に似た盟主達は去り。
英雄は撮影を止めつつ、話し合いを始めた。
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