第107話 ダブルクロス



 騎士団結成から、三日目の昼休みの事だった。

 体育館の倉庫に英雄は一人で。

 彼は扉に手をかけてストップ、思い出したようにプロレスラーの様な覆面を被り。


「やあ、待たせたねみんな!」


「おっせーぞ英雄」


「悪い悪い、抜け出すのに手間取っちゃって。それから今の僕は団長と言ってよHD」


「そのダッサイコードネーム変えたいんだけど?」


「でもカッコ付けて、チェスの駒で呼んだらみんな混乱したじゃんか」


「HD、団長、そこまでにしよう。部隊長は皆、集まってるよ」


「だな、昼休みとはいえアタシらだって何時までも、ここに居られる訳じゃない」


「了解だよフィギュア、カーニバル」


 英雄を出迎えたのは幹部のHD、――天魔。

 そしてフィギュア――ロダン。カーニバル――茉莉であった。

 組織図としては、彼らの部下が配置され。

 それぞれF1、F2と言うようにコードネームが割り振られて。

 体育館の倉庫の中、明かりも付けずに皆それぞれ、思い思いの覆面を被っている。


「じゃあ早速報告を頼む、――ええと、HBだっけ担当は」


「はっ! HBでゴザ――ごっほん! 通称えんぴつ、此処におります!」


「それじゃ頼むよ」


 聞き覚えのある声が、と疑問が沸いたが英雄は流して。

 鉛筆をイメージしたHBの覆面も、背の高さも、特に変わった所が無かったからだ。


「ご存じの通り、レシピ崩し作戦は多数の被害は出たものの成功に終わりました」


「サイトのデータは消したって言ってたな、物理消去したか?」


「徹底してるでお――いえ、完了したようです」


「だよね、あんなもの後世に残すもんじゃない。というかHD? マジで考えて作って? あれの所為で大ピンチだったんだからね?」


「仕方ないだろっ!? つかお前もゴーサインだしたじゃねぇかっ?」


「まあまあ、HDと団長だけの所為じゃないよ。あの時は誰もが疲れてて思考力が低下してたからね」


「もうあんな事態はゴメンだ、――で? 協力者は何処まで集まった?」


「少々お待ちを、……ええと、嘘だろっ!? なんで国の大臣が協力してんだよっ!?」


「え、どうやったんだい英雄くん?」


「団長って言ってフィギュア、そしてそれは簡単な話しさ、ウチのOBに居るんだよね何故か…………いや、ホントどうなってるのウチの学校。偏差値そこまで高くないのに、ピンポイントでそういう人材いるよね」


「それ俺は何となく分かるぞ」


「聞かせてよHD」


「お前の言葉を借りるなら簡単な話だ。――先輩たちもさ、俺らと同じように立ち向かったんだ。そんで対抗する手段として…………泣ける話じゃねぇかっ!」


「くっ、つまり僕たちの行動には。かつて敗北した、或いは今も戦い続けている愛戦士達の思いがっ!」


「いや団長、教師としては喜んで良いのか分からねぇんだが?」


「今は教師じゃないでしょカーニバル、まあ協力者の件は分かった、団員は何処まで増加してるんだい?」


 質問されたHBは、スマホに視線を落とし。


「そっちについては……、はぁっ!? 男子の殆どが加入してるっ!? しかもこの地域に済んでる男もかなりの数がっ!? 何考えてるんだ英雄殿っ!? ガチもガチでおじゃっ!? 戦争する気でゴザルっ!?」


「…………おじゃ?」


「ゴザル?」


「英雄殿?」


 その瞬間、時は止まって。

 誰もがHBを睨む。

 間違いない、この男はこの場に居てはいけない男。

 いる筈の無い男。


「スパイが出たぞっ!? みんな捕まえてくれっ!!」


「テメェ栄一郎っ!! 本物のHBは何処に行ったっ!」


「逃げられないよ机くんっ! 君にはバレンタインまで――ぐわっ!?」


「おい脇部っ! もう一人スパイだっ! 裏切り者かもしれねぇぞっ!!」


「カーニバルはそっち頼んだっ! 僕は栄一郎の――――覆面取ったぁっ!! もう観念しろ栄一郎っ!」


「プランB! プランBでおじゃっ!!」


「――っ!? グレードっ!! みんな伏せるんだっ!! ここはボクが犠牲にっ!」


「ロダンさーーーーんっ!? ――ゲホっ、ゲホっ、しまったスモークグレネードだっ!! 扉と窓を開けるよっ!!」


「何が戦争するつもりかだっ!! お前こそガチで戦争するつもりじゃねーかっ!! ゴホッ、ゴホッ!」


 煙が晴れると、そこには栄一郎の姿は無く。

 裏切り者と思しき団員が、茉莉に取り押さえられていて。


「どうする英雄」


「取りあえず場所を移す、事情を聞くのはそれからだね」


「幹部だけじゃなくて、部隊長も収拾をかけようぜ」


「じゃあ倉庫とかじゃなく、空き教室の方が良いね。……うん、美術室にしよう。次の時間では使わないから多少話しが長引いても大丈夫だ」


「そんならバラバラになって行くぞ、アタシと天魔は裏切り者を連れて行く、脇部とロダン先生は少し時間を置いてから来てくれ」


 そして彼らは行動を開始して、英雄はロダンを見送りながら思考を巡らせた。

 栄一郎の侵入、裏切り者の出現。

 嫌な予感しかしない。


(場所を移さない方が良かったかな? いやでも、煙出ちゃったしなぁ、後手に回ってる気がするっ!! 誰が仕組んだか分かんないけど、絶対こっちの行動読まれてるよっ!!)


