Ne.26『旅の目的でしょ? スタッフロール』

佐原「勇者よ、よくぞ参られた。まだここに来るのは時期尚早だが! この扉を抜け、向こうの世界へと飛び出したいと申されるか!」


根岸「え、あ、はい」


佐原「よかろう! 流石は勇者!」


根岸「ちょっと声、声が大きい」


佐原「我こそは、この扉を守護するものなり!」


根岸「あ、はい」


佐原「その名も、ドアマン!」


根岸「……ドアマン」


佐原「勇者よ!」


根岸「声が大きい……」


佐原「こんな夜更けに! よくぞ参られた!」


根岸「うん、認識はしてるんだね……、真夜中なんだよ……」


佐原「この扉は、夜には開かない! なぜなら! 扉の開く音が大変やかましいからだ!」


根岸「あんたの声が何よりやかましいんだけども……」


佐原「近隣住民からクレームが来たのだ! そのため、この由緒と伝統のある扉開閉の儀式も取りやめることとなった!」


根岸「世知辛い」


佐原「しかしこの扉を通りたいと申すか勇者よ!」


根岸「この人の声にはクレーム来なかったのかな……」


佐原「通りたいと申すのだな勇者よ!」


根岸「とりあえず、僕まだ何も言ってないんですよ。通りたいともなんとも」


佐原「ではなぜドアマンに話しかけた!」


根岸「たしかに!」


佐原「勇者よ!」


根岸「なんですか!」


佐原「声が大きい! 深夜ぞ!」


根岸「マジかよ……」


佐原「さてではこの扉を開く方法だが」


根岸「急に普通になった」


佐原「南東の神殿にある封印されし剣を開放するべく東の街へ向かいランタンを手に入れ付近の古城にて幽霊騒ぎを解決し石版のかけらを入手しそれを奪いに来る手合いに負けると川に落ちるので流れ着いた先で巫女と出会い神聖なる森深くにて祈りと巫女の命を捧げるのを先ほどのライバルが阻止しに来るのを退け巫女の死によって石版の封印が解け世界に散った石版の場所を巫女の魂が察知できるようになるので石版を集めつつ村の畑を荒らすおじさんを退治するも仲間の変態だと思われる道中で神の国の第三王子が仲間になるもこの時点で正体はわからず新宿駅にて二十時間彷徨うことにより駅員とフラグが立つので好感度をあげることで歌舞伎劇場への扉が開く前に巌流島へと向かい剣豪同士の決闘を仲裁し殿に認められる必要があるため船が必要となるのだが船大工が逃げているのでまずこれを集めるためにカジノで資金を貯め――」


根岸「句点!」


佐原「どうしたまだ全体の三分の一程度だぞ」


根岸「いっぺんに説明しすぎですよ! 時系列もよくわからないし」


佐原「イベント説明するNPCがこの世界に私ひとりしかいないんだよ!」


根岸「えぇ……、じゃあせめて、ひとつイベントこなしたらまた新しい話してくれるとか……」


佐原「そんなややこしいフラグ管理できるわけないだろう!」


根岸「嫌なメタさだ……」


佐原「あといちいち戻ってくるの大変だろう」


根岸「親切だなぁ……」


佐原「というわけで、カジノの外にはアンパン食べてる刑事がいるからこれに渡す賄賂のためにカジノで資金を貯めるのだが元手が無いのでカジノを徘徊していると紳士風の紳士に声をかけられるので怪しい店に売られそこで5年を過ごし汚れた身体で久しぶりに見た太陽はかけがえのない希望の象徴のように見えるんだなぁ……」


根岸「……」


佐原「……」


根岸「……なんの話でしたっけ」


佐原「さあ」


根岸「なんかポエムっぽくなったけど」


佐原「この扉を開けるんだろ?」


根岸「あ、そうだそうだ。そうだった。なんか先のイベント色々出てきてるけどロクなストーリーじゃないな……」


佐原「スタッフロールまで今やっとく?」


根岸「いやいやいや」


佐原「旅の目的でしょ? スタッフロール」


根岸「いやいやいやいや、違います。スタッフロールのために冒険するんじゃない。一応、勇者として魔王を倒しに行くって話、の、はず」


佐原「勇者っぽいイベント、全然ないのに?」


根岸「全然なかったですよね、驚くわ」


佐原「じゃあ続きな」


根岸「あ、まってください」


佐原「どうした、この扉の向こう側に行きたいのだろう、勇者!」


根岸「声が大きい!」


佐原「そのためにはまず! 南東の神殿に――」


根岸「最初っからはヤメて!」


佐原「勇者よ!」


根岸「なんですか!」


佐原「声が大きい! 深夜ぞ! 世界を護る者が村人の安眠も守れぬか!」


根岸「あぁ……、はい、すみません、気をつけます……」


佐原「というわけで! この扉を開くには!」


根岸「待って、待ってください」


佐原「なんだ!」


根岸「直近の情報だけください、結局のところ、この扉を開くにはどうすればいいのかって」


佐原「直近?」


根岸「なんちゃらってアイテムが必要だとか、そこだけでいいです。そしたらそのアイテム探すのが目的になるから」


佐原「なるほど」


根岸「正直、物語が始まったばかりで右も左もわからないんですよ。魔王を倒すってことだけ知らされてるけど」


佐原「なるほどなるほど」


根岸「というわけで、当面の目標にするので、この扉を開くにはどうしたらいいんでしょうか」


佐原「だーから、南東の神殿に--------------------------------------------------------------」


根岸「……」


佐原「--------------------------------------------------------------すると、この扉の封印が解ける」


根岸「うお聞き逃した! 4時間に及ぶ時系列のわからない物語を聞き逃した!」


佐原「もう一回はじめから話すか?」


根岸「えぇ……、いや……、えぇぇ……」


佐原「しっかりするのだ勇者よ!」


根岸「か、かいつまんで、どうしたらいいかだけ……」


佐原「魔王を倒せ」


根岸「……うん?」


佐原「マオウ、タオス、ココ、アク」


根岸「……」


佐原「おーけー?」


根岸「クリア後要素かここ!」


佐原「まだここに来るのは時期尚早だと申しただろう」


根岸「……いっちばん最初に言ってたわそういえば」


佐原「ちなみに、魔王を倒しただけではこの扉、実はまだ開かんのだ。他にも倒さねばならない敵がいるのだ!」


根岸「なるほど、魔王より強大な存在がいるのか」


佐原「魔王より厄介かもしれん」


根岸「どういうやつなんですかその、魔王より上位の敵って」


佐原「クレーマー」




閉幕

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る