Ne.25『というわけで、脳みそをもらう旅に出ます』

佐原「根岸のおっちゃん! オラ、旅に出る!」


根岸「……。えぇ……、えー……?」


佐原「旅に出て、オラも手に入れるんだ! それは大変な冒険だと思う、多くの困難が待ち受けているんだと思う。でも、仲間と一緒に乗り越えていくことで、いつかそこにたどり着くんだ!」


根岸「っていうか、お前、その格好。うちの畑のカカシでしょ……?」


佐原「素敵な帽子に木製ボディ、笑顔の楽しいナイスガイ! 誰が呼んだかもくもくモックン、天と大地と畑のもりんちゅ、根岸の畑のカカシとはそう、オラのことだ!」


根岸「もりんちゅって何」


佐原「守人」


根岸「……もりんちゅ」


佐原「ちょっと男子ー、しかしカカシよく喋るなぁとか思ってるでしょー?」


根岸「うちのカカシこんな喋るヤツだったのか」


佐原「カカシだって生きてるからね! 喋りもするさ!」


根岸「生きてたのかうちのカカシ。適当に作ったのに……」


佐原「お父さん! そういうわけでオラは旅に出ます!」


根岸「誰がお父さんか。んで何だ、旅って。うちの畑はどうなるんだ」


佐原「うっかりカカシの大冒険! 愉快痛快マジどんまい。うっかり森林火災でわるいやつらを殲滅だ!」


根岸「うっかり森林火災とかマジでヤメろ、迷惑すぎる」


佐原「しかしカカシうっかりさん、自分に燃え移って大惨事! しかしそこへ水を自由に操るリスが現れて! ……という予定の大冒険をする旅」


根岸「なにその旅……」


佐原「カカシいカカシには旅をさせろ、って言葉もありますし」


根岸「ないね。というかなんだ、うちの畑をほったらかしてどこ行く気だ」


佐原「魔女んとこ!」


根岸「どこよそれ……」


佐原「知らんけど、なーに、いつか見つかるさ! 仲間たちと一緒ならね!」


根岸「仲間はどこよ……」


佐原「旅の途中でこれから出会う! かけがえのないディアマイフレンズ!」


根岸「おぉ……、ポジティブー。一応聞くけど、魔女に会ってどうすんのさ」


佐原「脳みそもらう!」


根岸「……あー」


佐原「頭抱えてどうした! 熱か! それとも恋? ああオラの顔があまりにもイケメンビューテイフルファイナルセンセーションだからイグザクトリー?」


根岸「よく喋るなぁ……。そもそもお前の顔は俺が書いたんだろうに、雪だるま並のシンプルな造形だ」


佐原「シンプルイズデラックス!」


根岸「……?」


佐原「というわけで、脳みそをもらう旅に出ます」


根岸「いやまた、どうしてオズの魔法使いに影響受けちゃったんだよカカシが。いやカカシだからか?」


佐原「仕事中暇で、ずっと本読んでた」


根岸「仕事しろよカカシ!」


佐原「オラの存在感は半径4メートル以内にどんな鳥も寄せ付けねぇ! というかこれが限界」


根岸「狭いね。うちの畑守りきれてないね」


佐原「ノーガード戦法ってやつだな」


根岸「仕事しろよカカシ。半径4メートルでも動けるなら畑守れ」


佐原「もりんちゅ」


根岸「もりんちゅ……」


佐原「というわけで、脳みそをもらいに魔女んとこ行ってくる!」


根岸「えぇ……、もりんちゅの仕事は……」


佐原「仲良くなったカラスに引き継ぎしといた」


根岸「カカシが鳥と仲良くなってんじゃないよ」


佐原「っていうか、むしろ根岸のおっちゃん、おっちゃんも何か欲しいものあったら一緒に行こう!」


根岸「えー」


佐原「おっちゃんに足りなさそうなのは、そうだなぁ、脳みそ!」


根岸「俺もかい!」



それからそれから



佐原「というわけで、オラたちは旅に出たのだ!」