 組織の結束を保つには、集合して話し合わなければならない。

 だが、こんな急にでは後を付けられ、覗き見などにより構成員や作戦の情報が漏れる可能性が高い。


(読み切るんだっ! 敵は誰だと仮定する? フィリアかローズ義姉さんだっ! 最悪の場合も考えなくては、逃走ルートの確保、今からじゃ駄目だ中止にでもしない限り逃げきれない)


 ならば、逆転の発想だ。

 英雄はスマホで時間を確認して、体育館の倉庫から歩き出す。


「――ああ、天魔? 僕だよ、ちょっと遅れるから。全員に覆面とコードネームと徹底させて、これも作戦だから。…………よし、後は」


 新たに電話をかけ指示を出しながら、英雄は美術室へ。

 そして。


「みんな、揃ってるね?」


「おう、ばっちりだ。流石に学校外の奴らは来れなかったが、校内の幹部と部隊長クラスは勢ぞろいだ」


「っていうか団長くん、何してたの? この段ボールって何だい?」


「もしもの時の為の仕掛けって感じ? 杞憂で終われば良いんだけど」


「嘘発見器でも持ち込んでたのか? 風紀委員が五月蠅いぞ団長、他の先生方からクレーム言われるのコッチなんだから、ちっとは手加減しろよ」


「大丈夫さカーニバル、これは学校の備品だから。――さ、異端審問を始めようか」


 美術室の中央には、演劇部の部室から持ち出した書き割りの木に裏切り者が縛られていて。

 それを取り囲む幹部、幹部の後ろには部隊長達が。

 英雄は代表して、裏切り者の前に陣取り。


「単刀直入に聞こう、何で裏切ったんだい? 共に愛を貫こうって誓ったじゃないか? それは嘘だったのかい?」


「う、ううっ、団長……。すみません、仕方なかったんです……。オレは、オレはっ!」


「仕方なかった? そう簡単に言われてもねぇ」


「ホントに仕方なかったんですっ! 俺っ、俺っ、彼女にエッチな事を全部管理されててっ! それを彼女から聞いた栄一郎の野郎がっ! 協力したら貞操帯の鍵をくれるってっ!!」


「んー、みんなジャッジを」


「有罪」「無罪」「無罪」「有罪」「無罪」「情状酌量の余地あり」


「けっこう無罪多いね、確かに僕としても気持ちは分かる。――――すまないね、これは僕のミスだ」


「そんな団長っ! これは俺の心が弱かったからっ!!」


 涙声の裏切り者に、英雄は縄を緩めて抱きしめる。


「みんなも聞いてくれっ! 僕は無罪にしようと思うっ! 反対意見はあるか!」


「…………俺としては有罪でも良いと思うけどな。だが裏切った理由には納得しちまった、同情も覚えちまったっ! 幹部HDとして、俺は許すぜ」


「同じく、うう、辛かったね。気持ちは良く分かる、だからボクも許すよ」


「ったく、これだから愛が重い奴らは……。アタシも勿論許す、他の奴らも同じだと思うぜ」


 するとカーニバルに賛同するように、部隊長達も次々と。


「しゃーねぇ」「お前も苦労したんだなぁ」「いや、鍵を複製すればイケルべ、俺はそうした」「お前もっ!? いや、誰でも出来る事じゃねぇから」「チ○コを人質に取られてたとはっ!!」「許すまじっ!!」


「そう言うことだ、君の罪は許すよ。でも諜報班からは離れてもらう。それで良いかい?」


「温情、感謝するぜ団長っ! 俺、これが終わってもアンタに一生付いていくっ! だから彼女との戦い方を教えてくれっ!!」


「勿論さっ! みんなも一緒に戦うんだっ! 一緒に知恵を出し合おうっ!」


「ああ、そうだぜHB一緒に頑張るんだ! 今回の事は残念だったが誰にも起きる可能性があった。――しかしどうする団長」


「今回の問題を繰り返させない、その為にはどうするかって事だねHD」


「ボクからの提案としては、彼女の股間や胃袋などを掴まれてる人は、申し出て貰うしか無いと思ってる」


「アタシから付け加えるなら、その問題を解決する班を新たに作るべきだ」


「よしそうしよう、予定ではもう団員が集まってから精鋭を選んで作るつもりだったけど。もうこの場でトラブルバスター班を作ろうじゃないか!」


「よっし、部隊長達はこれぞって人材を上げてけ! 必ずコードネームで呼べよっ!」


「団長、アタシがトラブルバスター班を率いる。それで良いな?」


「分かった、任せたよカーニバル!」


「じゃあボクの所にトラブルの情報は一括して――」


 集まった団員達が慌ただしく動き出して。

 その瞬間であった、美術室の扉と窓が全て開いて。


「全員動くなっ! 貴様等は完全に包囲されているっ!」


「しまったっ!? その声はフィリ――…………いや、誰っ!?」


 そこに居たのは、顔を包帯で巻いた女子達だった。


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