第25話 追いかけっこ



 校内チェイスは熾烈を極めた。

 隠れてみたゴミ箱は無惨に砕かれ、ロッカーはベコベコ。

 時に、校庭の二宮金治郎の像に同化してみたり。


「お助けぇえええええっ!!」


「おお。脇部君じゃないか、一局どうだね?」


「あ、校長先生、是非是非。僕が勝ったら今日こそ戸棚の高級チョコレート貰いますよ」


「私も参加させて貰おう、何をするんだ?」


「ケツバット将棋って言ってね」


「なんだそれは……?」


「這寄君も参加じゃな、今日は用務員さんも呼んでいるから総当たり戦と行こうかのぅ」


 時には。


「へーるぷみーーーー!」


「英雄ちゃんじゃないの、相変わらず騒がしいねぇアンタ」


「あ、食堂のおトメさん! 今日休みだよね、どうしたの?」


「ちょっと新メニューの試作をね、英雄ちゃんお食べなさい。男の子なら食べても晩ご飯はいるでしょう」


「食べる食べる! 僕、おトメさんの料理大好き!」


「ふむ、新メニューかそれは興味深い。何を作ったのだ?」


「おやフィリアちゃんまで、どうしたんだい? 鎧なんか着て、演劇の練習かい?」


「英雄が少しな」


「おやまぁ、ろくでなしの亭主を持つと妻は苦労するってね。さ、さ、フィリアちゃんもお食べ。今日は特性ゴールデンベリーソースのプリンさね」


「やった! おトメさんのゴールデンベリーソース料理には外れが無いんだ!」


「これは楽しみだな、おい英雄。あーんをしてやろう」


「もぐもぐ、美味しい! では僕もお返しに、はいあーん」


「青春さね。さ、他にも新メニューあるからたーんとお食べ」


 本当に、熾烈を極めた戦いだった。


「よぉ脇部! これから剣道部の三位先輩を射止めたサッカー部のベースボールエースを祝福(物理)するんだけど、お前も参加しねぇ?」


「剣道部って毎回それだよね? 男子はモテないの?」


「へっ、言うな……ウチの男子部員はチョンマゲ鬘が必須だからな。一部の歴女以外にモテないんだ」


「ダウト、そもそもその歴女ってBL趣味でしょ。君らの絡みを見てハスハスしてるだけでは?」


「言うな脇部……、それでも奴は顔だけは良いんだ……、部員の中に一学年に一人はガチ恋勢が出てくるぐらいはな……」


「そういえば、君も去年はそうだったっけ……。よし、今日は僕も参加するよ! モテ男を祝福(物理)だ!」


「おーい、お前等! 脇部も参加するって! 丸太持ってこい! 俺が羽交い締めしてる間だにくくりつけろ!」


「しまった罠かっ!! 誰の差し金だ!!」


「脇部、お前は楽しい男だが。行動力が有りすぎるのがイケないのだよ。姫君フィリアさんとくっつくとはゆるさん!!」


「その祝福(物理)私も参加しても?」


「誰か分からないが、その甲冑イエスだね。是非参加してくれたまえ女騎士様!」


「死ぬっ!? 僕、最大のピンチ!」


 結果的に、ここは俺に任せて先に行け! と伊良部野茂サッカー部の野球部エースにより難を逃れた英雄であったが…………。


(ま、不味いっ!? とうとう逃げ場が無くなった……っ!!)


