第63話 トーキング・(ス)トーキング
フィリアのスケールフィギュアは、是が非でも入手したい所だったが、そうは問屋が下ろさない。
もといフィリアが許さない。
英雄としては、自分のフィギュアと引き替えならワンチャンある? と思ったが。
ともあれ、フィリアの部屋である。
「まったく、ロダン義兄さんもすっかり姉さんに染まって……、英雄も英雄だ! あんなもの欲しがるな!」
「えー、だってフィリアのフィギュアだよ? まあいいや、それでココがフィリアの部屋?」
「ああ、この扉の中がそうだ」
「…………予想はしてたけど、君んチってば高級ホテルみたいだね。家の廊下に赤い絨毯なんて始めてみたよ。今更だけど、靴のままで良かったの?」
「この屋敷は、欧米育ちの母の希望でな」
「あー、英国育ちのハリウッド女優とか言ってたっけ?」
「うむ、覚えていてくれてうれしいぞ」
「フィリアの家族の事だからね、じゃあそろそろ部屋に入って良い? さっきからトキメキが止まらないんだけど」
「中に入っても、面白い物は無いと思うがな。――ではどうぞ!」
「おっ邪魔しまーす! ひゃっほうフィリアの部屋だ――…………、ごめん、間違えた」
「待て、なぜ回れ右をする?」
「念のために聞くけどさ、……この部屋ってご家族の誰か入った事ってある?」
「一番入り浸っていたのは姉さんだな、母と父は必要な時に」
「参考までに聞くけど、変な顔しなかった?」
「不思議な事を聞くな? ――そうだな、姉は必ず舌打ちをしていた、母は流石我が子ねと、父は一度だけだが神妙な顔をして、血は争えないと。ああロダン義兄さんは涙を流していた気がする」
「それだよねっ!? 僕が義姉さんからのアタリが強かったのそれだよねっ!? というか義母さん何なのさっ!? ロダン義兄さんと義父さんとは超絶仲良く出来そうな気がするよ!!」
「未来と同じ事を言うのだな、さあ、入れ。話は中に入ってゆっくりしよう」
「未来さんってば知ってたねっ!? 知ってて黙ってたねっ!? チクショウ! 女の子の部屋への幻想がっ! 始めて女の子の部屋入るのにっ!?」
英雄の悲鳴も然もあらん。
普通の精神をしているなら、回れ右どころか逃げ出しているというものだ。
何せフィリアの部屋には、小学校どころか幼い頃の、そして中学卒業までの英雄の写真が壁どころか天井まで張られていて。
大きく引き延ばされた物には、隣に当時のフィリアが合成されている始末。
「どうだ英雄、私の部屋は!」
「胸を張って言わないでよっ!? 言っておくけどフィリア? 僕、君からいくら求められてもこの部屋じゃセックスしないからね」
「私としても、実家でセックスするつもりは無いが。その言葉には傷つくぞ」
「それ僕の台詞だよね? というか、僕怒っても良い所だよねコレ? ちょっと五分じかんくれたら、散らかしちゃうけど問題を解決するんだけど?」
「具体的には?」
「この部屋の写真を全部破って捨てる」
「酷い! この外道め! 私のコレクションを何だと思ってるのだ!」
「ナマの僕を見れるし触れるでしょ! 僕が寝る部屋別にしてくれるんだよねっ!?」
「ああ、英雄が泊まる部屋には。この部屋とお揃いで私の写真を張って貰ってる」
「それもどうかと思うよっ!? ストーカー卒業するんじゃなかったのっ!?」
「卒業はした、これは過去の記録の有効活用だ」
「これもストーカー行為だよっ!!」
どっと疲れた英雄は、フィリアの勉強机と思しき物から椅子だけを借りようとして。
彼女にバルコニーに誘われる。
バルコニーと言ってもガラス張りの温室に様になっており、正式名称が気になった英雄であったが。
ともあれ、寒くなくて椅子があるなら大歓迎だ。
「英雄さえ良ければベッドにでも座って貰おうかと思ったがな。…………やはり落ち着かないか?」
「フィリアの性癖は受け入れるけどね? 流石に僕の写真だらけってのはちょっと……、僕らの部屋ぐらいにするか、せめて天井だけにして欲しいなぁ」
「ほう、天井は許してくれると?」
「もっと言うなら、この部屋の惨状は黙認するよ。だから僕が泊まる部屋の写真は剥がしてね? 君に夜這いかけたくなるから」
「ふふっ、英雄が恋人で夫で良かった。問答無用で剥がさないって信じてた」
「試されてた?」
「まさか、反応が気になってたんだ。――ありのままの私を見て貰いたくて」
「綺麗な事言ってるけど、僕をからかったんでしょ」
「うむ! 理解が早くて助かるな! では少し待っててくれ紅茶を入れさせる。話があるんだ」
そう言って彼女はバルコニーのテーブルセットの上にあったベルを鳴らすと、数秒ばかりで未来が入ってきて。
「お呼びでしょうかフィリア様」
「え、これ普通の鈴だよね? 外まで聞こえるのっ!?」
「いえ英雄様、鈴が鳴ると電子制御で使用人管制室に連絡が入るようになっていまして」
「ハイテクだ! 遊び心を忘れないハイテクだ!」
「母さんが聞いたら喜ぶ、これも母の案なんだ」
「…………僕の一族の事、言えないんじゃない君んチ」
「…………私もそんな気がしてきた。ああ、未来。紅茶を頼むお茶請けは必要ない」
