Ne.30『アスタキサンチンパワー、メイクアップと叫ぶエビ!』

根岸「闇夜にきらめく一筋の月光、大怪盗根岸、推参」


佐原「そしてマスコットの佐原くんも推参!」


根岸「……」


佐原「夜の闇に紛れて、音もなく降り立つはビルの屋上、くぅ~っ、これぞ怪盗だね! さあ今宵も盗みまくろう!」


根岸「ちょっと待って」


佐原「今回の依頼はこの高層ビルの最上階、たっぷり私腹を溜め込んだ金持ちからとある宝石、『シグマのデコ飾り』を盗み出すことだ! 根岸、準備はいいかい?」


根岸「いやちょっと待ってって」


佐原「メッセージカードかい? もちろん、先駆者に倣ってターゲットに送ってあるさ。ほらこれ『見つめるキャッツアイ』って書いてある!」


根岸「歌詞カード!? 最近見ないな」


佐原「物理的に音楽買わなくなったからね、仕方ないね。――まあ音楽関係の利権を取り戻せって依頼は来たことないし、いいんじゃない?」


根岸「ああ、うん」


佐原「さあ、行こうか大怪盗! 今日もレッツ盗み!」


根岸「語呂が悪い。というかちょっと待てって。……あんた誰だ?」


佐原「マスコットキャラクターの佐原くんさ!」


根岸「……えぇ……」


佐原「マスコットキャラクターの、佐原くん!」


根岸「おっさんじゃん!」


佐原「マスコットの佐原くん! キミの相棒!」


根岸「いやおっさんを相棒にした覚えは……」


佐原「今や! さくら!」


根岸「誰だよ」


佐原「あー、ジェネレーションギャップ? ――っていうかー、なんつーかー、まあほら、言ってみ? キミの相棒の特徴とか、だいたい私だからそれ」


根岸「知らないおっさんが自分の相棒なわけがない……」


佐原「いいからほらー、言ってみ、キミの相棒の特徴。どうせ私だよ?」


根岸「なんなのその自信……」


佐原「さあこいどすこい!」


根岸「……」


佐原「どんなヤツさ、キミの相棒」


根岸「……海老」


佐原「……海老……」


根岸「海の世界から来てる。海の魔物が宝石やら絵画に取り付いて人間を狂わせるから、それを海の王ポセイドンの命令で封印する使命をもった、海老」


佐原「……」


根岸「んで、親が海難事故で死んで、なんやかんやポセイドンに育てられた俺が、海老の不思議パワーで、魔物を封印する怪盗やってる」


佐原「あー、んー」


根岸「だから俺の相棒は、海老。――わかった? おっさんじゃないの」


佐原「おーけーおーけー、だいたいわかったエビ!」


根岸「なんか変な語尾が付き始めた!」


佐原「さあ根岸、変身するエビ! アスタキサンチンパワー、メイクアップと叫ぶエビ!」


根岸「ちょっとあの……」


佐原「どうしたエビ、いまさら怖気づいたとは言わせないエビよ!」


根岸「騒がしい」


佐原「エビっ!?」


根岸「とりあえず、あんたが関係ないおっさんなのはわかった、仕事の邪魔しないでくれ」


佐原「遠慮すんな!」


根岸「遠慮はしてない! ――ったく、どこ行ったんだシュリのやつ。あいつがいないと魔物を封印できないのに」


佐原「まあまあ」


根岸「まあまあ、じゃない、引っ込んでろ。無関係なんだから」


佐原「そうはいかない。私にも責任というものがある」


根岸「なんだ責任って」


佐原「……海老を、食べてしまった責任を取らなければならない」


根岸「……え!? なに!? 食べたの俺の相棒? え? ちょっと? マジ?」


佐原「ああ……、そうだ、私が食べてしまったのだ……」


根岸「えぇ……、ちょ……、えぇぇ……、どうすんのこれ」


佐原「だから責任を取って、私がキミの相棒となろう! あ! 相棒となるエビ!」


根岸「いやえぇ……、えぇぇ……、ちょっと待ってこれ想定してなかったわ。どうすんの魔物封印できないじゃん」


佐原「私が、後ろに回り込んで魔物を羽交い締めにしよう」


根岸「え? で?」


佐原「万事オーケーだ!」


根岸「何が? 何がオーケーなの?」


佐原「あ、万事オーケーエビ!」


根岸「いやそうじゃなくて!」


佐原「諦めるんだ。諦めて佐原くんを相棒にするんだエビ」


根岸「もう語尾も無理やり感すごいわ」


佐原「今頃キミの相棒はもう……、消化されてしまっているだろう。――お昼に食べた天ぷら蕎麦……、美味しかったぁ……、くっ、まさかあれが……、くぅぅ……」


根岸「あ、なにお昼!? 昼はあいつうちに居たな……。ってことはなんだ、無関係だその海老! 無関係な海老天だ!」


佐原「私だって無関係なおじさんだよ!」


根岸「そうだね! なんなんだこのおっさん! んで何でシュリはいないんだ!」



浮遊する海老「根岸ぃ~」


根岸「おおシュリ、なんだどこ行ってたんだよ……」


シュリ「蕎麦屋に捕まってたんだよ、あぶないとこだった」


根岸「……危ないとこだったんだな」



佐原「根岸っ、その海老は誰エビ!」


根岸「いやこれが俺の相棒」


佐原「いや私がキミの相棒エビ! つまりキミは騙されてるエビ! そいつは偽物エビ!」


根岸「本物出てきたのになんでこのおっさん引かないの……」


佐原「偽海老!」


根岸「伊勢海老みたいな……」


シュリ「ボクがエビではなくヤドカリの仲間だって見抜いたのか……、このおっさん、ただものじゃない!」


根岸「海老じゃないのかよ!」


佐原「つまり、海老である私こそがキミの真の相棒というわけエビ」


根岸「いや……、いや……、えぇ……?」


シュリ「根岸! だまされるな! 気をしっかり!」


根岸「お前自分のこと海老だって言ってたのに! 騙してたのはお前じゃんか!」


シュリ「根岸にヤドカリの気持ちなんてわかんないよ! ボクは海老になりたかったんだ!」


佐原「落ち着け二人共」


根岸「だからおっさんは何なんだよ!」


佐原「まだ気づかないのか」


根岸「え」


佐原「べりべりべりー」


根岸「顔が! マスクだったのか! 何のために!」


佐原「パパだよー」


根岸「父さん!?」


佐原「変装してお前を見に来たのだ、元気なようでなにより! しっかり活躍しているお前の姿も見れたことだし、私は海へ帰るとしよう、さらばだ!」


シュリ「屋上からハンググライダーで飛び去った……、元気だなぁポセイドン様」


根岸「あっちのほうが大怪盗っぽいな」




閉幕

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