Ne.24『#10ってなんだ、針金の規格か』

根岸「安く買い占めて、高く売る、これだけでいいんだから楽なもんだわ……。このおもちゃの山が宝の山なんだよなぁ」


佐原「ホーッホッホッホ……」


根岸「こ、この声は!?」


佐原「そう、サンタクロースじゃよー、ホーッホッホ」


根岸「笑うせえるすまんかと思った……。サンタ? なんでこんな中途半端な時期に」


佐原「あわてんぼうなんじゃよ」


根岸「あぁ……、あわてんぼうのサンタクロース、クリスマス前にやってきた。って歌があったなぁ」


佐原「あれ実話」


根岸「あれが実話となると、サンタも実在することになるな」


佐原「グリーンランドに居るんじゃよ?」


根岸「あー、聞いたことある。そうだね、いるんだよね本物? ――目の前のこの人がそうとは思えないけど」


佐原「なんでじゃ! こんなにもサンタじゃよ! ホーッホッホ……。ほら袋もグリーン」


根岸「唐草模様の袋担いだサンタって見たことない。あとグリーンランドはグリーンじゃない」


佐原「細かいのぅ、だいたいサンタじゃよ」


根岸「だいたいサンタ……」


佐原「ホーッホッホ……」


根岸「……服は」


佐原「うち」


根岸「それは豆まきじゃん。そうじゃなくて、服はどうしたのって聞いてるの。サンタなんでしょ? せめてサンタらしい格好しろよ!」


佐原「だから、うち」


根岸「……家ってこと?」


佐原「あわてて出てきたから忘れてきたのじゃよ、ホーッホッホ……」


根岸「全裸!」


佐原「まあまあ、たとえすっぽんぽんでもワシがサンタクロースならそれでちびっこは大喜びじゃよ、ホーッホッホ……」


根岸「ちびっこは全裸のおっさんでは喜ばないだろ……」


佐原「ホーッホッホ」


根岸「サンタ要素を笑い方だけに頼りすぎだ! 全裸で袋担いでるだけじゃないか!」


佐原「オーッホッホッホ!」


根岸「お嬢様なの?」


佐原「おっさんじゃよ」


根岸「おっさんじゃん! おじいちゃんですらない! 全裸のおっさんだ! 事件だよこれ! 通報しなきゃ!」


佐原「愚か者!」


根岸「……怒鳴られた」


佐原「まあまあ、キミにもプレゼントをあげるから、警察だけは勘弁じゃよ」


根岸「買収しようとしてきた」


佐原「小さい子にプレゼントを上げたいだけなんじゃよ、サンタとして」


根岸「サンタを名乗る全裸のおっさんが子供にプレゼントを渡したいとか言い出す事案」


佐原「本物のサンタだってそうじゃん!」


根岸「本物は全裸じゃないし! 袋も唐草模様じゃない!」


佐原「いや、だから……、……あわててて」


根岸「あわててて全裸って、限度があるだろう……。あわてんぼうというより、忘れんぼうだ。いや忘れんぼうってレベルでもないか……」


佐原「あ! でもほら、プレゼントはあるから! ね!」


根岸「……」


佐原「子供ってこういうの好きでしょ? ね!」


根岸「……針金……」


佐原「ね!」


根岸「いや、うん、なんか小学生男子ならテンションちょっとあがる可能性はあるよね、針金。でも針金はいらないなぁ……」


佐原「えぇ……」


根岸「クリスマスの朝起きたら枕元に針金って、子供グレるぞこんなん!」


佐原「ダメすかー、#10っすよー?」


根岸「く、口調もめちゃくちゃだなもうお前。――#10ってなんだ、針金の規格か」


佐原「少年の心持ってるかなーって」


根岸「いやー、針金もらって喜ぶ年齢は過ぎたかなー。そもそももらっても喜ばないなぁ……」


佐原「えー」


根岸「えー、って」


佐原「もうないです」


根岸「……え、なに、プレゼント?」


佐原「はい、プレゼント、もうないです」


根岸「針金しか持ってこなかったの!?」


佐原「プレゼントじゃないものならまだありますけどー」


根岸「もう敬語になっちゃったよ。キャラ作りしっかりやろうよ……」


佐原「軍手とか、バールとか、工具ならもってます」


根岸「なんのために……」


佐原「日曜大工とか、してあげようかなって。プレゼントのついでに。こっそり棚とかつけておいてあげる」


根岸「謎のお節介だ……。別にサンタさんに求められてなさそう……」


佐原「えー」


根岸「えー、って」


佐原「じゃあサンタにはなにが求められてるんだよ! ふんがー!」


根岸「キレるなよ……」


佐原「あわてんぼうなだけじゃダメなのかよホーッホッホ!」


根岸「そのテンションでその笑い方は怖い!」


佐原「ちくしょー!」


根岸「うわ暴れ出した……、なんだこいつ……」


佐原「どたんばたん! どたんばたん!」


根岸「あわてんぼうで、忘れんぼうで、お節介で、勘違いで、暴れん坊なサンタだ……」


佐原「……」


根岸「……」


佐原「ふっ……」


根岸「なんだ。全裸のおっさんが急に落ち着いて」


佐原「愚か者!」


根岸「!?」


佐原「余の顔、見忘れたか?」


根岸「……」


佐原「……」


根岸「その顔、まさか! う、上様!」


佐原「不当な転売により私腹を肥やし、あまつさえ税務申告もしないなど言語道断! その罪、断じて許しがたい!」


根岸「なぜ俺が転売ヤーだと……」


佐原「最初に自分で言っておったわ、愚か者め!」


根岸「ぐ、ぐぬぬ……! もはやこれまでか……」


佐原「神妙にお縄につけい! これが余からのプレゼントだ!」


根岸「……針金……」


佐原「では余は他の子供たちのもとへプレゼントを配りに行ってくる。不当な転売はヤメて、今年はちゃんと確定申告をするのじゃよ、ホーッホッホ……」


根岸「ははぁーっ!」


佐原「ホーッホッホッホ! ではさらば!」


根岸「去っていった……。ノリで平伏したけど、なんだ上様って。サンタじゃないのかアイツ。――いやサンタでもないよなアイツ……」


佐原「サンタだと言っておるじゃろ!」


根岸「うわ全裸のおっさん戻ってきた!」


佐原「プレゼントが無いのを思い出した」


根岸「……針金と工具しか持ってなかったですもんね……」


佐原「貴様のせいだぞ!」


根岸「えぇ……、いやあわててて忘れて来たんでしょプレゼント」


佐原「貴様のような不届きものが買い占め値段を吊り上げるせいで、プレゼントが入手困難なのじゃ!」


根岸「とにかく語尾が安定しない」


佐原「というわけで、このおもちゃの山はもらっていくぞ、さらばだ! ばさー」


根岸「えぇ……、おもちゃが風呂敷でひとまとめに……、なにその風呂敷すごい」


佐原「ホーッホッホッホ!」


根岸「……あの唐草模様の風呂敷だけサンタっぽいといえばサンタっぽい。無限にプレゼント入るのかな……」




根岸「……」




根岸「あ、泥棒だこれ!」




閉幕

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