 そう、遊びに遊んでフィリアの膝枕で三十分昼寝して。

 過酷な逃亡に、熾烈な逃亡を重ねてたどり着いた場所は。

 ――――屋上。

 逃げ場はフィリアが塞いでいる、飛び降りるには高すぎる、しかも二人以外には誰も居ない。


「観念しろ英雄っ!! もう逃げられないぞ!!」


「みたいだね、――フィリアもしつこいなぁ。そんなんじゃ男子の人気下がるよ?」


「君さえ好きで居てくれればいい」


「僕が君を好きだとでも?」


「違うのか? なら泣きながら君を殺し私も死ぬが」


「いや、好きだけどね。フィリアってば顔も声も体も抜群! 結構ノリ良いし、実はエッチな所が苦手なのも英雄ポイントかーなーりー高いよ」


「それで何故、私の好意を受け入れてくれないんだ?」


「だって愛情が重いし、ちょっと節度忘れて無い?」


「私の家に代々伝わる家訓を教えてやろう」


「何それ、ちょっとカッコいい!?」


「恋は戦争、強請るな勝ち取れ、札束で頬を叩いてでも勝利者になるのだ! とな。良い家訓だろう」


「フィリアの破天荒な行動理由が分かった気がするけど、それはそれとしてプライバシーの侵害だよね」


「訴えてみるか? 弁護士も裁判官も私が用意しよう」


「僕の敗訴確定だよねそれっ!?」


「ふっ、また一つ英雄に勝ってしまった……。学力、金、地位、名誉、そして美貌。女子力と性格もだ!」


「僕と女子力争って楽しい? あと性格はダウト」


「勿論楽しいとも! 無様に負ける君の姿にゾクゾクする! そして張り合ってくれるから私としても楽しくて幸せだ!」


「そうなんだよね、フィリアと張り合うのも楽しいんだよねぇ……」


「という訳で、この超優良物件が今ならなんとキスと抱擁一つで差し上げるぞ!」


「わーお、お買い得~~! じゃないよね? それ人生の墓場まで直通便だよね?」


「ああ、リニアモーターカーの最高級寝台列車だ」


「え、マジ? そんなのあるの!?」


「英雄、君が望むならな」


 会話と楽しみつつ、英雄は活路を探ったが無駄。

 屋上には誰も来ないし、こんな時に限って校庭には誰も居ない。


「さあ、そろそろ観念する時だな。大人しく私の旦那様になるのだ!」


「断るって言ってるのに、君もこりないよね」


「家訓は聞いただろう? 力付くでも君を勝ち取る」


「そう、――なら、こっちも最終手段を使うしかないな」


「最終手段だと? 下手な嘘をつくな。男が下がるぞ」


「ご生憎様ってね、これはフィリアの性格を熟知した僕だけの最終奥義。君は怯むしか無いね」


「よかろう、やってみせろ」


 フィリアは油断無く剣を構え、英雄はニヤリと笑いまずブレザーのボタンを外した。


「……うん? 何をやっている?」


「ちょっと待ってね。少し時間がかかるんだ」


「待て待て待て待てっ!? 本当に何をしているんだっ!?」


「ブレザーを脱いだら~~。ネクタイを外して~~、かーらーのー、ワイシャツをポイっとね」


「な、な、な、な、なっ!?」


「な? 涙が出ちゃう程セクシー?」


「何でそうなるんだ君はっ!? 何故脱いだっ!? ああっ、スラックスを脱ぐんじゃないっ! 靴下までっ!?」


「そしてこれもいらなーい」


「Tシャツを脱いだだとっ!? まだ行くのかっ!? ふぁ、あわ、はわわわわわっ、そこまで脱ぐのかっ!? み、見ていられないっ!!」


「と手で顔を隠してもさ、指の隙間からバッチリ見てるよね。首まで赤くなっちゃってカワイイ! さ、ご覧あれ僕のフィリア垂涎ボディ!」


「全裸!! 英雄が全裸になった!! 何を考えているんだっ!! 何処に振り込めばもっとセクシーポーズを取ってくれる!! いや嘘だ見てるだけで恥ずかしい! でも見たい! 私はどうすればいいんだ!」


「うーんこの、チョロすぎじゃないかなフィリアは」


 英雄は腰を前後左右に振り、ブラブラぶーらぶらほーれ扇風機とがに股でフィリアに近づいて。


「ゆ、ゆれっ!? え、ええっ。男の人とはあんなに……?」


「はい、隙アリ。おまえはそこでかわいていけ」


「名作を汚されたっ!? しかし私の欲望は満たされず乾いていきそうだっ!?」


「フィリアってば、意外と読んでるよね」


「君の蔵書だけだ! くっ、見事なり! 私の弱点を突くとは! さぞかし良い気分だろう! 笑うがいい!!」


「笑わないよフィリア。じゃあね。ああ、フィリアの荷物は何処に送れば――」


「はーいドーン! ここで伏兵、フィリア様の忠実なる右腕の未来さんです!」


「催眠ガスっ!? ~~~~きゅう」


 英雄が屋上の扉を開けた瞬間であった。

 そこにはメイドの未来が待ちかまえ、英雄を眠りの園へご案内。

 そして時を置かず、ヘリコプターが縄ばしごを下ろす。


「よいしょっと、男の子って感じの重さですねぇ。フィリア様、こんな事もあろうかとバックを用意しておきました。お手数ですが英雄様の衣服を回収してから登って来てください」


「相変わらず用意周到だな、英雄は頼んだ」


 そして三人がヘリに乗り込んだ頃、屋上には栄一郎達が到着して。


「英雄殿ーーーーっ!? 英雄殿が誘拐されたでおじゃああああああっ!? お前はピーチ姫かっ!?」


「茉莉ちゃーーん! 協力感謝ですっ! 報酬は後日郵送しますねーー!」


「あ、ああ。…………大変だなぁ脇部も」


「なに人事みたいに言っているんですセンセイ! 兄さんとの関係! フィリア先輩との繋がりも全部吐いて貰いますからねっ!!」


「ハンっ! 栄一郎ならいざ知らず、お前になんか言うもんかっての!」


「何さ!」「あんだぁ? ヤんのかオラァ!」


「安心しろ机兄妹! そして跡野先生! 次に会う時は私達の結婚式だ! 招待状を送るからな!」


 そしてヘリは何処かへ飛び去って。


「――茉莉。お前、あのメイドと知り合いだな? 全部洗いざらい吐いて貰うぞ」


「わ、わかった」


「兄さん! こんな時に盛らないでくださいっ!」


 栄一郎は茉莉の顎をクイっと、色気を出して見つめて。

 ともあれ、三人は英雄の追跡を再開した。


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