根岸「……魔女って日本のどこに居るんだよ。沼地とか?」


佐原「ほんとおっちゃんは脳みそ足りないな!」


根岸「カカシに罵声浴びせられるんだけどなにこれ」


佐原「日本の魔女はだいたい都市部にいるんだ。あと何故か小学生くらいの女の子が多い」


根岸「……どこ情報?」


佐原「ネットでアニメ定額見放題!」


根岸「お前っ! 畑で何してた!」


佐原「アニメ! 漫画! ゲーム!」


根岸「仕事しろよカカシ!」


佐原「半径4メートル以内は、オラのテリトリー」


根岸「狭いんだよ! うちの畑守りきれてないんだよ!」


佐原「ははは今なんて管理者もいねぇ」


根岸「……」


佐原「ははは」


根岸「あ、マジだ俺なにやってんだ……」


佐原「さあ張り切って魔女っ子を探すぞー!」


根岸「目的が変だ……」



それからそれから



佐原「根岸のおっちゃんは、魔女に会ったら何お願いするんだ?」


根岸「えー」


佐原「オラは、人間をみんなカカシにしてもらう。人間なんてみんなカカシになればいい」


根岸「旅の間に何があった……」


佐原「おっちゃんだって思ったろ、人間なんて、クズで卑屈でどうしようもなくて攻撃的で排他的で鬱で腐ってて元気で明るくみんなの人気者で食べると美味しい生き物だって」


根岸「……食べたの?」


佐原「特に警察はひどい」


根岸「ああ、まあ。都会のど真ん中をカカシ釣れた農夫が歩いてたらそりゃまあ」


佐原「まさか日に3回も職質されるなんて思ってなかった!」


根岸「お前ただのカカシのフリしてたじゃないか!」


佐原「そんなことも、いい旅の思い出だった……」


根岸「何まとめに入ってるんだ、魔女が見つかる気配ないまま半年経ったぞ」


佐原「魔女っ子が、魔女になってしまう!」


根岸「そういうもんなの?」


佐原「あとおっちゃんの畑もそろそろヤバイ」


根岸「もうとっくにヤバイよ。そもそもお前が居た頃からヤバイ」


佐原「オラはちゃんと仕事してたぞ!」


根岸「狭い範囲でな」


佐原「わかったよ、魔女に会えたらおっちゃんもカカシにしてもらう。これでいいだろ?」


根岸「これでいい要素がまったく見えない」


佐原「一緒に畑、守ろうぜ!」


根岸「魔女に会ったら……」


佐原「ん、うん、魔女に会ったら?」


根岸「普通のカカシもらおうかな……」



それからそれから



佐原「ふはは! そう、オラこそが、オラこそが真の魔女! ふはは!」


根岸「カカシぃー! 魔女に取り憑かれちまった! なんてこった!」


佐原「跪け、嘆け! あわれな人間どもよ! はははははは! さあ世界中のカカシをガンダムにしてやろう! これで世界は我々の、魔女の、カカシのものだ!」


根岸「もう……、俺の知ってるカカシじゃないのか……、もう人間は、農業ができないのか……っ! ちくしょぅ!」


佐原「オラの半径4メートル以内には、だれも近づけない! キサマらにはもう、どうしようもない!」


根岸「くそぉー! うちの畑がぁー!」


佐原「はははははは!」


根岸「……」


佐原(……ちゃん)


根岸「……え」


佐原(根岸のおっちゃん……)


根岸「頭に直接響くこの声は……、お前、元に……?」


佐原(おっちゃん……)


根岸「カカシっ!」


佐原(オラが正気を失う前に、ひとつだけ、どうしても伝えたいことがあるんだ)


根岸「……」


佐原(そもそも……、カカシいっこじゃ畑は守れねぇ)


根岸「たしかに」




閉幕

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