Ne.16『見てください、人間の怪獣が口から吐瀉物を』
佐原「このたびは、佐原ツーリストをご利用くださいまして誠にありがとうございます。私、バスツアーガイドの佐原でございます」
根岸「わー、ぱちぱちぱち」
佐原「いらっしゃいませ、いらっしゃいませ」
根岸「ここがニンジャとゲイシャとハラキリの国か」
佐原「早速ですが、右手をご覧下さい」
根岸「……」
佐原「それが右手でございます」
根岸「ほぅ……」
佐原「……」
根岸「……」
佐原「ええでは、向かって右側、窓の外をご覧下さい」
根岸「おー、これが東京の街並み……」
佐原「あれが、故東京タワーでございます」
根岸「故」
佐原「ぽっきりと」
根岸「なんで真ん中で折れてるんだ。写真で見たのと違う」
佐原「鳥の怪獣に折られ、巣にされました」
根岸「おぉ……」
佐原「この国は、戦後より何故か多くの怪獣、宇宙人の襲撃を受けており――」
根岸「はー、あれが元は333メートルもあったのかー。パンフレットにはちゃんとした姿で載ってるんだな」
佐原「その度にすぐに修復されるという――」
根岸「へぇ、それはすごい。この国の職人は優秀なんだな」
佐原「戻っても強度もそのままなので、すぐに次の怪獣に折られたりします」
根岸「優秀なのかな……」
佐原「各種建築物は、実際はここ数年で建て直されたものばかりです」
根岸「なるほどなぁ。観光案内には書いてなかった! やはり実物を見て、現地で話を聞かないとわからないことはたくさんあるなぁ」
佐原「さっそくですが、空をご覧下さい」
根岸「……」
佐原「空でございます」
根岸「ほぅ……」
佐原「……」
根岸「……」
佐原「そのまま太陽のやや右あたりをご覧下さい」
根岸「眩しいな……。ん、なにか飛んでる」
佐原「蛾の怪獣でございます」
根岸「蛾の怪獣!」
佐原「そのちょうど真下あたりをご覧下さい」
根岸「真下……」
佐原「亀の怪獣でございます」
根岸「亀の怪獣!」
佐原「はいさらにその隣」
根岸「めっちゃいるじゃないか!」
佐原「アライグマの怪獣でございます」
根岸「かわいい!」
佐原「さっそく各種怪獣が、地球や人間を守ったり守らなかったりしつつ、街を破壊しております」
根岸「うわぁ……」
佐原「あ! 皆様ご覧下さい。3分程度しか戦えない人間の怪獣がやってきました」
根岸「人間の怪獣!?」
佐原「とまあこのように、この国は常に怪獣等の危機にさらされております」
根岸「人間の怪獣ぼっこぼこにやられてるぞ!」
佐原「ご安心を、反対側をご覧下さい」
根岸「反対側」
佐原「恐竜の怪獣がずんずんと迫っております」
根岸「街が! ずんずんと街が!」
佐原「恐竜の怪獣が口から必殺光線を吐き出しました!」
根岸「亀の怪獣が爆発四散した!」
佐原「とまあ、このように」
根岸「はぁー、すごい国だなぁ……」
佐原「しかし我が国も、無防備に荒らされるだけではございません!」
根岸「おおっ!」
佐原「見てくださいあれが――」
根岸「あれは映画で見たことある! 電車が怪獣に突っ込んで行くやつだ!」
佐原「有人在来線爆弾でございます! 敬礼!」
根岸「有人……?」
佐原「通勤ラッシュの時間帯ですから」
根岸「えぇ……。この国の会社員はこの非常事態でも出勤しているのか……」
佐原「ジャパニーズビジネスマンはいつでも24時間戦える覚悟で仕事に臨んでおります」
根岸「クレイジーだなぁ……」
佐原「そして、度重なる怪獣の出現により、もはや非常事態ですらないのです。本日は晴天で平日でございます」
根岸「これがこの国の日常……」
佐原「サラリーマンたちは電車ごと怪獣につっこみながらも、会社へと向かいます」
根岸「クレイジーだなぁ……。しかし、破壊されっぱなしじゃないか。つっこんだ電車もアライグマには効果はなさそうだし……」
佐原「あ! 見てください、人間の怪獣が口から吐瀉物を!」
根岸「嘔吐だ……、ただの嘔吐だ……」
佐原「とまあ、このように」
根岸「巨大ロボットとかはいないのかい? 怪獣はどうするんだ」
佐原「巨大ロボットはアニメや漫画の中だけの存在です」
根岸「怪獣はいるのに!?」
佐原「フィクションですよあんなの。巨大な人型兵器が戦うなんて」
根岸「おぉ……。じゃあ怪獣は、どうするんだ。暴れっぱなしなのかい?」
佐原「そこで国防軍の出番です!」
根岸「アーミーがいるんだな! じゃあ安心だ!」
佐原「ほらさっそく国防軍の戦闘機が!」
根岸「全然もう『さっそく』じゃない!」
佐原「次々と撃墜されていきます!」
根岸「ダメじゃないか!」
佐原「役に立つことのほうが少ないですね。ですがやられてもすぐにまた出撃するのが我が国の国防軍のすごいところです」
根岸「結局、怪獣はどうするんだ」
佐原「では私が行きましょう。デュワ!」
根岸「ツアーガイドが突然巨大化した! バスが! バスが! わあああ!」
佐原「私をご覧下さい」
根岸「うぅ……。バスが全壊した……。なんとか無事か。 はっ! ほかの乗客たちが!」
佐原「これがガイドの怪獣でございます」
根岸「誰か! 誰か助けてくれ! こんな道路の真ん中で放り出されて! 怪我人もいるんだ! 誰か!」
佐原「デュワ!」
根岸「ツアーガイドが横転したバスにつまづいた!」
佐原「デュワァァ……」
根岸「あぁ……、街がガイドの下敷きに……」
佐原「クレイジーでしょう?」
根岸「とんでもない国だ……。ニンジャとゲイシャとハラキリの国だと聞いていたのに……。怪獣の国じゃないか……」
佐原「いますよ?」
根岸「いるのか!」
佐原「忍者の怪獣」
根岸「やっぱ怪獣なのか!」
佐原「忍者の怪獣は敵なので、味方の怪獣に戦ってもらいましょう」
根岸「あ、ガイドが元の大きさに。バス破壊しただけじゃないか!」
佐原「それゆけ味方の怪獣!」
根岸「味方の怪獣もちゃんといるのか」
佐原「餌付けしていれば仲間になります」
根岸「おぉ……」
佐原「懐柔されているわけです」
根岸「……」
佐原「さあいけ、イルカの怪獣!」
根岸「おお! ……おぉ……」
佐原「……えぇと。ご覧下さい」
根岸「見てます。ピチピチ跳ねてます。街がえらいことに」
佐原「海獣でございます」
閉幕
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。