Ne.17『傘とかいう存在が古い、っていう根本的な問題』

佐原「いい加減にしろ!」


根岸「なんだ突然」


佐原「俺は言いたい、いい加減にしろと! 21世紀だぞと!」


根岸「言えたじゃん」


佐原「ほんとだ」


根岸「……」


佐原「……」


根岸「え? で?」


佐原「え? なにが?」


根岸「いや、何に対して『いい加減にしろ』なんだ」


佐原「ああうん、なんか叫んだらスッキリしちゃって。もういいかなって」


根岸「えぇ……、いや、いいならいいけど。なんだったのかは気になるわ」


佐原「えー、あー、じゃあ、言う?」


根岸「うん」


佐原「ありがとう」


根岸「あ、うん」


佐原「いや傘がね」


根岸「傘が?」


佐原「いい加減にしろ!」


根岸「うわびっくりした!」


佐原「いつまで前時代の遺物使ってるんだよ! 傘! こちとら銀色の未来になりそこねた上に車も空飛ばないし、イルカも攻めてこない、想像していたよりもずっと現実的な21世紀だぞ!」


根岸「未来的なことが何も起きてない21世紀だな」


佐原「なのにだよ? 傘! 科学とサイエンスがフューチャーでワンダホーなこのご時世に、傘! 今日も地下鉄で無口な他人と街に置き去りだ!」


根岸「置き忘れの話?」


佐原「笠の頃から変わったのなんて材質だけじゃねぇか! 妖怪が見たら笑うぞ! ハハハこいつら数千年前から変わってないなぁって!」


根岸「ずっと観察してたのかな妖怪。いやでも笠と傘は形状も違うだろ」


佐原「頭にかぶるか、手で持つかの違いしかない! あんなのはマイナーチェンジだよ、ヒワトリがニヨコになるようなもんだ!」


根岸「変な生き物出てきた。ヒヨコがニワトリになるようなもん? だとしたらそれマイナーチェンジですらない。成長だ」


佐原「いや、ヒワトリとニヨコはそういう妖怪」


根岸「聞いたこともない妖怪だ」


佐原「いいんだよ妖怪の話は! 21世紀だぞ!」


根岸「まあ21世紀だけども」


佐原「傘だよ傘。なんだあれ、成長止めちゃってるじゃん! 最近の若いサラリーマンかよ!」


根岸「最近の若いサラリーマンにもいろいろいるだろうから括るのはいかがなものか」


佐原「いやもうもはやそういう妖怪」


根岸「最近の若いサラリーマンとかいう妖怪がいるのか」


佐原「ああいや、妖怪の話はいいんだよ! 21世紀だぞ!」


根岸「最近の、とかいう形容詞つけておきながら。というか21世紀推しすぎだ。なってからけっこう経ったぞ」


佐原「だって傘があのままなんだもん」


根岸「まあでも、傘も軽く丈夫にはなってるんだろうし、じわじわ進んではいるんじゃないの?」


佐原「じわじわじゃダメだ。もっとがっつりえヴぉるぅしよんするべきだ!」


根岸「いま言えてた?」


佐原「えぼるーしょん」


根岸「まあいいけど」


佐原「そこで、作ってみました。新しい傘。新アンブレラ。略してシンブレラ」


根岸「ああなんだ、そういう流れなのか。文句言いたいだけなのかと思った」


佐原「文句を言うだけで、提案しないのはダメだろう」


根岸「立派な心構えだ」


佐原「というわけで、これです! じゃん! シンブレラ!」


根岸「……傘かな」


佐原「シンブレラは悪い継母とかいじわるな姉たちにいじめられてて貧乏でボロボロの服しか着れないんだ」


根岸「シンデレラだねそれは。というかなんだその傘は。……傘か?」


佐原「新しい傘! シンブレラ!」


根岸「骨組みしか無いじゃないか。……貧乏だからなのか?」


佐原「貧乏なのは冗談として、この傘は本物さ」


根岸「雨防げないでしょそれ、骨組みしかないのに」


佐原「実はこの骨組み、ガシャドクロの骨でできてて」


根岸「おとぎ話っぽいネーミング無視して妖怪でてきた」


佐原「妖気で雨を降らせないという」


根岸「傘としての出番は無いのか」


佐原「妖気で天気を陽気にするという」


根岸「……」


佐原「いかがかな?」


根岸「ダジャレじゃないか! っていうか妖怪の話はいいんじゃないのかよ21世紀として!」


佐原「21世紀だってダジャレはあるんだよ!」


根岸「あるだろうけども!」


佐原「わかってくれたか」


根岸「そもそもの問題として、『傘とかいう存在が古い』っていう根本的な問題が解決されてないじゃないか!」


佐原「えっ!?」


根岸「えっ、じゃないよ。何に怒ってたか思い出せ。そもそも傘に対して何に憤っていたのかを」


佐原「い――」


根岸「うん」


佐原「……い……、いい加減にしろ! なんだこの傘は! ダジャレとかアホか! 21世紀だぞ!」


根岸「おおそうそう、それだ、その怒りだ。思い出したか。21世紀にもダジャレはあるだろうけども」


佐原「この進化の方向は間違っている!」


根岸「うん、そうだね間違ってるね。骨組みだけだもんね。雨100パー透過するね」


佐原「うおお、傘め! ふきの頃から構造的には何も進歩していない! 現代のコロボックルかよ!」


根岸「あー、たしかにまあ、雨を凌ぐ方法としてはでかい葉っぱと変わらないのか傘」


佐原「なんだよコロボックルって! 妖怪なのか! ボックルなのかポックルなのか!」


根岸「なんでそこに食いついちゃったんだ」


佐原「あ、ああそうだな……。そうだな、妖怪の話はいいんだ。とりあえず傘の構造はもう古い! 新しい雨具を考えよう!」


根岸「合羽は?」


佐原「妖怪の話はいいって言ってるだろ!」


根岸「……ああうん、なんかごめん」


佐原「そこでだ! 新しい傘をもういっこ作ってきた! 21世紀の傘だ!」


根岸「シンブレラは」


佐原「あんなのオカルト!」


根岸「いやダジャレだったろ」


佐原「いいか根岸、もう妖怪なんていないんだ」


根岸「前はいたみたいな言い方」


佐原「時代は進んでいる。そして科学は発展し続けている。自動ドア、自動販売機、全自動洗濯機……、そう、世の中どんどん自動になってるんだ。なにしろ21世紀だからな」


根岸「20世紀後半にはあるぞ全部」


佐原「自動化の流れはそこかしこに来ている。だから……、どん! これぞ21世紀の新しい傘だ!」


根岸「……」


佐原「傘としての形状はそのままに、一本足で所有者と同じ速度で寄り添い歩く――」


根岸「妖怪じゃねぇか」




閉幕

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