Ne.27『ええい借金だ!』
佐原「追われているんだ! 匿ってくれ!」
根岸「……えぇ……」
佐原「根岸! たのむ、匿ってくれ! 一生のお願いだ!」
根岸「そんなこと言ったって……、えー、お前……、えー」
佐原「全財産やる! ほら! えっと……、332円! 惜しい!」
根岸「全財産しょぼいな! 小学生かよ!」
佐原「まあとにかく、匿ってくれ!」
根岸「いやだって、ここってお前、舞台の上だぞ。何にもない」
佐原「何にもないところに何かあるように見せるのがパフォーマーの仕事だろ! 仕事しろ! ほらお客さんたちにも、ここに何かありますよーって感じでパフォーマンスするんだ!」
根岸「えー、なんかもっともらしいこと言ってるけど……」
佐原「とにかく! 追われてるんだ! 匿って! はよ!」
根岸「小道具のひとつも無い」
佐原「そうか! こうだ! うつぶせ!」
根岸「それ実際に舞台とかステージ上でやるから見えにくくなって面白いやつでしょ。文字だけのここでうつぶせになっても丸見えだよ」
________________!
根岸「これでどうだ、って? たしかに線にはなったけど」
_________!
根岸「これでいける、って? いや何喋ってるかわかんないわそれ。っていうかなんでさっきと文字数違うの?」
佐原「ダメか!」
根岸「ダメだねぇ」
佐原「ああダメだ! 追いつかれる!」
根岸「何に追われてるのさ」
佐原「時間!」
根岸「匿っても無意味じゃないか」
佐原「そんなことない! 努力はきっと実を結ぶんだ! 俺は時間から逃げ切ってみせる! まずは努力の種を植えるところから!」
根岸「時間に追われてるって、仕事とか予定とかやること詰まってる表現だろ。逃げたらよけい追い詰められるんじゃないか?」
佐原「努力の種を持ってない! おやっさん、努力の種いっこおくれよ!」
根岸「誰がおやっさんか」
佐原「いいよじゃあほかの店いくから! へいジョニー、努力の種いっこおくれ!」
根岸「ジョニー……」
佐原「種がいっこ400円!?」
根岸「そもそも努力の種って買うものなの?」
佐原「ええい借金だ!」
根岸「思い切りがいい」
佐原「これで借金取りからも追われることとなった」
根岸「400円で動く借金取りよ」
佐原「仕事に真面目!」
根岸「真面目だなぁ」
佐原「これで努力の種を植えて、っと。よしオッケー。これで努力がそのうち実を結ぶだろう」
根岸「そもそもさ」
佐原「うん」
根岸「時間から逃げるのに努力も何もないだろう」
佐原「だが追われているんだ」
根岸「さっきも言ったけど、時間に追われる、って予定が詰まってるとか締切がギリギリとかそういう表現だろ?」
佐原「え!? そうなの!? 逃げ切れないの?」
根岸「逃げ切れるつもりでいたのか」
佐原「やればできる! 小学5年の夏休みの宿題から俺はまだ逃げ続けている!」
根岸「むしろまだ追ってくるのかそれ」
佐原「逃げる以外の選択肢がいつのまにかなくなった」
根岸「提出しようにも担任の先生と連絡取れなさそう」
佐原「ほら逃げるしかない。一か月前に部長に頼まれた書類もまだ手付かずだ」
根岸「仕事しろよ」
佐原「こんな……、こんな書類のコピー取るだけなんて誰にだってできる!」
根岸「他に任せる仕事ないのかな」
佐原「だから俺は部長からも逃げ続けるぜ!」
根岸「もう部長自分でコピーとってそう」
佐原「ああ洗濯物も溜まっている!」
根岸「うまく時間使えよ……」
佐原「でもまだ終わってないんだ、おゆうぎ会も!」
根岸「おゆうぎ会……?」
佐原「30年前のクリスマスが、どんどん近づいてくる! その日が来てしまう!」
根岸「遥か昔に通り過ぎてる……」
佐原「というわけで追われに追われているんだ! 匿ってくれ!」
根岸「立ち向かえ、処理しろ。洗濯しろ。コピーとれ」
佐原「完璧に処理しないと気持ち悪いじゃないか! 最初の町で買える武器防具は全部買ってからじゃないと次の街に行きたくないんだ!」
根岸「……」
佐原「ああ時間が追いかけてくる! 追われている! 助けてくれ!」
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根岸「……」
佐原「……」
根岸「なるほど」
佐原「っていう夢を見たんだ。追われる夢はなんかこう、ストレスがどうとか言うじゃん? 心配になっちゃってさ」
根岸「とりあえず洗濯はしようか」
佐原「してある。今日のシーツも看護婦さんが持ってったよ」
根岸「してあるのか、なんかやり残したこととかは?」
佐原「いや特にない。もう墓も買ったし、生前葬もした。ベッドの上であとは安らかにそのときを待つだけさ」
根岸「完璧じゃん」
佐原「完璧なんだよ。でもさー」
根岸「うん?」
佐原「追われてるんだよ。100歳まで生きて、みんなにお別れもして、大往生だよ、満足なんだよ。でも追われてるんだよ」
根岸「……」
佐原「死神に」
根岸「もう追ってないよ」
佐原「――」
根岸「追いついたよ」
閉幕
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