「承りましたフィリア様」
「ところでフィリア、これって未来さん以外も呼べるの?」
「うむ、君の部屋も専属の使用人が誰か来る筈だ。だが遊ぶなよ? 彼らにも仕事があるんだからな」
「なるほど、対戦ゲームを持ってくるべきだったんだね」
「聞いていたか? 使用人と遊ぼうとするな、そしてそれは私を呼べ。――ああ、後で無線ランのパスコードを渡しておこう」
「至れり尽くせりだね、長期的に泊まる事があったら実行するよ。使用人全員参加で、負けたら罰ゲームのゲーム大会なんてどうかな?」
「クラスのノリを屋敷の者にまで要求しないでくれっ! 母がアレだから皆ノリが良いんだ! 参加してしまう!」
「マジでっ!? 君んチってば最高!」
何をしようかと今から考え始める英雄に、フィリアは甘く微笑んだが。
すぐに表情を引き締めて、彼の目を見つめる。
「――話がある英雄、聞いてくれ」
「真面目な話みたいだね、心の準備は必要かな?」
「いや、ただの心構えの話だ、だがとても大切な心構えだ」
「なるほど、聞くよ。どんな話だい?」
「…………姉さんとはまともに取り合うな」
「なんで? 君のお姉さんじゃないか。僕にとっては義理の姉になる人だし、それはちょっと」
「二人の為に言ってるのだ。英雄も理解しただろう? ――姉は変人だ、そして頑固者で……、私を偏愛している」
「見事なシスコンっぷりだったね、フィリアを愛する僕と気が合いそうじゃない」
「聞け英雄、私とて君に助けられたあの後。側に居て人生を捧げようと思っていたのだ……」
「重いけどありがと、今の僕にはその重さが丁度良いみたい」
「此方こそありがとう、だがな。小学生の私をあの土地から引き剥がしたのは……姉さんなんだ。姉さんが父と母を説得して私を強引にアメリカに連れて行ったんだ…………」
「よく戻ってこれたね」
「そこはロダン義兄さんのお陰だな、あの人との恋愛で私への執着が薄れ、結婚を期に帰ってこれたんだ」
「それが高校入学の時だったと」
「うむ、そうだ。私を愛してくれて、過剰に愛してくれる他は良き姉なのだが……。結婚して私への執着が薄れたと思ったのだがな……あの分だと、義兄さんがいなければ君は追い返されていたぞ?」
「これはロダン義兄さんに感謝しなきゃだねぇ……、彫刻家って言ってたけど。贈り物は何が良いかな?」
「それは後日二人で選ぼう、とにかく、姉とまともに話すんじゃない、受け流してくれ英雄」
フィリアの真剣な悩みに、英雄はにっこり笑って。
「うん、ヤダ」
「英雄っ!?」
「駄目だよフィリア、大事な相手と素直に話そうとしないのは僕の時と一緒じゃないか」
「君、それは理由の半分だな? 残りは何だ!」
「超楽しそう! ちょっと憧れたんだよ! 娘はやらん! 駄目なら駆け落ちします! って感じのシチュエーションに! 大丈夫さ! 話せば分かるって! 僕を信じてよ!」
「君は信じられても、姉さんは信じられないんだ!」
「くっ、これは止まらない時の英雄だ……っ! ならば賭けようじゃないか!」
「おおっ、イイネそれ! 何を賭ける? 僕が勝ったら義姉さんとちゃんと話し合って貰うし。一週間に一度、ラブラブバカップルデーを設けるよ!」
「待て英雄? それはいつもの日常と何が違うのだ?」
「え、違うでしょ。うーんと、えーっと…………あれ? もしかして僕達って、節度を持ったお付き合いしてない?」
「気付け、普通の高校生の恋人は同棲しないし。結婚が前提でもない。それに猫耳やら犬耳やらバニーや卑猥な下着を着せないと思うぞ」
「ああ、そうだよねぇ……すっかり感覚が麻痺してた、金銭的にも年齢的にもエッチなグッズや下着は手が出ないし。親の目とかあるもんね」
「だろう」
「じゃあさ、僕が勝ったら健全デートの日と作ろう! ペアルックじゃない服きて映画や遊園地行って、セックス無し!」
「………………その日は一緒に寝ても良いのか?」
「駄目だよ、健全な日なんだもん」
「くっ、ならば私が勝ったら。子作りを解禁してもらうぞ! そして君を私の虜にしてやる!!」
「うーん、安全日ならね。んでもってそれは君が安全に孕める日の事じゃないからね? 更に言うなら僕が負けたらって場合だからね?」
「了解した、つかぬ事を聞くが……君の妨害はアリか?」
「それをしたら、僕はフィリアと別れるよ?」
「今のは嘘だ! 聞かなかった事にしろ! そんな事になったら英雄を殺して私も死ぬ!」
「はいはい。聞かなかった事にするから、物騒な考えは止めようねフィリア」
「ふふっ、もっと頭を撫でてくれ。私は君に撫でられるのが好きなんだ」
「じゃあ僕の膝の上に来なよ、十分やったら交代で僕も撫でてね」
「勿論だ、私は英雄の頭をヨシヨシするのも好きなのだ!」
そして英雄の膝に移動しようとしたフィリアだったが。
「はぁい、我が娘。お楽しみの所を申し訳ないけれど、ちょっと良いかしら?」
「――っ!? 母さん!?」
「うぇっ!? フィリアのお母さんっ!?」
二人は闖入者に目を丸くしたのだった。
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